多くの企業が課題としているIT人材不足。IT人材を採用するためには、彼らがキャリアに何を求めているのか知る必要がある。人材紹介事業を手掛けるレバテック(東京都渋谷区)のリクルーティングアドバイザー芦野成則氏が、企業への調査結果を基にIT人材の実像を解説する。
●著者プロフィール:芦野 成則
レバテック株式会社 リクルーティングアドバイザー
一橋大学を卒業後、官公庁に5年半勤務し、2019年にレバレジーズに中途入社。
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レバテックのキャリアアドバイザーとして、年間約300人以上のエンジニア・ITコンサルタント向けのキャリア支援を行い、その後ハイクラス専任チームの立ち上げに従事。
現在は企業の採用支援を行うリクルーティングアドバイザーとして、人事目線での社内実情やIT人材の転職市場動向を踏まえ、多角的な視点から採用支援を実施。
●「社会人3年目」に転機あり
ITエンジニアは「社会人3年目」で転職を考える――こうした傾向が明らかになっています。
IT人材への需要が高まる中、企業としては採用の強化はもちろん、離職防止にも気を配らなければなりません。ITエンジニアが転職を考えるのはどのようなタイミングで、どのような理由なのでしょうか。
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6月29日〜7月1日にかけて行った、ITエンジニア359人に対するWebアンケート調査結果を紹介します。
●ITエンジニアの転職経験とタイミング
ITエンジニアで「転職経験がある」と回答したのは46.2%でした。そして初めての転職時期として最も多いのは「社会人3年目」であることが分かりました。
数年間の社会人経験を通じて、自分の適性や興味を再認識し、20代のうちにキャリアを考え直す人が多いといえます。
●背景に「給与の低さ」「モチベーションの低下」
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転職を意識する理由として「給与の低さ」(47.2%)が最も多く挙がりました。以降は「業務に対するモチベーションの低下」(37.3%)、「会社の将来性に対する不安」(27.8%)が続き、給与や業務内容に対する不満が転職を考えるきっかけとなっていること分かります。
●6割以上が将来のキャリアに不安 「AIに代替される」ことへの不安も
将来のキャリアに不安を感じるITエンジニアは6割以上に上ります。新たなテクノロジーが次々と登場する中、スキルの陳腐化に対する懸念や新しい技術の習得にプレッシャーを感じている人が多いようです。
不安を感じることとして「技術進化の速さに追い付けないこと」(19.0%)、「給与や報酬が上がりにくいこと」(17.4%)、「生成AIなどにより自身の業務が代替される可能性があること」(16.0%)が挙がっています。
これらの不安を解消する手段の一つとして転職を選ぶと考えられます。
●離職防止、企業は何をしている?
では、企業はITエンジニアの離職を防ぐために、実際にどのような取り組みをしているのでしょうか。規模や業種が異なる4社の採用担当者にヒアリングしたところ、以下のような回答が得られました。
「急速な技術進化に対応すべく、社内では毎年1000回を超える社内研修や勉強会を実施しています。取得を推奨している資格については試験対策講座を用意し、受講料は会社が支援しています」(従業員7000人規模のIT企業)
「『やりたいことが実現できない』『異動が叶わないから転職する』ということを避けるために、本人希望による社内異動を積極的に実施しています。多くのケースで異動が実現しており、社員のキャリア形成を支援しつつ離職を防止しています」(従業員1000人規模のITコンサルティング企業)
「『取引金額の何パーセントをエンジニアに還元する』と決めており、透明性のある報酬制度を導入しています。これにより、業務の成果が適切に給与に反映されるようになりました」(従業員1000人規模のSES企業)
「月1回モチベーションに関するアンケートを行い、結果を踏まえて専属のカウンセラーが個別に面談を実施しています。悩みや希望に応じて業務を変える、研修制度を整えるといった施策で、社員のモチベーション向上に努めています。」(従業員2000人規模の人材企業)
ITエンジニアの離職防止には、給与面、キャリア支援、技術習得などさまざまな方面からのアプローチが考えられます。社員が柔軟にキャリア設計できる環境を整え、公正な評価と給与提示を実現することで、離職を未然に防ぐことにつながるでしょう。
●企業も柔軟性が求められている
転職がキャリア形成の手段として定着した今、優秀な人材の流出を防ぎ、企業の競争力を維持するためには、柔軟なキャリアパスや働き方の整備が求められています。
本人の希望に応じた社内異動やスキルアップの機会を提供することで、社員の自己実現を促し、長期的なキャリア形成をサポートする姿勢が必要です。
また、スキルアップに応じた適切な評価や給与も重要です。業務内容とパフォーマンスに応じた評価制度が、モチベーションの向上や離職率の低下につながるといえるでしょう。
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