『プリパラ』10周年、普遍のキャラはどうつくられた? アートデザイナー・金谷有希子に聞く、創作の裏話

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2024年06月24日 13:00  リアルサウンド

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『プリパラ』10周年記念のロゴ。やはりリボンが前面に押し出され、重要な要素になっている。

■10周年を迎えた『プリパラ』


女の子向けのゲーム・アニメとして高い人気を誇った『プリパラ』が、2024年に10周年を迎えた。2014年に新たな『プリティーシリーズ』としてスタートした本作は大ヒットし、今でも新作グッズが発売され、様々なイベントが開催されるほど支持されている。また、今年7月には10周年を迎え、8月からは10周年を記念した展示会も開催される予定だ。


(参考:【写真】プリパラ、真中らぁらや北条そふぃなど金谷氏が生み出した人気キャラのイラストを見る 金谷氏のお気に入りキャラはどれ?


  ゲームの「み〜んなトモダチ!! み〜んなアイドル!!」というコンセプトが共感を呼び、プリチケというチケットを通じて友情を深め合う世界観も秀逸であった。そして、個性豊かなキャラクターたちのデザインも高い人気を誇る要因のひとつではないだろうか。


  主人公の真中らぁらを筆頭に、世代を超えて愛されるキャラクターをデザインしたのが、ゲーム会社「シンソフィア」に所属するアートデザイナーの金谷有希子である。10周年という節目を迎えた今だからこそ話せるキャラクターデザインのこだわりや見どころ、創作上の裏話などを聞いた。


■人気の出る作品を作りたい!


――『プリパラ』10周年おめでとうございます。Xでは今も関連ワードがトレンド入りすることが多く、ファンに愛されているコンテンツだとわかります。金谷さんはこれほどの反響は予想していましたか。


金谷:『プリパラ』は企画が立ち上がった頃からものすごくやる気で、絶対に人気のあるものを作りたいという強い意志で取り組んでいました。なので、願ったものが叶ったな、という感じです(笑)。


――ヒットした要因はどこにあったと考えていますか。


金谷:関わったみなさんが、それぞれの場所で素晴らしい仕事をしたおかげだと思います。一人一人が、絶対にヒットさせるんだと、同じ方向を向いていましたからね。アニメなどのメディアミックス展開がどんどん実現しましたし、玩具やグッズ展開も勢いがあり、フィギュアにもなりましたね。『プリパラ』は中心となる一社が推し進めていくというより、いろいろな方が盛り上げてくださったコンテンツだと思います。


――メディアミックスのなかでも、アニメはヒットしましたよね。


金谷:森脇真琴監督がキャラクターを深く愛してくださったので、ゲームとアニメの連動が上手くいったと思うんですよ。森脇監督はモノづくりに対する圧倒的なパワフルさがありましたし、ヒットしたのも頷けます。


■初の大仕事はチャンスだと思った


――金谷さんは、それまでにゲームのキャラデザを手掛けたことはあったのでしょうか。


金谷:入社後、『プリティーリズム』のゲームで絵を描いて、他の方にデザインを起こしてもらうことはありました。3DSで発売された『プリティーリズム・マイ☆デコレインボーウエディング』で“りんね”というキャラをデザインしたら、『プリティーリズム・レインボーライブ』のアニメに登場したんですよ。菱田正和監督が私の絵を見て褒めてくれていたと、当社のプロデューサーが言っていたので、絵をもっと頑張ろうと自信がつきました。


――そんな金谷さんが、『プリパラ』のキャラデザに抜擢されたきっかけは。


金谷:『プリパラ』の立ち上げの時に社員が案を出して、私が描いたらぁらのデザインが採用されたので、そのまま私が他のキャラも担当する流れになったんです。


――いきなり大きな仕事を任されて、責任重大だったのではありませんか。


金谷:当初はみなさんが思うほど、ビッグタイトル扱いではなかったんですよ。社内で開発に関わる人員もそこまで多くありませんでしたし。私は責任を感じるというよりは、当時、やる気に満ち溢れていましたから(笑)、これはチャンスだと思って食らいついたというところです。


■真中らぁらはこうして生まれた


――『プリパラ』のキャラは大人にも人気があり、ファンアートなども盛んですし、コスプレをされる方もいます。とはいえ、ターゲットは子どもですよね。子ども向けを意識してデザインした点を挙げるとすれば、どんなところなのでしょうか。


金谷:一言で言えば、子どもが“友達になりたい”と思うキャラを目指しました。社内でキャラのイメージについて相談していた時に、「友達になりたいキャラがいいんじゃない」という話が出て。「これだ!」と思い、デザインしたのがらぁらです。(南)みれぃや(北条)そふぃも、アートデザイナーの櫻井明香と「どんな子と友達になりたいかな」と話しながら考えました。


――『プリパラ』といえば、「み〜んなトモダチ !! み〜んなアイドル!!」というコンセプトがあります。コンセプトが決まる前から“友達”を重視していたのですね。


金谷:はい。友達になりたいキャラをデザインする姿勢は、『プリパラ』の4年間、一貫して守り、大切にしました。


――真中らぁらを例に、デザインがどのように決まっていったのか、具体的に解説していただけますか。


金谷:まず顔は、眉毛を離してちょっととぼけた感じを出し、目の色は海を思わせる吸い込まれそうなきれいな色にしました。目を見ただけで、きれいだなと思ってもらえるよう意識しています。顔周りの毛は、当時ショートカットが流行っていたので、顔周りにふわっとした髪を加えて、幼さや親しみやすさを表現しています。特にアホ毛は、親しみやすさが増します。前髪を斜めに流すことで子どもが憧れる大人っぽさを表現していますが、すべて流すと大人っぽくなりすぎてしまうと思い、端を少し戻しています。


■ツインテールとコーデのこだわり


――らぁらを印象付けるのは、ボリューム満点のツインテールですよね。


金谷:ツインテールは、単に横から結んだだけでは印象が弱く、主人公っぽくないと思いました。そこで、ポニーテールくらいの高さからツインテールが生えているデザインにしました。ポニーテールの溌剌さとツインテールのかわいらしさを融合させて、元気で明るい子、話しかけやすい子を表現しています。


――らぁらが着ている衣装(コーデ)もかわいらしいです。


金谷:肩ひものデザインは映画館で『タイピスト!』を見て、主人公の女の子が着ている服のデザインがかわいいと思って入れたんです。私は映画からヒントを得ることが多いんですよ。そして、腰の黄色の部分は当時ぺプラムスカートが流行っていたので、フリルを入れています。


――スカートにはストライプもありますね。色も三色あって美しいと感じます。


金谷:らぁらのストライプは櫻井と話しながら考えました。これも当時の流行ですね。色が交互に違うのは、ピアノの鍵盤をイメージしたんです。ちなみに、最初は太い一本線ではなく、二本と三本だったんですよね。ゲームの3Dモデルを起こすときには、忘れられてしまいましたが(笑)。


――お話を聞いていると、金谷さんのキャラデザの手法は様々な要素を足し算していく感じなのかな、と思うのですが。


金谷:いえ、私は足し算のデザインが得意ではなく、どちらかといえば引いていく感じだと思います。とはいえ、要素はたくさん入れましたね(笑)。理詰めでつくっている部分はありますし、こういう風に書いたらこう見えるよねと、狙ってデザインしています。


■会心の出来は、らぁらとファルル


――金谷さんはゲームやアニメよりも、映画や流行のファッションなどから着想することが多いのでしょうか。


金谷:そうですね。私はアニメやゲームも好きなのですが、ファッション誌のモデルや映画の女性など、現実の人を参考にします。だから、デザインした絵を振り返るとトレンドが反映されているのが特徴で、あの時はこんな服が流行っていたな……と感じることがあります。


――金谷さんが、ご自身で会心の出来と満足しているキャラは誰ですか。


金谷:らぁらとファルルですかね。ファルルは森脇監督にもデザインを褒めていただきました。らぁらとファルルの2人が関わったことでいろいろな話が動いた、物語上重要なキャラでもあります。ファルルのデザインは、はじめは難航した記憶がありますね。一度ボツになっているんですよ。ラブリーでお姫様系のキャラなのですが、もっとロボットっぽいデザインを入れてみようと提案がありました。


――かなり難しいオーダーですね。


金谷:ロボットとお姫様は両立が難しいと思ったのですが、ロボットのイメージをスチームパンク的な要素として落とし込めればいけるのでは、と考えました。ファルルの球体関節などにその面影がありますね。あと、デジタルっぽい要素を入れたいと思って、家電量販店のオーディオ売り場で様々な機器を見て、再生ボタンなどのイメージをドレスや胸のところに入れました。あと、らぁらもラブリーなキャラですが、ファルルは対になるラブリーを意識しました。らぁらは従来の音楽の要素、ファルルはデジタル音楽的な要素を盛り込んでいます。


――ファルルのデザインを見ると、金谷さんの苦労が垣間見えますね。もっともキャラデザで難しかった、デザインが決まらなかったキャラは誰でしょうか。


金谷:やはりファルルは大変でしたが、特別に時間がかかったキャラは、実はいないんですよね。タカラトミーアーツさんとやりとりを重ねながらデザインしていったのですが、みんな同じくらい、いくつもの工程を考えてできあがったと思います。


■『プリパラ』らしいデザインとは


――らぁらと一緒にアイドルグループ「そらみスマイル」を結成する、みれぃとそふぃも個性的なデザインですね。みれぃはカラフルでポップな感じで、そふぃはクールビューティーでゴスロリっぽい趣があります。


金谷:みれぃは、全体的に当時人気だった原宿系アーティストのイメージが結構入っています。あと、猫耳ヘアーがファッション誌で取り上げられていたので反映していますし、ポップさを表すためにサーカスのピエロの要素も入っています。そふぃは一発でキャラデザが決まりました。姫カットで、ゴスロリで、素直に王道なイメージで描いたと思います。


――3人はそれぞれ異なる雰囲気ですよね。アイドルグループの統一感を出すのは難しかったのではないでしょうか。


金谷:統一感を出す意味でリボンやストライプのモチーフを入れたり、当時流行っていたニーハイソックスを採用しています。ニーハイソックスは『プリパラ』のアイドルのシンボルになっているようですね。2021年に立ち上がった『アイドルランドプリパラ』の主人公、香田澄あまりをショートソックスにしたら、周りから「『プリパラ』はニーハイでしょ!」と言われたんですが、今はショートソックスが流行りなので、そこは押し切りました(笑)。


――ははは。常に最新の流行を取り入れてデザインされていると。先ほど、『プリパラ』らしさという話が出ましたが、金谷さんが考える『プリパラ』らしいデザインとはなんでしょうか。


金谷:既にお話した、“友達になりたい”と思うデザインがそうです。あとは、タイトルロゴにリボンが入っているので、リボンを大事にデザインしています。友達と友達を繋ぐのがリボンですからね。『プリティーリズム』の時は、プリズムストーンがハートの形でしたからハートが大事でした。そういったポイントを抑えつつ、流行を取り入れ、時代に合わせたデザインを心掛けました。


――個人的には黒須あろまの悪魔的なデザインがかわいいと思うのですが、ファンのみなさんにはそれぞれ“推し”がいると思います。金谷さんが好きなキャラは誰ですか。


金谷:みんな好きなのですが、強いて挙げるとすれば、ふわり(緑風ふわり)です。私は子どもの頃、ふんわり優しくて、おっとりしていて、動物と仲が良くて……という女の子が大好きだったんですよ。ふわりは小さい頃の私がきっと好きになっていたと思うし、小さい頃の私に向けてデザインしたキャラといえますね。


■女の子が主人公のゲームを作り続けたい


――現在、金谷さんはシンソフィアでどのようなお仕事をされているのでしょうか。


金谷:アートディレクションをする機会は増えていますが、絵を描く仕事が相変わらず多く、仕事内容は変わっていないですね。あと、採用にも関わっていますし、後輩にどう接したら成長しやすいかなど、気を配っているのは10年前と違っている部分かもしれません。


――これからどんな作品を手掛けていきたいと思われますか。


金谷:女の子が主人公のゲームを作り続けたいと思っています。私自身が子どものころからそういったゲームを遊んできましたし、そもそも女の子が主人公のゲームは全体の比率を考えるとまだ少ないと思っています。プレイヤーが自分自身だと思える子が主人公で、勇気をもって夢に向かえる作品を作れたらいいなと思っています。


――女の子が主人公のゲーム、確かに少ないかもしれませんね。ちなみに、ゲーム業界での女性の比率はどのくらいなのでしょうか。


金谷:はっきりとは言えませんが、アニメ会社と比較すると、作り手や責任者を見てもゲーム業界は女性が少ないと感じます。シンソフィアは多いと言われるほうですが、それでも全社員の半数にも満たない。私は女性の作り手が増えて欲しいと願っています。女性が半数いたら多様性が広がるでしょうし、決定権を持つところに女性がいれば、今までとは違った感覚の作品が生まれると思うんですよ。当社では新卒はもちろんですが、キャリア採用もやっているので、興味を持った方はぜひご応募いただければと。一緒にゲームを製作する仲間を募集しています。


――『プリパラ』に関わったことで、金谷さんの人生も変わったのではないでしょうか。


金谷:10年経って、「『プリパラ』大好きです!」と声をかけられる機会も増えました。もちろん私だけの手柄ではないのですが、みなさんにとって大事な作品になっているなと感じるので、関わることができて本当に良かったです。


――『プリパラ』をずっと応援してくださっているファンの方に向けて、メッセージをいただけますとありがたいです。


金谷:『プリパラ』をいつも気にかけてくださって、ありがとうございます。大好きという方も、全然知らないけれどこの記事を読んでくださった(笑)という方も、『プリパラ』はいつでもあなたのことをお待ちしています。この機会にぜひ作品に触れてみていただきたいですね。きっと、キャラクターたちがいつでも迎えてくれると思いますよ。


(文=山内貴範)


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