2024年MotoGP第16戦日本GPの金曜日は、小雨が降ってはやみ、陽が射したかと思えば分厚い雲が空を覆うという難しいコンディションとなった。MotoGPクラスの走行は、小雨が降りだしてはライダーたちがピットインをして、雨が収まるとまたコースインをする、その繰り返しだった。
ホンダはオーストリアGPから新しいエンジンを投入し、ミサノでの公式テスト以降、新しい空力デバイスが投入された。新しいパッケージは、インドネシアGPでヨハン・ザルコ(カストロール・ホンダLCR)がホンダとして今季初のシングルフィニッシュ、9位を果たしたように、全体的なリザルトがやや向上したように見える。
果たして、そのパッケージは日本GPでどう機能しているのだろうか。
プラクティスを12番手で終えた中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)は、バイクにポジティブなフィーリングがあるという。
「ブレーキングからエイペックスまでのフロントエンドはとてもいいフィーリングだし、とても安定しています。バイクのバランスと旋回もとてもいいですね。ただ、立ち上がりの加速はあまりよくないですね」
新しい空力デバイスはもてぎでどう機能しているのか、と尋ねると、「もてぎのレイアウトでは、(新しい空力デバイス、グランドエフェクトフェアリングが機能する)ターニングは6、7、8の数コーナーしかないのでわかりませんが、ネガティブなのはウイリーしてしまうことです」と説明している。中上が苦しんだウイリーについては、プラクティス17番手だったチームメイトのザルコも言及していた。
5、9、10、そして最終コーナー立ち上がりでかなりのウイリーがあるため、バイクが加速しないのだという。中上はウイリーを抑制するため、全長の長いバイクと車高の低いバイクを試した。車高の低いバイクのほうはグランドエフェクトフェアリングを活用できる可能性があるという。
ポジティブな部分は「まだ僕たちは限界にタッチしていません」と語っていたことだろう。なぜなら「以前のバイクは限界に接していた」からだ。向上の余地はあるということだ。
一方、レプソル・ホンダ・チームのジョアン・ミルとルカ・マリーニは、ともにバイブレーションが発生している、と語っている。より苦しんだのはプラクティス21番手だったマリーニである。
「とても厳しかった。タイヤの動き、路面が独特なんだ。今年、ここほどリヤグリップに文句を言ったことはない。グリップがないのに、バイブレーションがひどいんだ。ほかのバイクは、グリップがいいほどバイブレーションが起こるけど、今年の僕たちはちょっとおかしいね。バイブレーションの原因についてはよくわからないんだ」
「(これまで)バイブレーションは、レース中、ユーズドタイヤで起こっていた。タイムアタック中の新品タイヤでは起こらなかったんだ。でも今日はリヤにソフトを入れたとき、バイブレーションはどのコーナーでも起こった。これが大きな問題だよ」
プラクティス16番手だったミルもまたバイブレーションに悩まされたが、囲み取材の第一声で「悪くなかったよ」とコメントした表情を見るに、そこまで悲観的な状況ではなさそうだ。
「俯瞰すれば、セッションの最初から改善が見られたところがあった。ときどきトップ10から12に入っていた。Q2争いができるパッケージなのだと思う」
見られた改善とはどこか、と質問したところ、「新しいエアロパッケージでは、旋回性が向上している」と、ミサノ公式テスト以降に使用された空力デバイスについて、ポジティブな感触を抱いていると語っている。
ミルは現在のパッケージによって、以前よりも「他メーカーと戦える」状況だという。
「シーズン序盤よりもグリップも少しよくなっていて、バイクは少し、ポテンシャルが上がっている。僕たちはまだライバルたちからは遠いけど、ライダーとしては戦いから蚊帳の外というわけじゃなく、たぶんちょっと戦えるようになっているので、それはいいことだよね。ライダーのモチベーションとしても、シーズン序盤以上のことができるようになっている」
特にシーズン前半戦から中盤戦にかけては、他のメーカーと争うことのできない状況を指して、囲み取材などで「ホンダ・カップ」と表現されてもいた。確かにウイリーやバイブレーションなどのネガティブはあるが、そんな状況は脱しつつあると、ミルは感じているのかもしれない。