DUCATI加賀山監督が語った上位陣との差「準備してきたものが使えなかった悔しさがいっぱいある」/鈴鹿8耐

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2024年07月26日 06:10  AUTOSPORT web

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最終スティントで逆転され表彰台まであと一歩となる4位フィニッシュとなったDUCATI Team KAGAYAMA
 三重県・鈴鹿サーキットで開催された『2024 FIM世界耐久選手権(EWC)”コカ·コーラ” 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第45回大会』。7月21日に行われた決勝レースでは、ファクトリー仕様のドゥカティ パニガーレV4 Rを用いて出場したDUCATI Team KAGAYAMA(水野涼/ジョシュ・ウォータース/ハフィス・シャーリン)が、表彰台争いの末4位入賞を果たした。

 20日に行われたトップ10トライアルで2番グリッドを獲得したDUCATI Team KAGAYAMA。水野涼がスタートライダーを務めたが、ル・マン式スタート時にエンジン始動にトラブルが発生したことにより遅れを取り、7番手で1周目を通過する。

 その後水野の渾身の走りにより、5周目にはYART – YAMAHAのニッコロ・カネパとTeam HRC with Japan Postの高橋巧らトップ2台に追いつき、約5周に渡り3台でトップ争いを展開。水野は、Team HRC with Japan Post高橋に次ぐ2番手で25周を終えピットイン。ハフィス・シャーリンにバトンタッチした。

 この1スティント目について水野はこう話す。

「ファーストスティントでトップ争いをするのは初めての経験でした。スタートで遅れをとってしまったけれど、それによって逆に『追いつこう』とプッシュできたし、トップグループに追いついた時に、ペースに余裕があったので抜くことができました」

「ドゥカティの1年目で、後ろから追い上げて抜くところを見せられたのはよかったです。なので、ファーストスティントでの走りは自分の中でも今回の鈴鹿8耐でいちばん印象に残っていますし、結果的にあの時に出したタイムが 8時間の中での全体ファステストになったのでよかったです」

「ファーストスティントの後半に(高橋)巧さんが結構ペースをパーンと上げて前に出たのですが、最初の数周を振り返ると、巧さんは別にいつでも前に出られるけど出なかったように見えます。そういった8耐での駆け引きの経験が巧さんの方があるので、とても勉強になったし、やっぱりシチュエーション的にうまいなと思いました」

 シャーリンへ交代するピットインの際、またもやエンジンスタートがうまくいかず、始動に10秒ほど時間がかかったドゥカティ。7番手までポジションを落とすものの、シャーリン、そしてその後の水野の好走により、3スティント目には3番手にまで順位を回復した。

 ここから最終スティントまで3番手をキープし、4番手を走るヨシムラSERT Motulがライドスルーペナルティを受けたことも相まって表彰台は確実かと思われた。

 だが残り約30分となったところで、燃費走行によりピット作業を1回減らすことに成功していたヨシムラSERT Motulの渥美心が、最終スティントを担当したシャーリンをパス。DUCATI Team KAGAYAMAは4番手となり、そのまま4位で19時30分のチェッカーを迎えた。

 この最終スティントについて、シャーリンは「たくさん走ったから、最後のスティントでは脱水症状になってしまった。それでもなんとかマシンをチェッカーフラッグまで届けられたよ」と振り返る。

 ファクトリーマシンを使用し、本国イタリアのファクトリーのもとで、鈴鹿8耐初参戦を果たしたDUCATI Team KAGAYAMA。結果は表彰台には届かなかったものの、ポディウム争いの末トップと1周差、3位とは同一周回の219周で4位入賞。この結果を、加賀山就臣監督はこう語る。

「完走できた、そして良いレースを展開できた喜びはもちろんあります。ただ、表彰台争いをしていたのだから、結果については欲が出てしまいます。表彰台にあと1歩届かなかったのがすごく悔しい」

 表彰台に届かなかった理由について、監督とライダーが口をそろえて話したのはピット作業にかかる時間だ。DUCATI Team KAGAYAMAは、トップ2であるTeam HRC with Japan PostとYART – YAMAHAと同じ8回ピット作業を行った。

 だが、ピットインの合計時間はTeam HRCが約5分39秒、YARTが約5分43秒であったのに対し、DUCATI Team KAGAYAMAは6分56秒。1回に平均ではTeam HRCが42.373秒であるのに対し、DUCATI Team KAGAYAMAは52秒と、1回のピットストップで約10秒、そして全体では1分17秒の遅れをとった。

「ドゥカティ パニガーレV4 Rはスプリントでは世界一のバイクだけど、耐久に関しては必要なものが何もついてない、むしろ全部排除されているような、ひたすら速く走るための車両でした。なので、それを鈴鹿8耐仕様にポテンシャルを壊さずに作り変えるために、2回のテストでたくさんのパーツを作って試して、レースに挑みました」

「タイヤのクイックチェンジなど耐久仕様に作り替えたものの、いくつかをレースウイークに入ってから、リスクを考えて急遽使わない選択をしました。大きなトラブルを出すぐらいだったら、多少遅れても走りきる方を優先したんです」

「結果的にレース中にピットワークが平均で10秒近く遅くなってしまいました。それが原因でライダーに無理をさせたし、表彰台を逃した最大の理由だと思います。せっかく準備してきたものが使えなかった悔しさがいっぱいある」と加賀山監督は説明する。

 タイヤのクイックチェンジシステムとは、EWCクラスの車両でタイヤ交換の際に使用が許可されているパーツで、タイヤ交換のスピードに大きな違いをもたらす。DUCATI Team KAGAYAMAはこれを、準備はしていたものの本番で使えなかったのだ。

 また、水野によると、走行順の作戦を途中で変更したことによる影響もあったそうだ。

「順番的に僕が1、3、5、7と4スティント担当する予定でした。8耐では大体半分の4時間ぐらいでレースの流れが決まるので、その最初の4時間が大事だと考えたんです。作戦通り、僕が1、3スティント目を走りました。そこまでは作戦通り」

「ただそうすると、スティントの間は1時間です。1時間とは言っても準備とかをしていたら全然時間なくて。自分の2スティント目はちょうどいちばん暑い時間だったので、全身がつってしまいました。それが原因でペースが落ちてしまったので、急遽1、3、6スティント目に減らしました。それは自分のフィジカル面の強さがなかったのもあります」

 酷暑の中でのレースとなったこともあり、チーム内最速であった水野の担当スティントを減らさざるをえなかった。

 そんな水野は結果について、「最終的には離されてしまいましたが、最終スティントまで接戦で表彰台が見えていただけに悔しいです。2位と4位はいちばん悔しい順位なんで、3位よりもよっぽど悔しい。掴みかけていたから余計に本当に悔しさしかないですね」と悔しさを滲ませる。

 たらればになるけれど、と前置きした上で「ピット作業が1分半早かったら、単純計算では3位になれたんじゃないでしょうか」

「まだ実績がなくて何が起きるかわからないバイクメーカーで、チームとしても1年目、ライダーもそうです。まだ臨機応変にできない部分がどうしても今年はありました」

「土壇場、土壇場でやっていたレース結果がこの4位だったと思っています。それは逆に言うと改善できなかった部分ではありますが、まわりを見るとピット作業もそうだし、準備はもっとできたかなと思います。ライダー個人的にももっとフィジカルが必要だったし、負けた要因はいっぱいあります」と反省点を挙げた。

 ただ、今年はドゥカティのファクトリーチームとしてDUCATI Team KAGAYAMAが鈴鹿8耐、そして耐久レース自体に出場する初めての年だ。下馬評では完走は難しいという見方も多かった中で、ほぼマシントラブルなく完走、それも4位入賞。結果に驚く人も多かったはずだ。

 加賀山監督は「パニガーレV4 Rという車両が8時間を走りきって4位でゴールできたことに関してはすごく嬉しい。日本の皆さんに耐久でもちゃんと完走できるポテンシャルがあるんだとアピールできたかなと思います。スピードに関しても、水野たちライダーが頑張ってくれたので、魅せられたと思います。予選ではポールポジションは獲れなかったけど、決勝の最初ではいいバトルもできました」と語る。

 初年度なりの反省点や改善点は多かったものの、マシンの耐久性やスピードなど、マシンのポテンシャルは大いに実感できたようだ。

「それでも終わってみれば悔しいが勝ってしまいます。あのパーツが使えていれば、あのピットワークのパーツが使えていれば、もっともっと良い戦いができたのになと、いう反省の方が大きい」

「ライダーも、水野はスピードをガンガン見せてくれたし、全身が痙攣するまでセッションで追い込んでくれました。ハフィスもピット作業の遅れを取り返すために1.5セッション連続で走ってくれたせいで、最後は脱水症状でぶっ倒れる状態まで追い込んでくれた。そこまでやってくれたライダーたちには感謝しかないし、土曜日の晩、朝まで寝ずに働いてくれたメカニックたちにも感謝しかないレースでした」

「来年の目標はもちろん今年を超えること。それから、来年はもう鈴鹿をドゥカティ一色に、ドゥカティ祭りにしたいです。『黒船襲来』とか言っていますけど、来年はそれが『赤船襲来』に変わるときだね」

 エースライダーとして期待を一身に背負って走った水野は最後に2024年の鈴鹿8耐を以下のように振り返った。

「終わってみるとよく8時間走りきったなっていうのが正直な感想。決勝中大きなトラブルもなかったし、転倒もなかったし、それこそバイクも初めてバイク8時間走りきったので。走りきれるかもわからない状態でのレースだったから、そこは自分たちの第一目標だった完走は達成できました」

「本社から来たマネージャーのパオロ・チャバッティさんがこの現場の空気感を肌で感じてくれました。これは大きな意味があることだと思います」

「リザルト上だけで見るのと違って現場に来て、今回相当パオロさんも感じた部分があるようです。チーム全体として、メーカーとしてもやってかなければいけない部分が大量に見つかった8耐にはなりました。そういった意味では、全体的にプラスなのかなと思います」

「この経験をできたことが自分にとってはすごく良かったなと思うし、ライダー人生的にもすごくいい刺激になりました。自分たちはまだ全日本ロードの後半戦があるので、この悔しさを全部ぶつけようと考えています。鈴鹿8耐に関しても、次は『もう』1年後なので休んでいる暇はないし次は勝ちたい」と、リベンジを誓った。

 ハフィス・シャーリンは「僕たちはとてもうまくやったと思うよ。でも、これはドゥカティのデビューレースだった。まだまだ経験が必要だし、他のチームと比べて、いくつかの点では大変だった。でも、ここから学んで改善していけるし、もっと強くなれるはず。トップから1ラップ差だからね」とコメントした。

「1分半ピット作業で縮められていたら220ラップに届いたかもしれないね。でもこれはレースのひとつの側面だし、今はさまざまな新しいことすべてを学んでいる最中。だからトップ5でゴールできたのはとても嬉しいよ。僕のリアルなターゲットだったからね。もちろんポディウムに乗れたらボーナスだったけど、それでもとても嬉しいし、ここに戻って来られたことも自分にとっては大きなことだね」

 そしてジョシュ・ウォータースも「昨年は予選でぶつけられてレースを走れなかったから、今年こうやってドゥカティのバイクに乗って鈴鹿8耐に戻ってこられたのはファンタスティクだよ。8時間のレースは、ドゥカティファクトリーにとって初めてのレースだったのにポディウム間近のポジションまで行けた」と話す。

「耐久は全部が順調にいくものではないし、その中で他のファクトリーチームと戦う必要があった。元々耐久用のパーツは存在していなかったし、水曜日にはトラブルもあった。ドゥカティファクトリーのサポートも、まだ完璧ではなくてセミファクトリーのようなものだった。それを考えると最初の年でトップ10に、さらにトップ5に入れたことはすごいと思うよ」

 ドゥカティファクトリーはまだ耐久レースの世界に足を踏み入れたばかり。今年の良かった点、そして逆に見つかった改善点を活かし、本国イタリアで開発を進めていくことになる。来年の鈴鹿8耐では表彰台、そしてさらにその上を目指し戦う姿を見るのが既に楽しみだ。

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