Q. 高い音が苦手な人が多いのはなぜですか?
Q. 「昔から、一定の高さ以上の高い音がとても苦手です。考えてみれば、黒板をひっかくときのような『高すぎる音』は、ほとんどの人が嫌いなのではないかと思います。一方で、『低音を聴くとぞっとする』『低すぎる音が苦手』という話は、聞いたことがありません。高い音もただの『音』のはずなのに、なぜ理由もなく不快に感じてしまうのでしょうか?」A. 高い音ほど響きやすく、危険を想起させるため、ストレスになると考えられます
声を含む「音」は、そもそも空気の振動によって生じる「音波」の一種です。音(声)の特性は、波の振幅と波長によって決まります。音波の「振幅」は、音の大きさに反映され、一方の「波長」は、音の高低に反映されます。具体的には、波長が短いほど、音は高く聞こえます。つまり高い音は、波長が短く細かい音波ということです。空気中の様々な分子にぶつかりやすく、まっすぐに進みにくく、音源の近くで「散乱しやすい」という性質があります。パトカーや消防車のサイレンや、火災報知機のベルなど、危険を知らせる音として高い音が利用されているのは、響きやすいからです。
赤ちゃんや子どもの泣き声が甲高く周りに響くのも、「何か異変が起きている」と周囲に察知してもらうために適しているからです。
一方で、高い音は心理的に「うるさい」「不快」といった印象を与えます。いろいろな要因が考えられますが、上述したサイレンや赤ちゃんの泣き声などがすべて高い音であることからも、高い音を聞くと直感的に「危険」を連想しやすいためでしょう。危険が想起されることで、心と体にストレスを生じます。
少しくらいなら平気ですが、長時間にわたって高い音を聞くと、ストレスが続いてつらくなります。これが「高い音を聞くと不快に感じる」理由です。
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おそらく、低い音を発するものや環境が、私たちにとって安らぎの対象だからではないでしょうか。その典型は、母胎内で赤ちゃんが聞いている音です。私たちはみんな、お母さんの胎内で、ドクドクと規則正しく響く重低音、つまりお母さんの心臓の鼓動と血液の脈動を聞きながら過ごしてから、この世に生まれてきます。
泣き叫ぶ赤ちゃんに、お母さんの心音を録音した音源を聞かせると、ピタッと泣き止み、静かに眠りにつくといった報告もあります。大人になった私たちにとっても、低い音はどこかなつかしい安心できる存在になっているのかもしれません。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))
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