子どもの頃に叱られ続けた記憶が今も俺を苦しめている。気づくとリツに、俺は母と同じように怒鳴ってしまうのだ。叱られると、俺から逃げるようにユイナの後ろに隠れるリツ。そんな甘えるような仕草を見て、俺はいっそう腹立たしくなる。
リツへの腹立たしさには「俺は母親に甘えられなかったのに」という嫉妬も混ざっていた。自分の気持ちをコントロールできなければ、ユイナの心はどんどん離れていってしまう……。ある晩ついに、ユイナが「真剣な話がある」と切り出した。
自分でも気付いていた。俺は自分がされたことをリツに繰り返しているのだ、と。その対応が正しいものではないということも……。でもリツを見ているとどうしても自分の子どもの頃の姿を投影してしまう。ユイナのまっすぐなまなざしに、俺は思わずこんな言葉を口にしていた。「ユイナはどうしてリツのことを許せるんだ?」
リツの好き嫌いが始まるまでは、俺たちは幸せな家族だった。俺だって穏やかな家庭を築きたいと願っていたのに……。俺を苦しめた記憶は、ユイナやリツのことも苦しめてしまっていた。
【後編】へ続く。
|
|