『関心領域』は「過去の話ではなく、現代を生きる私たちのこと」オンラインQ&Aイベント開催

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2024年06月24日 18:01  cinemacafe.net

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『関心領域』
ジョナサン・グレイザー監督の最新作『関心領域』のQ&Aイベントがオンラインで実施された。

アカデミー賞国際長編映画賞と音響賞、2部門を受賞した本作は、アウシュビッツ収容所の隣で幸せな理想の生活を送る一家の姿を描いた衝撃作。

この度、日本での大ヒットを記念し、6月21日の上映後に主人公ルドルフ・ヘス役を演じた俳優のクリスティアン・フリーデルと、音響を担当したジョニー・バーンがZOOMの画面上に登場し、オンラインでのQ&Aが実施され、観客からの質問に答えた。

登壇者の2人から「今日は日本の皆さんとこの映画についてお話できることが楽しみ」とにこやかに挨拶があった後、質疑応答の時間に移ると、映画を観終えたばかりの観客席からは多くの質問があがった。

「壁の隣から聞こえてくる収容所の音が怖かったが、だんだんとその音に慣れていく自分にも恐怖を感じました。あの音は観客が慣れていくように考えて作られたものなのでしょうか?」という質問に対し、音響のジョニー・バーンは「いい質問ですね。音は意図的に人が聞き慣れるように作られたものではありません。この不快な音にいつしか慣れていってしまうということは、私たちも編集作業中に気づいたのです」と明かす。

そして、「編集は何日もかけて行いました。前の晩に作った音の続きを翌日に作ろうとすると最初はうるさく感じるものの、1時間もしてしまえば慣れてしまう。慣れてしまうことで調整が狂わないように、毎日冒頭から音を聞きなおして、その日の作業を進めていきました。ヘス一家の慣習をまさに自分たちで実感していました。きっと私たちは“無意識のまま過ごすと慣れてしまう”ということを自覚して生きていくことが大事なんだという教訓を得ました」と興味深い経験を語ってくれた。

主演のクリスティアン・フリーデルには「はじめに脚本を読んだ時にどう思いましたか?」という質問が飛び、「非常に感心しました。まず、私はヘス一家が収容所の真隣に住んでいたことは知らなかったのです。その事実に驚いたと同時に、ジョナサン(・グレイザー監督)がこの作品で何を探求していき、何を発見することになったのかが新鮮な驚きでした」と言う。

そして、「最初にジョナサンから映画の話を聞いたのはパブでのこと。どんな可能性を秘めた映画になるのかとわくわくしました。そのあとに届いた初稿にも少しの情報しかなくて『サウンドデザインはこういう風にする予定』『ここでこんな音が聞こえてくる』というメモ書きのような情報ばかりでしたが、まさにこのストーリーを語るのにふさわしい演出方法だなと感じていました」とふり返る。

また、「撮影方法もユニークで、役者としても今までにないようなチャレンジになりましたし、忘れることはありません。マルチカメラシステムといって、通常のようにカメラマンがカメラを回すのではなく、無人のカメラが何台も隠されていて周りにスタッフがいなかった。だからこそ演技に集中することができ、ヘスという人物を掘り下げることができました。今振り返ってみても本当に素晴らしい体験だったと思っています」とほかにはない体験を熱く回顧した。

また「おふたりはアウシュビッツ収容所に訪れましたか?」と聞かれると、クリスティアンは「撮影中に初めて訪れました。ひとりの人間として揺さぶられるものがありましたね。その場所から言葉では言い表せない歴史を感じました。そして役者としても貴重な経験となりました」と語る。

ジョニーは「あの空間を訪れたのは大事な経験になりました。あそこには独特の音の響き方があるんです。固い床や壁から音が反響する。それを生身で体感することができたのはとても価値あるものでした。1年間ほど、記念館の協力を得てアーカイブ資料を入手して、収容所でどんなことが行われたかを研究しました。どの地点で何が起きたかという細かいことまで徹底的にリサーチして音を作り上げていったのです。このリサーチが音を作るうえで一番重要な作業になるのです」と音設計の重要なポイントを明かす。

世界中で大きな話題となり、現在日本でも興行収入3.5億円を超える大ヒットを果たしている本作。世界の反響についてクリスティアンは「これはジョナサンが本作を制作するにあたり、最初から意図していたことでもあるのですが、この映画は“歴史もの”ではありません。過去のお話ではなく、映画は現代を生きる私たちのことを映しています。劇中のヘス一家には、現代を生きる私たちと同じように安定した仕事、新しい家、立派な庭を持つことを望み、夢を持って生活しています。彼らの姿を見て、私たちは自分たちのことを見直さなければならないのです」とコメント。

続けて、「私たちも今非常に難しい時代を生きているわけですが、その中で一人一人がどのような決断を下して生きてくのか。ヘス一家の姿を通じて誰もが共感できる物語に仕上げたことがジョナサンの賢いところ。そしてそれがしっかりと人々の心に届き、国を超えて共感が生まれたからこそ、これほどまでに大きな反響があったのではないかと思っています」と映画が伝えるメッセージについて述べた。

『関心領域』は新宿ピカデリー、TOHOシネマズシャンテほか全国にて公開中。
『関心領域』© Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.






(シネマカフェ編集部)
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