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日本で初めて生まれたハンバーガーチェーンはどこ? このように聞かれると「マクドナルドでしょ」と答える人が多いかもしれないが、正解は「ドムドムハンバーガー」(運営:ドムドムフードサービス)である。
日本マクドナルドが1971年に1号店をオープンする前年に、東京の町田市で産声を上げた。というわけで、ドムドムは今年53歳である。
では、「絶滅危惧種」と呼ばれたハンバーガーチェーンは? 「なんだかひどい表現だなあ」などと思われたかもしれないが、正解はこちらも「ドムドムハンバーガー」である。
創業後、店舗数をどんどん増やしていって、1990年代の半ばには約400店舗を構えたが、その後、経営不振などが原因で店舗数がどんどん減っていく。その姿を見て「絶滅危惧種」とささやかれ、現在は29店舗を運営している。
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会社の存続が危ぶまれていた中で、2020年度に黒字化を達成。カニを丸ごと使ったバーガーなど個性的な商品や異業種とタッグを組むことで、4期連続で黒字を確保している。
そうした状況の中で、個人的に気になっているのは「ファンづくり」である。どこかで一度は目にしたことがある人が多いと思うが、ブランドロゴ「どむぞうくん」をあしらったグッズが売れに売れているのだ。
そもそも、なぜ「象(ぞう)」なのか。創業当時、世間で「ぞう」が愛されていたことから、「ドムドムハンバーガーも愛されるように」という願いを込めて、「ぞう」をモチーフに選んだそうだ。
ドムドム以外にも、ハンバーガーチェーンの人気キャラはある。例えば、ケンタッキーフライドチキンの「カーネル・サンダース」、マクドナルドの「ドナルド・マクドナルド」、モスバーガーの「モッさん」など。いずれも脇役的な存在であるが、「どむぞうくん」が主役の店舗が登場した。
9月7日、東京都江東区に「東大島店」がオープン。店内はシンボルカラーの赤と白を基調としているが、最大の特徴は「どむぞうくん」まみれであること。壁面やテーブルだけにとどまらず、サービスカウンターの正面に位置する長テーブルには、赤・青・黄・ピンクなど「どむぞうくん」のぬいぐるみがズラリと並んでいるのだ。
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●物販事業の売り上げは全体の約7%
ドムドムに久しく足を運んでいない人からすれば「おお、こんなことになっていたのか。知らなかった」と感じられたかもしれないが、同社が「どむぞうくん」をここまで打ち出しているのは、それほど前の話ではない。時計の針を2018年に巻き戻そう。
この年、社長に就任した藤崎忍さんは、どんなことを始めたのか。アパレルブランドと協業して、「どむぞうくん」のロゴが入った洋服をライセンス販売した。なぜハンバーガーチェーンとアパレルがタッグを組んだのかというと、冒頭で紹介したように「長い歴史」が関係している。
店舗数がどんどん減っていく中で、残っている店は「歴史」があるところばかり。リピーターが多いのはうれしいことだが、逆に言うと、客層が“固定化”していることになる。新しいお客にリーチするにはどうすればいいのか。尖った商品で話題を集めただけでなく、ロゴをPRすることでファンとのコミュニケーションを図ったのだ。
本格的に「どむぞうくん」にチカラを入れ始めたのは、2020年のことである。いや、「本格的」に始めることになったきっかけは「結果論」であって、たまたまの要素が強い。
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新型コロナの感染が広がったことを受け、日本中からマスクが消えた。同社は「スタッフの健康を守らなければいけない」ということで、「どむぞうくん」のロゴが入ったマスクをつくって配った。自社のスタッフだけでなく、「おすそ分け」という意味でお客にも販売したところ、SNSで話題になったのだ。
つくっても即完売、つくっても即完売。そうした状況が続き、結果的にこのマスクは17万枚も売れた。想定外の事態をきっかけに自社のECサイトを立ち上げ、グッズ販売にチカラを入れることに。2024年3月期を見ると、ECを含めた物販事業の売り上げは全体の約7%を占めるほどになっているのだ。
●ハンバーガーのサンプルも「完売」
「どむぞうくん」のマスクが想定以上の反響があったことを受け、社内で「お客さまは、こんな商品を望んでいるかも」「ファンを増やすには、あんな商品があればいいよね」といった視点で企画が進み、グッズがどんどん増えていく。
商品をつくっていく中で、他社から声がかかるようになってきた。「『どむぞうくん』をつくって、なにか一緒にやりませんか?」と。結果、モバイルバッテリーもあれば、イヤフォンもあれば、ガチャもある。
反響が反響を呼んで、ファミリーマート限定カラーの「どむぞうくん」が登場したり、100円ショップのセリアでグッズを販売したり。いずれも好調のようで、藤崎さんは「プライベートで購入しようと思って、お店に行ったのですが、買えませんでした」とのこと。
毎月のように新商品が登場する中で、これまでどのくらいのグッズを販売してきたのか。同社の広報担当者に尋ねると「ちょっと数えられないほど販売していまして。協業のアイテムを含めると、軽く1000は超えていますね」という。たくさん販売していると「これはちょっと売れないのでは」といったモノが登場することも。例えば、ドムドムで販売している(または販売してきた)商品を再現したグッズがある。
「手作り厚焼きたまごバーガー」は大きさや立体感を忠実に再現して、価格は9880円。「ビタビタバターフィッシュバーガー」は同1万1880円。「ちょっ、高すぎでしょ。買う人なんているの?」と思われたかもしれないが、このサンプルシリーズは好評ですべて「完売」である。
食品サンプルといえば、レストランなどのショーケースに並んでいるが、そのサンプルを手掛けているイワサキ・ビーアイ社の職人がつくったモノになる。ひとつひとつが手づくりなので、どうしてもこの価格になってしまうようだ。
価格は高いものの、どんどん売れていく。再販したこともあるが、原材料などの高騰によって、同じ価格で販売することが難しくなってきた。高価格のグッズをお客に購入してもらうのはしのびない……といった理由で、現在は製作を控えているようだ。
●人気の理由は2つ
ドムドムのグッズは、なぜこれほど売れているのか。藤崎さんに聞いたところ、2つの理由を挙げた。「1つは、いわゆる『推し』が流行っていますよね。好きになったモノを『推す』人が増えていますが、そうした流れを受けて『どむぞうくん』も人気が出ているのかなあと。もう1つは、ファッション性を重視しているからだと思っています」と語る。
ファッション性とは、どういう意味か。藤崎さんは商業施設「渋谷109」内の店舗で店長を務めたことがある。こうした経験があるので、アパレルにはこだわりがあって、なにかのグッズに「どむぞうくん」をあしらえば「はい、完成ね」といった考え方をよしとしていない。
そのとき、そのときのトレンドにあわせて、どのブランドと組むのがいいのか、オシャレに感じてもらえるのか。こうした視点にたって、企画を進めている。ということもあって、グッズを手にした人も「ドムドムといえばなにか古いイメージがあるけれど、『どむぞうくん』が描かれたモノはなんとなくオシャレ」と受け止めているのかもしれない。
ドムドムは4期連続で黒字という結果を出しているものの、競合と比べて規模は「まだまだ」である。しかし、売り上げ構成比を見ると「『どむぞうくん』の快進撃はどこまで続くのか」と感じるほど、存在感を示している。
象を“増”産することで、ファンが増えていく。その勢いを感じた他のハンバーガーチェーンは、“ぞっ”とするかもしれない。
(土肥義則)
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