「リブレ」「大洋図書」が牽引する「商業BL」事情、次なる覇者は? 識者が解説する人気出版社の業界地図

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2024年10月11日 18:00  リアルサウンド

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人気ジャンルとなった「商業BL」は出版社ごとに作風も異なる ⓒSANDIAS

 一大ジャンルとなった「商業BL」。その人気は国内だけに留まらず、海外でも多くのファンを獲得している。商業BLの市場が拡大するに連れ、出版社ごとの特徴多様化。バラエティに富んだレーベルが次々に生まれている。


 そこで株式会社サンディアスが運営するBL情報サイト「ちるちる」編集部に、気になる昨今のBLレーベル事情や人気ジャンルについて聞いた。日本のみならず、海外も含めた現在の、BL事情をマッピングしていく。


◼️映像化の人気作揃う「リブレ」と「大洋図書」がBL界牽引


ちるちる編集部の調査によると、現在のBLレーベルとして先頭を走るのは、「ビーボーイコミックス」「ビボピーコミックス」などのレーベルを持つ出版社リブレ。2024年上半期だけで約70冊を刊行し、BL業界を牽引している存在だ。『抱かれたい男1位に脅されています。』や『さんかく窓の外側は夜』など、映像化も果たした人気作も輩出している。


 特徴は、キャラクターの個性が強くラブコメ要素も含まれた作品が多いこと。BLレビューサイト「ちるちる」会員らによるレビューで高評価を得た作品が最も多いことから、「熱心なBLファンから今最も人気を得ているレーベル」だと言えるという。


そんなリブレと双璧をなすのが「CRAFT」「ihr HertZ」などのレーベルを持つ大洋図書。『囀る鳥は羽ばたかない』『オールドファッションカップケーキ』など、こちらも映像化されている作品が多く、知名度が高い作品が揃う。リブレと比べて、ストーリーがシリアスかつ重厚な作品が多いのが特徴。リブレ、大洋図書はBLファンが愛する王道の代表格で、コアなファンからの人気が高いという。


◼️台頭する新勢力。エモさやユニークさで差別化


 近年台頭してきたのが、シュークリームが編集を手掛けるレーベル「on BLUE」(祥伝社)や「from RED」だ。既存のBL作品とは毛色が違う“エモーショナル”な描写が持ち味で、若年層やライト層の人気も高い。オシャレな雰囲気で、レーベルにファンも着いている。さらに、一巻完結がベーシックな商業BL界で、めずらしく「長期連載」を前提とした作品が多く、ストーリー重視で長く楽しめるという点も新しい層から人気を博している理由の一つだという。


 また、竹書房も独特の雰囲気でコアな人気を誇る。レーベル「Qpaコレクション」「麗人セレクション」などは、過激な性描写やエンタメ色が強く、ユニークな作風が持ち味だ。ひとくちに商業BLといっても、さまざまなニーズにあわせて細分化していると言えそうだ。


◼️日本の人気ジャンルに変化。「コンプレックスの昇華」に焦点


 さらにちるちる編集部は、国内BLにおけるブームは三ヶ月ごとに入れ替わると言ってもいいほど、移り変わりが早いと分析。これまで主流だった学生ものより、社会人ものが中心になっているという。人気テーマの傾向は「一口に人気のジャンル、テーマと言っても難しい」としながらも、例の一つに“コンプレックス”を挙げた。


 サンディアスが開催した「第15回 BLアワード2024」にて一位を獲得した『40までにしたい10のこと』(リブレ)や、前述の『オールドファッションカップケーキ』(大洋図書)などは、年齢を重ねてコンプレックスを抱えている“受け”が、若くてイケメンな“攻め”に求愛されて、劣等感を解きほぐしていく……という共通のテーマを持っている。


 この理由を「多くのBLファンがコンプレックスを昇華させてくれる関係性に萌えたのかもしれない」と話す。漫画は激しいストーリーより、内面の機微を描く繊細な作品が人気である一方、小説はファンタジーものが主流なのだそう。


◼️海外BLにはレーベルなし! プラットフォームにファンがつく


 ちるちる編集部は、「BLレーベルを重視するファン心理は日本特有のもの」と指摘する。BL人気が高い韓国では、スマホで縦にスクロールしながら読む「Webtoon(ウェブトゥーン)」が主流で、レジンコミックス、KAKAO WEBTOON Studio、NAVER Webtoonの3強。それらのプラットフォーム単位でファンが着いているという。


 レジンコミックスは成人向けに特化しており、基本的にほとんどの作品に性描写が含まれる。ちるちる編集部は「課金がデフォルトで18歳未満は見れないため、多様なスタイルのBL作品が多く、韓国のBLファンのスタンダードになっている」と解説する。


 対してKAKAOやNAVERの作品は、アプリで配信されることを前提としているため、性描写はほとんどない。さらに基本的には『待てば無料』スタイルであるため、ライトな読者を獲得しているそうだ。


 中国は「快看(クワイカン)」、「ビリビリ漫画」が人気。とはいえ、政治的にBLや性描写は規制されているため、ブロマンス風味の作品がスタンダードだ。ちるちる編集部によると、中国では男性同士の恋愛に重きを置くというよりは、ストーリーや展開で引きを作るのが主流。ファンタジーものも多く、一般作品にBLの要素を追加したようなテイストだという。


 独自の発展を遂げた韓国・中国だが、人気のジャンル傾向は似ているようだ。「高身長でイケメン、高スペックだが、性格が悪くてクズなイケメン攻めが人気。社会的身分が高い攻めが、受けに対して辛く当たるようなシチュエーションが王道です。10年前くらいの日本BLでスタンダードだった『俺様』っぽい感じ」としながらも、「韓国の人気作では『受けにこんな酷い仕打ちをして許されるんだ……?』と感じるようなものもあります(笑)」とも答える。


◼️海外からみた日本BLとは? 人気作の共通点は「絵柄」


 現状では、海外では紙媒体の漫画を読む習慣があまりなく、日本のBL漫画を翻訳したものも多くは流通していない。各国でBLコンテンツが作られ、それぞれ人気も高まってきた。しかしながら、日本BLの歴史も長いので、根強い海外ファンもいることは間違いない。


 「海外で人気が出るうえで大事なポイントは"絵柄"。いかに綺麗な絵柄かが重要」としたうえで、「『君の夜に触れる』(シュークリーム)の、もりもより先生の繊細なタッチや、『不屈のゾノ』(KADOKAWA)のしっけ先生の可愛らしい画風が人気」と話す。


その他にもアニメ化された『黄昏アウトフォーカス』(講談社)、『ギヴン』(新書館)などは欧米でも人気が高いらしいが、そもそも日本BLはかなり人気や話題がないと原作が翻訳されないため、海外BLファンが触れる機会が少ないという。


 とはいえ、小説『美しい彼』は映像化をきっかけに海外SNSでも話題となり、原作小説が翻訳され各国で発刊された。日本BL界がさらに盛り上がれば、海外ファンにも日本BLの魅力を発信し続けられるだろう。


(文=住岡)



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