2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)でテスト・リザーブドライバーを務めています。
第9回となる今回のコラムでは、ELMSムジェロ戦のためのイタリア遠征と、宮田選手がオススメする海外サーキットについてランキング形式でお届けします。
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みなさん、こんにちは。宮田莉朋です。今回のコラムではまず、9月末に行われたELMS第5戦のご報告をしようと思います。
舞台はイタリアのムジェロ・サーキット。僕は一度ELMSのテストで走りましたが、レースをするのは初めてのトラックになります。アップダウンが激しくて、クリーンエアで走ると結構面白いサーキットです。感覚的には鈴鹿サーキットに近い部分もあり、ひとつ失敗するとその後の流れが崩れがちな印象でした。タイヤのデグラデーションも激しかったので、マネジメントも求められるサーキットです。
今回はELMS初開催のトラックということもあり、木曜日からテストセッションがありましたが、僕らは出だしからつまづいてしまいました。
僕は今回予選担当ではなかったので、ロングランをしたり、決勝を見据えて冷えたタイヤでのアウトラップを見たかったのですが、僕が乗る前の時点でそもそもダブル・スティントができるようなタイヤの状態ではありませんでした。とにかくリヤのグリップがなくてタイムも上がらず、デフが壊れたのではないか、足回りが変なのではないか、とチームもセッション中にいろいろ作業をしてくれたのですが、結局その不調の理由が分からないまま、初日が終わってしまいました。
金曜日のフリー走行でも、僕が乗る前にタイヤのトレッド剥離が起きてしまいました。運が悪いことにチームメイトがフラットスポットを作っていたこともあってタイヤのセット数が足りず、僕は決勝に向けたロングランの感触をまったくつかめないまま、決勝に臨むことになってしまった形です。結構セットアップも変えていたので、それを体感できなかったのは厳しかったですね。
タイヤ剥離は、土曜日にも起きてしまいました。今年、第2戦のポールリカール以来ずっと抱えている問題なのですが、チームとしてもその原因が分からないまま、決勝に臨むことになりました。
決勝ではロレンツォ(・フルクサ)選手がスタートを担当し、僕は2番目に乗るプランでいきましたが、結局ほとんどセーフティカー中のドライブとなり、レーシングスピードで走れたのは5周程度でした。
大きなクラッシュがあり4番手走行中に赤旗となったのですが、そこからのリスタートは一番のチャンスだと思っていました。オーバーテイクの難しいコースでしたからね。
僕は抜群のリスタートを決めることができたのですが、前を走る2台が全然加速していなくて……左に避けようとしたところで、僕の右フロントと前のクルマの左リヤが当たってしまい、エアロバランスが崩れて、1コーナーではコース外に追いやられ、タイヤのグリップを失ってポジションを落としてしまいました。
結果は総合13位。最後のマルテ(・ヤコブセン)選手のペースも悪く、不調の原因は結局分からないままです。振り返れば第2戦以降は何かしらトラブルが起きてしまって練習走行が満足に走れなかったり、セットアップの部分でも『軸』がない感覚もあるので、最終戦に向けてはそこをなんとかしたいですね。優勝した開幕のバルセロナではそういうことがまったくなかったので、まずはその状態に戻れるようにしなければいけないと思っています。
■宮田莉朋セレクト。海外サーキットでレース観戦するならココ!
今回はイタリアということもあって、空き時間には買い物やグルメも少しだけ堪能するできました……ということで、オートスポーツweb編集部の方から聞かれたこともありまして、唐突ですがここで僕がオススメする海外サーキットを紹介したいと思います。今季はこれまで10カ国以上の国とそれ以上のサーキットを訪れましたが、その中から「レースを観に行ったら、観光やご飯を含めて楽しい!」という基準で選んでみました。
ではまず、3位から。……どうしましょう、3位のイベントは3つほどあります(笑)。
ひとつめは、イギリスのシルバーストンです。「レースを楽しみに来ている」というファンの熱を感じたいのであれば、モータースポーツの歴史が深いシルバーストンでのF1グランプリは別格だと思います。
それとは別種の『お祭り感』、たとえばパレードやドライバーと触れ合う機会、飲んだり食べたりなども含めて考えると、ル・マン24時間(フランス)とデイトナ24時間(アメリカ)もおすすめだと思います。
どちらも1年に1回の大一番で、そこに向けて自動車メーカーが威信をかけて努力してきたことを証明する場ですので、ドライバーもチームも、全員がすごく強い想いで戦いに来ていますし、それを見るためにすごい数のファンの皆さんが集まってきますからね。
コース外のお祭り感とレースの熱量という両面で、ル・マンとデイトナは一度見に行ったら、きっとハマるのではないかなと思います。
オススメ第2位は、スペインのバルセロナです。
空港からも近いですし、バルセロナの市街地を抜けていくなら、サグラダファミリアなどの観光地にも寄ることもできます。ファンの方々の熱量も高いですし、サーキットの近くに泊まるのでしたら、カタロニアの市場というかレストラン街もいっぱいあって、ご飯も美味しいですよ。
これはロレンツォ選手に教えてもらったのですが、サーキットのあるカタロニアとバルセロナでは言語が違うんですよね。同じスペイン国内でも、そういった文化の違いを楽しめるのも面白いところだと思います。
では最後、僕のオススメ第1位は……イタリア全部!(笑)
僕は今年、イモラ、モンツァ、ムジェロを訪れましたが、どのサーキットもレースを見ていて面白いと思います。どれも歴史のあるサーキットで、コース幅が狭いのにハイスピードでアップダウンもある。F1はもちろんオーバーテイクが激しいですが、耐久レースも混走でのトラフィック処理の仕方とかで順位が変わる場面も多いですから、どのカテゴリーのレースでも見ていて面白いのではないかと思います。
あとイタリアはやっぱり、ファンの熱量が高い。ドライバーとしてはアツい応援をいただけるのはすごく楽しいですし、レースのファンはこうであってほしいな、とも感じます。そういう部分がイタリアは素晴らしいですね。
また、どのサーキットも最寄りの空港からクルマなら1時間半以内で行けると思いますし、今回僕が立ち寄ったフィレンツェにはアウトレットなどもあって、日本ではとても手が出せないブランドのものでも、お安く買うことができます。ご飯も、イタリアなら何を食べても美味しいので、楽しめると思いますよ。
最後に番外編として「日本からラクに海外のレースを観に行きたい!」という方に向けては、中東のアブダビやバーレーンがオススメです。とくにアブダビは空港からクルマで15分くらいで着きますし、基本レースはナイトレースなので、夜見て、そのまま深夜便で日本に帰ることもできます。F1を見るにしても、短期日程なら中東とかアジアのレースはいいかもしれませんね。
そんなわけで、僕のオススメの海外サーキットを紹介してみましたが、いかがだったでしょうか。もし海外でレースを観戦したいと考えているファンの方がいらっしゃいましたら、参考にしてもらえたら嬉しいです。
さて、ELMSは10月19日に最終戦ポルティマオがあります。FIA F2のアゼルバイジャン戦で負った手のケガもだいぶ良くなってきていますし、チームと力を合わせて悪い流れを断ち切って、最後にまた優勝できるよう、頑張りたいと思います!
⚫︎今月の“リトモメーター”
三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れる2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。
⚫︎2024年累計
79回の搭乗
132,887マイル(213,861km)
搭乗時間:332時間12分
ついに20万kmの大台を突破!