南米大陸連戦を終えて海を渡り、中国に上陸した2024年FIA TCRワールドツアーの第6戦が、10月18〜20日に香港とマカオに繋がる常設ストップ・アンド・ゴーの珠海国際サーキットで争われ、地元TCRチャイナを含め30台以上がグリッドに並ぶ活況を呈するなか、僚友2台を従えポールポジションを射止めたサンティアゴ・ウルティア(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)に対し、レース1ではライバルが逆襲する展開に。
まずはミケル・アズコナ(BRCヒョンデNスクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)が雨とセーフティカーの影響を受けた週末の最初のヒートを逆転で制し、遅ればせながらの今季初優勝を飾ってみせると、続くレース2では、ファイナルラップでネストール・ジロラミ(BRCヒョンデNスクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)からリードを奪ったマ・キンファ(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)が、スタンドの観客を沸かせる大逆転劇で地元ラウンドを制覇している。
TCRチャイナとの共同グリッドで迎えたワールドツアーは、この中国ラウンドを終えると恒例マカオでの最終戦を控える。そんなアジア連戦を前に、言わずと知れた2012年のWTCC世界ツーリングカー選手権王者ロブ・ハフが、この2戦限定ながらひさびさに世界戦へ復帰することがアナウンスされた。
「マカオに戻れることをとてもうれしく思っている。また、よく知っているシリーズであるTCRチャイナで珠海を攻略し、何ができるかも楽しみだよ」と、かつて同シリーズが独自の車両規定を採用していたCTCCチャイナ・ツーリングカー選手権時代にレギュラー参戦した実績も有するハフ。
「ワールドツアーに復帰できて光栄だし、とくに今はFIAのカテゴリーでもあるからね。チームメンバーの何人かは昨季一緒に働いていた仲でよく知っているし、もちろん開発に協力したのでクルマも熟知しているよ」と、今回はボルケーノ・モータースポーツに合流してアウディRS3 LMS 2に乗るハフは、昨季2023年シーズンにはコムトゥユー・レーシングのアウディでランキング3位を記録している。
「つまり10カ月間、このTCRでレースをしていないし、株洲に行くことはマカオへの良い準備になるだろうね。目標は明確で(マカオ通算)12回目の勝利を目指していく。そして、世界で一番好きな場所のひとつで今年を終えることができたら最高だ」
■電動ツーリングカー規定が中国で再始動。新マシンも披露
そんな地元ファンにも顔馴染みの“マカオマイスター”に注目が集まるなか、ウエットコンディションで開始された初日フリープラクティス(FP)からは同じく地元戦に意気込むリンク&コー・シアン・レーシング艦隊が先行する展開に。
金曜から選手権首位ノルベルト・ミケリス(BRCヒョンデNスクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)を0.002秒差で退けたウルティアが、続く土曜のFP3でも好調なペースを維持して陣営のワン・ツー・スリー・フォーを牽引すると、予選では僚友テッド・ビョークとヤン・エルラシェール(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)らも抑えトップに立った。
さらに週末最初のレース1を前に、TCRチャイナとTCRアジアのプロモーターであるリシェンスポーツと、ミシュラン中国法人による新たな取り組みとして、TCRの統括団体であるWSCとの契約で『ETCR』の名称を使用し、世界戦こそ短命に終わった電動ツーリングカー規定が中国で再始動することも発表された。
「近年、中国の新エネルギー車市場と技術は急速に発展し、国内の電動レーシングカーとイベントの発展を促進できる機運が高まっている」と語ったのは、ミシュランのアジア太平洋イベントディレクターを務めるマ・ベン氏。
「創設パートナーとして、中国でETCRエレクトリック・レーシング・チャンピオンシップを推進し、電動レースの分野での協力を通じて我々も新しい技術とソリューションの開発と評価を続け、ミシュランの継続的なイノベーションにより環境への持続可能性に対するコミットメントを果たしていきたい」
その一環として、先の5月に上海国際サーキットで開催されたABB FIAフォーミュラE世界選手権で公開されていたドンファンブランドの『eπ 007』をベースとした『JF-007』が披露され、週末のワールドツアーとチャイナの合同ラウンドには2台のプロトタイプが登場。うち1台は元ワールドツアーレギュラーのフレデリック・バービッシュがステアリングを握った。
中国の三大国有自動車メーカーのひとつ、東風汽車集団が手掛ける“主流技術的”電気ブランド『eπ』の量産モデルをベースにジャンフェン・カンパニーが設計するETCR規定レースカーは、800Vの高電圧対応プラットフォームや同軸デュアルモーターの後輪駆動を採用。最大350kwのピークパワーと200kwの定格パワーを持ち、79kWhのレース専用バッテリーパックを搭載する。これにより20分以上のスプリントレースのニーズに対応でき、今後のローカライズとさらなる性能向上が期待されている。
■雨のなかアズコナが“余裕”の今季初優勝
そうして迎えたレース1は、スタート進行から小雨が降り始めるなか、ほぼ全車がスリック装着でグリーンシグナルを迎える。ここで首位攻防を繰り広げたのは早々にトップランを奪ったビョーク、エルラシェールの2台に、4番手発進から詰め寄ったアズコナのヒョンデとなり、その後はチャイナ登録ドライバーのアクシデントにより、都合2回のセーフティカー(SC)が発動することに。
この2度目のリスタートで雨脚が強まると、明らかにエラントラのペースが上がり、そのままビョークを簡単に追い抜いたアズコナが待望の今季初優勝を手にした。
「スタートで雨粒を見たとき、これが唯一のチャンスだと思ったよ」と、背後ではレインタイヤ換装組も追い上げを見せるなか、余裕の言葉を発したアズコナ。「ドライでは最高で4位までしか出せなかったから、雨はうれしかった。計算してみたら……残り16周、ペースはすごくいいから『勝てる』と。だから、ミスをしないように、いいラインを見つけようとしたんだ。こういうコンディションが好きだから、本当にうれしいよ」
この結果により、ジロラミがリバースポールからレース2に臨み、その背後から“換装組”だったマルコ・ブティ(ゴート・レーシング・チーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)を従えターン1に向かったが、そこで先手を奪ったのは2列目発進のキンファに。
ふたたび3周目にSCが出動したものの、その後はポジションを奪還したジロラミにキンファ、そしてエステバン・グエリエリ(ゴート・レーシング・チーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)がトップ3を形成する。しかし最後の数周でヒョンデへのプレッシャーを強めたリンク&コーが、ホイール・トゥ・ホイールの接触バトルの末に、最終周で首位浮上に成功。地元のキンファがジロラミに0.4秒差で母国勝利を飾ってみせた。
「本当にハッピーだよ! レースはクレイジーだったし、ネストール(・ジロラミ)は良いペースで走っていて、かなりうまくディフェンスしていたが、彼はT3で少しミスを犯した。かなり公平だったと思うし、良いレースだった。地元で勝てて本当にうれしいよ」
レース2終盤に僚友からポジションを譲られたミケリスが8位に入り、依然としてチャンピオンシップでのリードを維持。FIA格式初年度だった2024年FIA TCRワールドツアーは、続く11月14日〜17日に伝説的なトラックでもあるマカオ市街地ギア・サーキットで、シーズン最終戦を迎える。