肉弾戦がないのは海外進出のため? 「わんだふるぷりきゅあ!」の海外事情を考える

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2024年07月25日 18:08  ねとらぼ

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ねとらぼ

肉弾戦がない「わんだふるぷりきゅあ!」

 「わんだふるぷりきゅあ!」が絶好調です。


【画像】香港&台湾でのプリキュアの名称


 「戦わない」平和な作風も子どもたちに受け入れられているようで、売り上げも好調。「猫組(キュアニャミー、キュアリリアン)の変身アイテム玩具「PrettyHolicシャイニーキャッツパクト」も大好評で、6月の女の子向けのおもちゃの月間ランキング(おもちゃ情報net.)で1位、おもちゃ売り場の棚からも消えるほどの人気となっています。


 そう。今回のプリキュアは「戦わない」のです。


 「わんだふるぷりきゅあ!」はパンチやキックといった肉弾戦を一切せず、「抱きしめて浄化」する平和的な作風となっています。


 これはもちろん「友達であるどうぶつを傷つけることはしない」といった理由でもあるのですが、1つの側面として、この肉弾戦をしない作風は「海外展開」の拡大をも視野にいれているのでは、と自分は思うのです。


●プリキュアの海外事情


 2024年6月25日に開かれた東映アニメーションの株主総会で、株主からの質問事項に答える形で「プリキュアは20周年を迎え、あらためて海外に力を入れようと考えている」との経営者側の発言がありました。東映アニメーションとしては、ドラゴンボールやONE PIECE、セーラームーンといった海外での成功例もあり、それに続く形で「プリキュアシリーズ」もさらなる海外進出を考えているようです。


 2024年時点のプリキュアの海外事情を見てみると、シリーズにより異なりますが、東南アジア、中東、ヨーロッパ、南北アメリカなど海外30カ国以上で外国語吹き替え版が放送もしくは配信されているようです。


 中心となっているのはアジア圏。2020年以降、香港と台湾でプリキュアは「光之美少女」の名前で日本での最新作がテレビ放送されています。台湾ではケーブルテレビのチャンネル「東森幼幼台(YoYoTV)」、香港ではViuTVで放送されています。


 ちなみに「わんだふるぷりきゅあ!」は「美妙寵物 光之美少女」。キュアワンダフルは「美好天使」、キュアフレンディは「友愛天使」となっています。主題歌もメロディーは日本と同様で、歌詞だけがローカライズされたものになっています。


 韓国においても一部作品がケーブルテレビなどで放送されています。過去のWebインタビュー記事で「スター☆トゥインクルプリキュア」のプロデューサー・柳川あかり氏も「日本以外で一番人気なのは韓国」と発言しています。


 また、2023年に日本でも大ヒットとなった「映画プリキュアオールスターズF」も海外7カ国(タイ、ラオス、カンボジア、台湾、香港、マカオ+イタリアでのイベント)で上映されました。


 配信に目を向けると、南北アメリカでは「Crunchyroll(クランチロール)」がプリキュアシリーズを公式配信しており、最新作「わんだふるぷりきゅあ!」の他、一部の過去作も見られます(著者の調査では2024年現在は以下の10作品が配信されているようです)。


●クランチロールでの配信シリーズ


ふたりはプリキュア


Go!プリンセスプリキュア


魔法つかいプリキュア!


キラキラ☆プリキュアアラモード


ヒーリングっどプリキュア


トロピカル〜ジュ!プリキュア


デリシャスパーティプリキュア


ひろがるスカイ!プリキュア


わんだふるぷりきゅあ!


キボウノチカラ〜オトナプリキュア'23〜


 ただ、2024年7月に日本貿易振興機構(JETRO)が発表した、米国市場のアニメ事情をまとめたレポート「アニメ関連サービス・商品に関する米国市場レポート(2024年版)」によると、米国で人気のアニメは1位「Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba(鬼滅の刃)」、2位「JujutsuKaisen(呪術廻戦)」、3位「Hell's Paradise: Jigokuraku(地獄楽)」、4位「Oshi No Ko(【推しの子】)」、5位「Vinland Saga(ヴィンランド・サガ)」……と続く中、「女の子向けアニメーション」としては38位に「アイカツ!」が入っているものの、プリキュアシリーズはランクインしておらず、米国での認知度はまだまだこれからのようです。


 東映アニメーションのプリキュアの海外映像の売り上げも年々増加し続けています。2016年から2022年の6年で2倍以上(3億3000万円→7億1500万円)の規模となり右肩上がりで拡大。2024年現在の海外映像売り上げでは「セーラームーン」を超える規模となっています(2018年3月期決算:「セーラームーン」3億6700万円、「プリキュア」4億8600万円)。


●かつての海外展開「グリッターフォース」は苦戦?


 プリキュアは過去に米国に進出したこともありました。


 2015年、米国のブランドマネジメント会社「サバン・ブランド」が、「スマイルプリキュア!」の英語版ローカライズ作品「GlitterForce(グリッターフォース)」を制作。主人公・星空みゆきはエミリー、キュアハッピーはグリッターラッキーになるなどキャラクターの名前も変更され、敵キャラクターやストーリーの一部も米国の視聴者向けに調整されてシーズン1、2が放送されました。続編「ドキドキ!プリキュア」のローカライズ「GlitterForceDokiDoki」もNetflixで配信されました。


 しかし、一部では人気を博すものの、日本ほどの大きなムーブメントにはならず、2作が作られたのみで終了という形になってしまいました。


 「グリッターフォース」のPVや予告映像はまだGlitterForcのYouTubeチャンネルに残っているので、興味ある方は見てみてはいかがでしょうか。


●「戦わない」作風は海外を意識したもの?


 2024年現在、プリキュアの海外におけるテレビでの展開は韓国、台湾、香港といった「アジア圏」が中心となっています。


 欧米では、配信はあるもののテレビ放送では厳しいレーティングが設けられ、「子ども向けアニメーション」としては、女の子の暴力表現や、肌の露出、ミニスカートでの戦闘などが規制の対象になる例が多いようです。


 例えば、2016年の日本アニメーション学会第17回大会の基調シンポジウム「子ども向けアニメにおける少年、少女」において、東映アニメーションのプロデューサー・関弘美氏は、「女の子向けアニメは、ミニスカートで足を高く上げる事がNGな国なども多くあり、男の子向けアニメの半数のエリアにしか行っていない」と言及しています。


関 おかげで『ドラゴンボール』は50カ国以上に売れています。私が手がけた『デジモンアドベンチャー』をはじめとする「デジモンシリーズ」も60カ国以上で売れています。一方で少女もの、『セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』『キャンディ・キャンディ』などは、全部合わせても28〜30カ国止まり。どういうことかというと、みなさんもご存知なように女の子が主人公で、ミニスカートをはいて、足を高くあげてアクションをするという作品が宗教上絶対にNGである国が、世界中にたくさんあるんです。女性が目しか出せない、黒い頭巾を被らなければならないという宗教もあれば、女の子が男の子に命令するようなシーンがあるのはけしからんと言われる国もたくさんまだまだある。だから少女ものの作品というのは、これだけ日本のアニメが世界中に行っているなかで男の子ものに比べると半分ぐらいのエリアにしか行っていないのが実態。日本アニメーション学会 第17回大会基調シンポジウム「子ども向けアニメにおける少年、少女」※強調表現は筆者によるもの


 同様に過去のWebインタビュー記事で、「スター☆トゥインクルプリキュア」プロデューサーの柳川氏も「日本の子ども向けテレビアニメは、肌の露出があったり暴力描写があったりして、子供向け作品としては海外のテレビで放送しづらい」と言及しています。


 また、欧米の子ども向けテレビの規制については詳しく記された「NHK放送文化調査研究年報 45『子どもに及ぼすテレビの影響』をめぐる各国の動向」では、例えばカナダのテレビ番組のランク付けについての記載で、8歳未満の子どもの視聴可能対象は「攻撃的な場面はほとんど含まれない」ものとなっています。


 大人向けのアニメであればともかく、「子ども向け」として定義されるアニメーションとしては、女の子、特に児童に見える少女が、肌の露出や短いスカートで足を上げて戦う、パンチやキックをしたりされたり、というのはまだまださまざまな規制の対象になる国も多いようです。


 そんな中、「わんだふるぷりきゅあ!」の肉弾戦のない平和的な作風は、これまでは展開できなかった国にも積極的に販売でき、海外進出の大きなメリットになるものと思われます。


 かつて米国で作られた「パワーパフ ガールズ」が成功したように、そして何より「セーラームーン」の海外人気を見ても「戦う女の子」の子ども向けアニメーションの需要は欧米諸国にもあるように思われます。プリキュアシリーズもそこに続いていくと良いですよね。


●日本独自のビジネス形態も


 また、プリキュアを含む日本の子ども向けアニメーションの特徴の一つとして「アニメと流通の密接な関係」があります。児童雑誌で新キャラが発表され、アニメ内で新アイテムの登場と同時に、おもちゃ屋さんにも同じアイテムが販売されるといった「アニメ」「おもちゃ」「流通」が一体となり盛り上げていくムーブメントがプリキュアの強みです。しかし、現状では海外でその施策はとりづらく、どうしても「映像作品のみ」での勝負となっています。


 版権によりグッズ展開するコンテンツビジネスも今後の課題のようで、2024年の東映アニメーションの株主総会でも「プリキュアの展開でも、海外で国内と同じような施策をとれるよう検討したい」旨の発言もあり、今後の展開にも期待したいですよね。


●プリキュアチームに男の子がいるのも海外を意識?


 また、2022年以降のプリキュア作品の特徴の一つとして「男の子」の存在がクローズアップされるようにもなってきました。「デリシャスパーティプリキュア」(2022年)の品田拓海、「ひろがるスカイ!プリキュア」(2023年)の夕凪ツバサ、「わんだふるぷりきゅあ!」(2024年)の兎山悟のように、プリキュアと行動を共にするチームに必ず「男の子」が入っているのも、海外展開を意識している部分があるのかもしれません。


●「わんだふるぷりきゅあ!」を足掛かりに


 総じて、プリキュアは韓国、香港、台湾といったアジア圏での知名度および人気は高いことがうかがえます。しかし、欧米では子ども向けテレビアニメとしては「表現の問題」「テレビのレーティング」などもあり、配信により一部のアニメ好きには届いているものの一般の子ども層には「プリキュアを知ってもらう」段階であるようです。


 クランチロールにより一部の過去作も配信され、欧米での海外進出、認知の足掛かりとなっています。そんな中「わんだふるぷりきゅあ!」の肉弾戦のない平和的な作風は、これまでプリキュアが放送できなかった地域への展開を可能とし、「プリキュアという作品」を知ってもらうためにも重要な作品となっているのではないでしょうか。


(C)ABC-A・東映アニメーション


●著者:kasumi プロフィール


プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。


このニュースに関するつぶやき

  • 海外意識して海外に合わせて作るとか愚かだよ。海外の人が日本の寿司屋に来てさ、フライにした魚をパンに乗せてケチャップ付けた物が出てきたら萎えるだろ、美味しくても、そうじゃないってなるやろ
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