土屋鞄のランドセル、こだわりは「大人用カバンと同じ目線」 - 西新井工房を見学してきた

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2024年07月29日 18:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
丈夫なつくりと品格のあるデザインで、世代を超えて愛されている土屋鞄のランドセル。創業時から変わらない品質を実現しているのは職人による手作業だ。東京都足立区の西新井本店に併設された西新井工房で、同社のものづくりを追ってみたい。


○土屋鞄のランドセルづくり



クラシカルなランドセルのみならず、カバン、財布、小物など皮革製品を中心としたさまざまなアイテムを企画から製造・販売・修理まで一貫して行っている土屋鞄。その品質の高さと品格のある佇まいは多くの人を魅了している。その源泉にあるのが、「時を超えて愛される価値をつくる」という創業時から変わらない思いだ。



創業は1965年、子どもたちの成長を支えるランドセルから始まっている。工房が併設されている西新井本店で、土屋鞄の原点であるランドセルづくりの様子を伺うとともに、そのこだわりについて聞いてみたい。


○大人のカバンと同じ目線で"本物"を届けたい



「土屋鞄は、美しく品格があり、6年間安心して使っていただける丈夫なランドセルを目指しています」



西新井工房の工房長を務める鈴木健太さんは、土屋鞄のランドセルづくりのこだわりをこのように話す。多くの場合、ランドセルは子どもが初めて手に入れる自分だけのカバンだ。だからこそ、大人のカバンと同じ目線で"本物"を届けたい。これが土屋鞄の信念といえる。



「天然の皮革を使っている部分が多いので、どうしても革の特徴として歪みが出やすいのですが、そういう歪みを一つひとつの工程で解消しながら、製品に仕上げたときに歪みなくまっすぐな箱型のランドセルになるようにしています」と鈴木さん。


その基本的なスタイルは低学年から高学年まで使っても飽きのこない伝統的なランドセルで、近年人気の刺繍なども入っていない。これが土屋鞄の品格の高さにもつながっているのだろう。



土屋鞄のこだわりがとくに表れているのが"手縫い"の部分だ。強い力のかかる上下の肩ベルトには太くて丈夫な糸で縫われている箇所があり、ここはいまだにミシンではなく職人の手縫いで仕上げ、強度を上げているという。また金具には革の当てを付け、子どもに直接当たらない工夫も施されている。


○自然をモチーフにした色づくり



「大人のカバンと同じ目線で"本物"を」という思いはデザインにも表れている。ランドセルといえばピカピカとした光沢のある製品が多いが、土屋鞄のランドセルはマット仕上げの革を使用した落ち着いた色調が主流だ。自然をモチーフに色作りをしており奇抜なイメージにならないため、部屋にもなじみやすく「土屋鞄ならパステル系を選んでもいいよ」と言う親御さんもいるという。


土屋鞄で人気があるのは、かぶせ裏に華やかなアートがデザインされた「アトリエ」シリーズ。この2〜3年はファッションブランド「ミナ ペルホネン」とコラボしており、とくに女の子はこれを見ると駆け寄ってくるそうだ。


ちなみに、近年女の子に人気のカラーは、定番のレッド、ブラウンのほか、ピンク系、パープル系、水色系など。男の子はブラック、ブラウンのほか、グレー系、ブルー系が好まれているという。

○現代に合わせたアップデート



伝統的なスタイルと品格のあるデザインを踏襲しながらも、学習教材への対応、使いやすさへの工夫など、細かな点は日々アップデートされている。



例えばサイズの変更。教科書やノートがA4サイズに変化したこと、GIGAスクール構想でタブレット端末の持ち運びが一般的になったことなどを受け、速やかにランドセルをサイズアップしている。



土屋鞄と言えば皮革素材が思い浮かぶが、近年のサイズアップに伴い重さや背負い心地が変わったことを受け、軽量化への取り組みも進めているそうだ。現在は天然皮革と人工皮革の比率は半々くらいになっており、背中のアテによりクッション性の高いものを採用したり、左右に動く背カンを導入したりして、重量感を軽減する工夫も行われている。



また一部のモデルでは、かぶせ裏にある時間割入れがなくなった。これは昨今の小学校では一週間の時間割が固定されていないことが多く、時間割自体がタブレットにデータで送られてきたり、クリアファイルに入れて使い分ける子どもが多かったりするためだという。また前ポケットを大きくしてマチ付きにしたり、ポケットの中にポケットの中に、家の鍵などを取り付けられる金具が追加されたりもしている。


○子どもたちの元にランドセルが届くまで



土屋鞄のランドセルは全部で150以上ものパーツの組み合わせでできている。細かく見ると300を超える工程があるが、大きく分けると10工程に分かれるという。



1工程目は「革の型入れ」だ。選び抜いた素材を一枚一枚じっくり吟味し、革の質やクセを見極めるところから始まる。革の傷は丁寧にマーキングされ、革の弱い部分を避け、強い部分を使うことで丈夫なランドセルになるわけだ。



2工程目は「革の裁断」。抜き型を置き、25トンの圧力をかけられるプレス機で革を裁断していく。キズやシワを避けながら裁っていくため、一枚の皮がそのまますべて使われることはない。


3工程目は「のり塗り」。はけを使ってのりを丁寧に塗り、素材同士を貼り合わせる。正確性と速度が同時に求められる作業だ。ここで貼り付けた上からミシンをかけ、より丈夫なパーツを作っていく。



4工程目は「肩ベルトづくり」。小さなパーツをいくつも組み合わせながら、大きなパーツにしていく。使用されるのは「腕ミシン」と呼ばれる、台座のない特殊なミシン。ランドセルの肩ベルトは、子どもの狭い肩幅でもずり落ちないようにカーブしているので、繊細な作業が求められる。その後、専用工具で縫い終わった肩ベルトにピンを通すための穴が開けられる。

5工程目は「前胴づくり」。前胴とは、メインコンパートメントの背中に当たらない方の仕切りと土台となるマチの部分を指す。この工程のゆがみは全体の出来を左右するため、非常に大事な工程だ。


6工程目は「背胴づくり」。背胴とは、メインコンパートメントの背中に当たる方だ。クッション素材をやわらかい牛革で覆うことで、長時間背負っても疲れにくいランドセルができる。


7工程目は「組み立て」。ここまで作ってきた各パーツをしっかりと組み合わせ、ランドセルの形を作る。



8工程目は「菊寄せ」。菊寄せとは、ランドセルの角に補強のための革をかぶせ、"ひだ"のようによせて花びらのように包み込む作業だ。このひと手間を加えることで、ぐっとミシンがかけやすくなるという。


9工程目は「まとめミシン」。組み立てたランドセルにミシンをかけていく。幾層も重ね合わせられた革を、角も合わせて太い針でまとめて縫い上げるため、非常に難しく集中力のいる工程だという。熟練の職人がこの工程を担当するそうだ。


そして10工程目の「検品」を経てランドセルが完成する。完成したランドセルはいったん倉庫に保管され、その後「一時保管センター」へ出荷。そこから全国の子どもたちの元へ届けられる。


なお現在、新しい取り組みとして3Dプリンターも試験的に導入されており、主に加工や組み立てに用いる補助道具の開発が行われている。伝統を守るに留まらず、新しい取り組みにも積極的に取り組んでいることがわかる。


○子どもたちからの手紙がなによりの喜び



土屋鞄に入る前から鞄をデザインする仕事をしていたという鈴木さん。土屋鞄に入社したいと思ったきっかけは、前職でサンプル職人と出会ったことだという。サンプル職人とは、量産型のひな形となる最初のサンプル製品を作る職人を指す。



「もちろん革が好きだからというのもありますが、ランドセルづくりでとくに面白いなと思ったのは、『絶対に6年間耐えるモノにしなければならない』という制約があるということです。他にないと思うんですよ、どんな登山リュックにしても、キャリーバッグにしても、何年間必ず使用すると想定しているカバンって」



一般的なカバンは3年も持てば十分に高品質と言えるだろう。だがランドセルはほぼ毎日使うことが確定しており、その上で6年間の生活に耐える品質を実現しなければならない。鈴木さんはそこに大きな魅力を感じたそうだ。



「ランドセルであっても、品質や品格に関しては大人と同じ目線でものづくりをするのが土屋鞄なんです。ランドセルづくりの技術をしっかりと身に着ければ、どんな鞄でも作れるようになります。それくらいカバンづくりの技術が詰まっている製品です。でも、使うのはお子さんなので、子ども目線も必要です。例えばお子さんはランドセルを座布団にしたり投げ飛ばしたりもしますよね。だから大人用以上に丈夫で摩擦に強い素材を選んだりもしています」


そんな鈴木さんが仕事の喜びとして語るのが、子どもたちやその両親からのお手紙だ。



「開封したお子さんから『大事に使うね』、修理したお子さんから『直してくれてありがとう』みたいなお手紙をいただくことが結構あります。こういうお手紙をいただくとやっぱり1個1個丁寧に作ってよかったなと思います。『一生に一度の小学校生活をともにする相棒を送り出してるんだな』と再確認できるので、本当に嬉しいですね」



特に反響が大きいのは、ランドセルのリメイクだという。土屋鞄では卒業して役割を終えたランドセルをリメイクするオーダーメイドサービスを行っている。職人がランドセルを確認し、再び使えるアイテムとして蘇らせているという。詰まった思い出をそのままに生まれ変わったパスケースやペンケースは、愛着もひとしおだ。



「形は数パターンからお選びいただくんですけど、本当にひとつ一つ表情が違うものなので、傷や色落ちなどをあえてちょっと入れたり、寄せ書きの一部分を入れたりして、できるだけ思い出が残るようにして作らせていただいています。修理もですが、ランドセルの壊れ方にも個性が出るなと思いますね。6年間、お子さんに寄り添えるものを作れたと実感します」


ミシンがけひとつにもこだわりを持って手作業で丁寧に仕上げられている土屋鞄のランドセル。「人生で最初に持つ自分だけのカバンを」という意識で作られているからこそ、品格があり丈夫な製品が出来上がるのだろう。鈴木さんは、最後に子どもたちに向けてメッセージを送る。



「僕たちが頑張ってランドセルを作っているから、大事に使ってね。6年間、君の相棒として寄り添えたら嬉しいです」(加賀章喜)
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