老舗寿司チェーン「かっぱ寿司」でひとり飲みの興奮。100種類以上ある“110円メニュー”すべてが極上の肴だ

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2024年09月19日 16:31  日刊SPA!

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我ながらいい組み合わせ
 ちょっとだけ飲んでから帰りたいけど、わざわざ居酒屋に行くほどではない――。そんなときに重宝するのが「ちょい飲み」のお店だ。吉野家の「吉呑み」を筆頭に、最近ではファミレスやファストフード、大衆中華チェーンなどでもちょい飲みセットを提供するところが広がっている。
 日常的に酒場へ通い、酒にまつわる連載や本を多数執筆している酒場ライター・パリッコさん(@paricco)。普段は地元に密着していて、単独ではちょっと入りづらいような個人店を取り上げている彼に、ベタなチェーン店で飲んでもらう連載「パリッコのチェーン店ひとり酒」。

 第7回に取り上げるのは、老舗の寿司チェーン「かっぱ寿司」。それぞれこだわりのスタイルがありそうなチェーン寿司での一人飲み。パリッコさんの選択は?

◆かっぱ寿司へ行こう! 

 回転寿司店に対する認識を「寿司屋」でなく「酒場」に変換するだけで、酒飲みにとってのその可能性は、無限とも言える広がりを見せる。

 つまり、寿司およびその他のメニューすべてを「酒のつまみ」と認識するわけだ。大衆酒場の料理と比べてもさらに1品1品がリーズナブルで、ポーションが小さいから胃袋と相談をしながらの微調整がきく。最近は、肉メニューや、洋食的なサイドメニューが充実している店も多い。シメが欲しければラーメンやスイーツだってあったりする。そう考えると、酒飲みにとって天国のような場所と言える。

 昨今の低価格系回転寿司シーンにおいては「スシロー」「はま寿司」「くら寿司」の勢いがすさまじいけれど、忘れてはいけないのが、1979年創業の老舗「かっぱ寿司」。スシロー、はま寿司、くら寿司、どの店も我が家から気軽に行けるエリアにあってよく利用するからこそ、ちょっとだけ足を伸ばす必要のあるかっぱ寿司で、なんだか無性に飲みたくなってきた。今日目指すべきは、かっぱ寿司だ。

 調べてみたところ、我が家の最寄り店舗は「かっぱ寿司 練馬貫井店」。電車で4駅ぶん移動して、そこからさらに数分歩くという、ちょっとした苦労の末に到着。するとかっぱ寿司は、なんだか日光の加減で神々しく見え、まるで、今日この店を選んでやってきた僕を祝福してくれているかのようだ。

 福音はまだ続く。店頭にはためくのぼりに大書された「生ビール半額」の文字だ。アプリをダウンドードして会員登録すれば、その日から使えるらしい。使えるのは「生ビール(中)」のみらしいが、「何杯でも! 何人でも!」は神すぎるだろう。さっそく会員登録し、使用方法を確認すると、会計時に店員さんに見せるだけでいいようだ。よし完璧!

◆本気でうまい生ビール

 席につき、なにはなくとも「アサヒスーパードライ 生ビール(中)」(税込539円)を注文。残暑のなか汗をかきながらやってきた心身に染みわたりまくるうまさだ。

 続いて、ひとまずなにかさっと出るメニューが欲しいと思い、サイドメニューのなかから「きゅうり醤油ドレッシングマヨ」を注文。なんと110円だ。

 すぐに、これ以上に求めるものはなにもないくらいにちょうどいいきゅうりの小鉢がやってきた。しゃきしゃきしたきゅうりに爽やかな醤油ドレッシングが絡み、さらにマヨをつけながら食べる。止まらない。そしてビールがやたらうまくて、こっちも止まらない。結果、うっかりきゅうりをつまみにビールの1杯目を飲み干してしまった。

 この僕の勢いには当然、半額であるゆえに気持ちが大きくなっていることも影響している。しかし僕は気づいた。飲み干したジョッキの内側に、ビアサーバーの状態やジョッキの洗浄が完璧であるビールのみに現れる「エンジェルリング」がくっきりと浮かんでいる。つまり、かっぱ寿司 練馬貫井店のビールが、純粋にめちゃくちゃうまいのだ。

◆今日はどう攻めよう

 1品目と1杯目を勢いでいってしまったが、ここからあらためて、じっくりかっぱ寿司と向き合っていこう。なにしろ選択肢は豊富だ。なんたって、110円商品が100種類以上もある。メニューを眺めているだけでうきうきしてくる。

 そのなかには「こぼれかにカマコーンマヨ鬼ペッパー包み」なんていう、開発者の「とにかく要素をマシマシに!」という想いが迫ってくるような一品もあって、これは受け止めなければいけないような気がする。

 さらに酒飲みにとって嬉しいポイントはいくらでもある。たとえば「シャリハーフ」が選べる寿司がかなり豊富にあること。僕は回転寿司店のシャリハーフ寿司における米部分は、もはや“刺身の薬味”であるという考えを持っている。つまり、リーズナブルに軽くつまめる刺身が選び放題というわけだ。サイドメニューもいい。「刺身盛り合わせ」や「季節の天ぷら盛り合わせ」なんて、いいに決まってる。味のバリエーションがかなり幅広いポテトやからあげ類であえて飲むというのも楽しそうだ。

 さて、ここらでそろそろ今日の方針を決めておかないと収集がつかなくなりそうだ。まず、ビールはもう1杯、必ず頼む。そこに「ちょこっとなす天盛り」(198円)を合わせよう。その後、酒を日本酒に、つまみを寿司に切り替えて、寿司飲みに移行しよう。寿司は当然“酒のつまみ度”を優先しながら選ぶ。近年の僕は食が細くなり、回転寿司なら4、5皿がちょうどいいくらい。ゆえにその制限のなかでどれだけ満足度を高められるかが重要になる。まぁ、飲みながらじっくり考えよう。その時間こそが、回転寿司飲みの醍醐味であるわけだし。

◆天ぷら屋なみのクオリティ

 お、ビールとなす天がやってきたぞ。醤油は「特選」「減塩」「だし」と3種類あって、ここはだし醤油かな。

 揚げたてのなすをぱくりとほおばると、ざくざくっとした衣の下から、あっつあつとろっとろのなす。心のなかで思わず「天ぷら屋!」と叫ぶ。なすの下にはおろししょうがが隠れていて、それがまたいい。ビールを飲む勢いがさらに加速してゆく。

 ちなみに、タブレットに表示された現時点での合計金額が1386円。それでもじゅうぶんすぎるほど安いが、僕は生ビール半額の権利を得ているので、1杯ぶんは無料で飲めてしまっているわけだ。つまり、正確な合計額は847円。って、計算してみたら、引くほど安いな……。

◆作法などない自由な時間

 なすとビールの2セット目を堪能し、そろそろ日本酒&寿司タイム。「松竹梅 豪快 辛口(冷酒)」(539円)を。寿司はさんざん悩んだ末、「上煮穴子一本」(374円)、「かにみそマヨ」(110円)、「こぼれかにカマコーンマヨ鬼ペッパー包み」(110円)の3種類を頼んでみることにした。すぐに、レーンで目の前に到着しだす寿司たち。

 メニューに「直火炙り」と書かれていた上煮穴子、目の前に置くだけでふわりと香ばしい。当然これを、ぱくっとひと口ではいかない。穴子の身をはしから少しずつ切り取っては、くいっと酒のつまみにする。甘めのたれが染みたふわとろの身が、めちゃくちゃうまいな。

 かにみそマヨも、作戦としては同様だ。本当は人に話すのもはばかられることだが、僕は回転寿司でかにみそ軍艦を頼み、これまたひと口ではいかず、箸でちびちびとかにみそだけをつまみとりながら酒を飲むのが好きなのだ。かっぱ寿司のかにみそ軍艦は、みそがたっぷりで嬉しい。最後に食べることになる、うっすらかにみそ味の残ったマヨネーズ軍艦も悪くない。けれどもこのことは、絶対に口外はしてほしくないし、はしたないので決してまねもしないでほしい。これは、自分が楽しんだかっぱ寿司飲みの記録を正直にお伝えしておこうという、僕なりの誠実さなのだ。

◆カオス感のある軍艦巻き

 こぼれカニカマコーンマヨ鬼ペッパー包みだけは、海苔で巻いてそのカオス感を、開発者の想いとともにひと息に味わうのが良さそうだ。とにかく、楽しくなってきたぞ!

 予想どおりにそれぞれが、寿司でありながらいい酒のつまみでもあり、それらをひとりじめする自由な時間が最高に楽しい。こぼれかにカマコーンマヨ鬼ペッパー包みは、記載されているすべての食材の味がそのまま口に広がるという感じで、ちょっと微笑ましくも、うまくないわけがない。

 さて、そろそろ身も心も大満足だ。ただ、最後にもう1皿くらい、ザ・寿司! みたいなメニューを味わって帰ろうかな。こんなとき、豪放磊落な好漢ならば、やっぱり「みなみ鮪大とろ」あたりを選ぶんだろう。読者のみなさまだってそういう寿司を見たいだろう。けれども、たった1貫で374円もする。勇気が出ない。とか言って、さっき頼んだ日本酒のほうがもっと高いんだけど、なぜか酒だけは躊躇なく頼めてしまうのが酒飲みの悲しさだ。

 結果、すみません、今回は「大切りとろびんちょう」(110円)でご容赦いただけたらと。

 しかし! やってきたそれは、看板に偽りなしの大切りで、口に運んだ瞬間にとろけだす絶品だ。じゅうぶんうまい! あ〜、もうなにも思い残すことはなし。

 なんて言いつつ、回転寿司で本当に思い残すことがなかったためしはない。あれも食べたかった、これも食べたかった、やっぱり大とろにしておけば……などとうじうじしつつ、結果、もう少しだけ食べすぎることになる。 今日もまた、大好物のいかゾーンから、「いか食べ比べ(やりいかゲソ・真いか)」(110円)を追加してしまうのだった。

 やっぱりうまいな、いかは……。
 回転寿司飲みの可能性は、店舗と酒飲みの数だけある。ほぼ無限だ。それにしても、久々のかっぱ寿司、すごく良かったな。アプリで情報をチェックしつつ、また飲みに行くことにしよう。

<TEXT/パリッコ>

―[チェーン店ひとり酒]―

【パリッコ】
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):@paricco

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