「童心に帰って、子どもに戻ってこの映画を見ていただきたい」『リトル・ワンダーズ』ウェストン・ラズーリ監督【インタビュー】

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2024年10月24日 08:10  エンタメOVO

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ウェストン・ラズーリ監督 (C)エンタメOVO

 舞台は米ワイオミング。ママの大好きなブルーベリーパイを手に入れる冒険に出た悪ガキ3人組が、謎の魔女集団に遭遇したことから思わぬ戦いに巻き込まれていく姿を、16ミリフィルムで撮影したアドベンチャー映画『リトル・ワンダーズ』が10月25日から全国公開される。各国の映画祭で評判を呼んだ本作が長編デビューとなったウェストン・ラズーリ監督に話を聞いた。




−この映画が各国の映画祭で評判になっていますね。

 夢がかなった思いです。特にプレミアがカンヌ国際映画祭だったのですごくうれしかったです。映画が完成してからのこの1年半はいろんな映画祭に行ったりして、すごく美しく特別な時間になりました。

−子どもたちが天使にも悪魔にも見えるストーリーのアイデアどこから? 監督自身の経験が反映されているのでしょうか。

 間違いなく自分が経験したことが反映されています。僕は三人兄弟の長男で天使の時もありましたが、どちらかというとリトルデビルだった時間の方が長いかもしれません。ただ、悪魔というよりはゴブリン(伝説上の小悪魔)のようでした。今回は子どもたちをそのゴブリンに見立てて、ちょっといたずらなキャラクターとして、彼らの視点からアドベンチャーを見せようと考えました。

−この映画は、1970年代から80年代の映画、例えば『グーニーズ』(85)や『スタンド・バイ・ミー』(86)を思わせるような雰囲気がありましたが、そういうテイストは意識しましたか。

 『スタンド・バイ・ミー』はとても好きな作品です。特にワールドビルディング(架空の世界を構築すること)の世界観作りの一部として、観客に見えないものや知らないものが会話に出てくるところがすごく気に入っています。例えば、『スタンド・バイ・ミー』には、「裏道を使って」みたいな会話がありますが、別に裏道は出てこないし、その会話が直接物語に関わってくるわけではありません。この映画の中でも、例えばアリスが母親の仕事のことを口にしますが、みなまで言わず、観客が「ホテルなのかな?」と想像するような進め方にしています。

−映画の舞台はワイオミングなので、ちょっと西部劇っぽかったり、ケイパームービー(強盗映画)、フォークホラー(民間伝承)など、いろいろな要素が入っていますね。

 この映画の脚本は、自分が作りたいと思っていた映画が作れないフラストレーションから生まれたものでした。脚本をたくさん書きました。例えば、壮大な犯罪もの、小規模なファンタジー…。そうした今まで書いたいろんな脚本に、バイクやケイパームービーの要素を一つに組み合わせて書いた脚本なんです。実は製作費がかかる壮大なファンタジーアクションアドベンチャーを作るのが夢なのですが、初めての監督がそんなに製作費をもらえるはずもないですからね。

−子どもたちを演出するのは大変でしたか。

 本当に楽しかったし、大きな挑戦でもありました。彼らは撮影現場にいられることがうれしくて、いいエネルギーも発散して、最高の演技がしたいと思ってくれてはいるのですが、ちょっとせりふを忘れてしまったり、カメラを見てしまったり、意識が散漫になってしまうこともありました。なので、僕はポイント制を編み出しました。「カット」と言った後に、次のテイクを撮るためにリセットしますが、その時に一番早くバミリ(出演者の立ち位置)に戻れた子にポイントを付ける。そしてその日の撮影が終わった時に一番高いポイントを持っている子に小道具をプレゼントするというような形にしました。

−子どもたちが、プレイヤーの「ベイビー・カム・バック」で踊るシーンが印象的でしたが、あの踊りはアドリブでしたか。

 最後の方で、ちょっとユーモラスなダンスシーンを入れるのもいいと思いました。子どもたちのダンス自体はアドリブです。一応、振り付けは考えたのですが、時間的に間に合いませんでした。あの場面は、ワイドの2種類と寄りを1つ、それからスローモーションの寄りを1つ撮りました。なので編集が大変でした。あの曲は、編集をしていた時にSpotifyでかかっていたのをたまたま聴いて合うと思って選んだのですが、結果的にあの曲がこのシーンをまとめてくれたのでよかったです。

−この映画では、パイが重要な役割を果たしますが、アメリカの子どもにたちにとってパイは日常的なものなのでしょうか。

 一言でいえば「クラシック(古典的)でコンフォート(快適)なもの」。食べて落ち着くようなものです。でも今はそれほど人気はないです。今のイメージだとタイムレス。昔ながらの、地方でよく食べられるものみたいな感じです。あとは、この映画では、童話によく出てくるアイテムの1つみたいなテイストも入っています。

−子どもたちが最初に盗むゲームの名前が日本名だったり、いろんなところで日本のカルチャーの影響が見られましたが、日本をすごく意識しているのですか。

 もちろん意識しています。日本の文化や映画、アニメ、漫画も大好きです。この映画でオマージュをささげたいという気持ちもありました。特に日本のアニメは、ユーモアとシリアスのバランスがとてもいいと思います。そういう特殊なトーンをこの映画でも追求したいと思いました。

−日本の映画やアニメなどで特に好きなものは?

 宮崎駿監督が関わった初期の「未来少年コナン」にはすごく思い入れがあります。あとは今敏監督の作品や「スピード・レーサー(「マッハGoGoGo」)」も。実写映画では黒澤明監督の作品や60年代のジャパンニューウェーブなど、好きなものはたくさんあります。黒澤監督の『隠し砦の三悪人』(58)については、この映画でちょっとリサイクルしています。特にあの映画の森の何でもありな感じや何が起きてもおかしくないような雰囲気は、この映画の森にも反映させました。

−この映画は16ミリフィルムで撮っていてそれがいい味になっていますが、それは予算の関係もあったのですか。

 完全に芸術的な選択です。もともと16ミリが大好きなんです。16ミリで撮ることで特別な魂が宿るんじゃないかと思いました。

−最後に読者に向けて、見どころも含めてアピールを。

 自分の子ども時代を思い出すような感覚をぜひ味わっていただきたいです。子ども時代にこういうアドベンチャーを経験していない方もいらっしゃるかと思いますが、そういう方も、実際に経験した方も、どちらも安全にこの世界に身を浸すことができると思います。本当に童心に帰って、子どもに戻ってこの映画を見ていただきたいと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)


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