ナイキ「オワコン化」の足音 株価急落、新興シューズメーカーが影

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2024年10月16日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ナイキの株価は低迷(写真はイメージ)

 ナイキの株価が冴えない。


【画像】ナイキを脅かしている、2つの新興シューズブランド


 米ニューヨーク証券取引所に上場するナイキの株価は年初来でマイナス24.2%を記録している。同期間にS&P500指数が21.26%も上昇したことを踏まえると、ナイキは米国経済の堅実な成長に取り残されているようにみえる。


 この不調には複数の要因が絡んでいるようだ。ナイキが10月1日に発表した2025年度第1四半期決算によると、競争の激化や世界的な経済環境の変化に苦しんでいる様子がうかがえる。同社の売上高は116億ドル(約1.73兆円)にとどまり、前年同期比で約10%減少した。


●“お手本”のD2Cが不調


 事業部門別でみると、特にD2C事業である「NIKE Direct」部門の減収が目立つ。同部門の売上高は47億ドルで前年同期比で13%のマイナスとなった。


 ナイキのD2C事業は、コロナ禍中は巣ごもり需要の中で躍進し、全体の売り上げを牽引(けんいん)していたため、他のメーカーも見習うべき”お手本”としてもてはやされた。しかしここにきて消費者の購買行動が変化し、これまでの成長を牽引してきたはずのデジタル販売のチャネルで不振が際立っている。


 問題はそれだけではない。ナイキの地域別売上高をみてみると、北米、欧州、中東、アフリカといった全ての地域で前年同期比マイナスを記録している。ナイキ製品が売れにくくなっているのは特定の地域の不調ではなく、全世界的なものなのだ。


 結果、ナイキの純利益は前年同期比で-21%となる大幅減益となった。黒字ではあるため、直ちに倒産や経営危機になるような事態ではない。インフレが続く中で、ナイキは地道に製造、物流コストを削減しているが、これは売り上げ減少を完全に補うものではなかった。加えて、競争激化によるブランドマーケティング費用の増加も利益率を押し下げている。


●「オン」「ホカ」 新興メーカーが北米を席巻


 地域別で減収が最も顕著だった北米市場では、新興のシューズメーカーが注目を集めている。


 ナイキが利益率を押し下げてでもマーケティング費用を増加させたのは、競合他社との激しい市場争いが背景にあると考えられる。かつて、ナイキといえばアディダスやプーマが競合の筆頭であった。スポーツの文脈ではアシックスなどと鎬(しのぎ)を削っていたが、ここにきて「オン」「ホカ」という耳慣れない謎のブランドの台頭も見逃せない。


 「オン」(On)と「ホカ」(Hoka)は、どちらもランニング愛好者を中心に人気が高めるシューズブランドだ。ナイキのような大手スポーツブランドに対して独自の強みを持っている。


 オンは2010年にスイスで創業した比較的新しいブランドで、米国に株式を上場させている。最大の特徴は特許取得済みの「CloudTec」技術だ。この技術は、ランニング中に着地時の衝撃を吸収し、蹴り出しの際に効率的なエネルギーリターンを提供することを目的としているという。


 これにより、ランナーに快適さと推進力を与えるという点が支持されている。また、シンプルでミニマリスティックなデザインも欧州や北米の都市部で人気を博しているという。


 ホカはフランスのトレイルランニングシューズブランドとしてスタートし、その後アメリカで業績を拡大させた。ホカの最大の特徴は、厚底ソールとクッション性の高さだ。一般的にランニングシューズは軽さを重視する傾向にあるが、ホカはそれに反して、非常に厚みのあるソールを採用することで、長距離ランニングでも快適な走行を実現している。


 そのユニークなデザインがファッション性も兼ね備えており、ランナーだけでなく、日常使用するユーザーも増加しているという。


 ナイキとこれらの新興ブランドの違いは「選択と集中」だろう。ナイキは信頼性のあるブランドと広範なマーケティング力でシューズ全般を網羅する巨大ブランドだ。


 そうである一方で、オンやホカのような後発メーカーは特定のニッチ市場に特化し、そこから裾野を広げる形で展開している。オンは軽量かつ革新的なランニングシューズ技術で、ホカはクッション性とサポート力が際立っている。


●ユニクロの不遇期と似ている?


 筆者はナイキの苦境について、ユニクロの不遇期と似ていると感じた。ユニクロは、2000年代に「ユニバレ・ユニ被り問題」(自分の服がユニクロとバレたり、他人と同じユニクロの服を着たりして恥ずかしいという問題)により、ブランドイメージを損なったことがある。


 しかしユニクロは以下の戦略でブランドを再構築し、復活を果たしたわけだが、これらをナイキに当てはめることで、同様の成果を上げる可能性があるのではないか。


 まず、ユニクロは有名デザイナーやブランドとのコラボレーションによって差別化をはかり、ユニクロのベーシックでありふれたイメージを刷新し、ファッション感度の高い消費者層をひきつけることに成功した。


 ナイキもすでに数々のコラボレーションを展開しているが、今後さらに新興デザイナーや特定のニッチ市場にフォーカスすることで、限定感や特別感を強化できる可能性がある。


 次に、ユニクロが復活した大きな要因として、機能性製品の開発が挙げられる。ヒートテックやエアリズムといった革新的な技術を用いた製品は、消費者に実用的な価値を提供し、他のブランドとの差別化を実現した。ナイキも同様にブランドそのものに加えて機能性を強調した商品をさらに開発・展開することで、消費者のニーズに応えることができるかもしれない。


 ナイキは2024年10月に新たなCEOとしてエリオット・ヒルを迎える予定であり、この経営陣の交代が企業の将来にどう影響するかが注目されている。同氏のリーダーシップの下で、ナイキは成長の軌道を取り戻すためにイノベーションを生み出すことができるのだろうか。


 ナイキは成熟したブランドである一方で、新興ブランド台頭による相対的な魅力の低下という苦境に面している。この状況から脱するためには、限定品などのブランドに依存した商法の枠組みを超えた新たな戦略や、消費者の機能性志向に対応した製品展開が急務だ。



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  • 「健康のために裸足で」運動が広がれば、つぶれるかな♫
    • イイネ!1
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