ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、現在残された実質的に最後の2025年シートを持つザウバー/アウディの選択肢について考察した。ベテランと若手の両方を含む多数のドライバーが候補となっているが、そのなかで、望む相手と契約年数など条件において合意に達するのは簡単なことではないようだ。
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2025年F1の空きシートは、実質的にザウバーの1席のみとなっている(RBは外部からドライバーを起用しないと思われるため)。2026年にはアウディのフルワークスチームとしてF1に参戦するザウバーは、4月にニコ・ヒュルケンベルグと2025〜2026年の契約を結んだ。
ヒュルケンベルグの隣のシートを狙うドライバーは数人おり、ボスのマッティア・ビノットはゆっくり決断を下すことができる。候補者全員が、F1において他に選択肢がないからだ。とはいえ、ビノットは今月中には2025年のドライバーラインアップを確定させると思われ、候補は絞られてきている。現時点での8人の候補者の状況を見ていこう。
■バルテリ・ボッタス
3シーズンにわたりザウバーで走っているボッタスは、ヒュルケンベルグのパートナーの最有力候補だ。ボッタスは経験豊富で、メルセデスに所属した5年間(2017年〜2021年)で、マニュファクチャラーの支援を受けるワークスチームがどういう体制で機能するのかを熟知している。ボッタスのこういった経験は、2026年にアウディに移行するザウバーが必要としているものだ。
まだ契約に至っていないのは、チーム上層部とボッタスの望んでいる契約期間が異なっているからだ。ビノットは、37歳のヒュルケンベルグと35歳のボッタスのペアを長期的に維持するのは得策ではないと分かっている。ボッタスの方は、チームの移行期間となる2025年に再び下位を走り続けなければならないことを知っているため、複数年契約を望んでいる。この点における違いが、交渉を長引かせている要因だろう。
しかし、ボッタスは、遅かれ早かれ、1年契約を受け入れるのが賢明であると気付くはずだ。他のカテゴリーで不確かな未来を迎えるより、さらに1年間、F1で走る方がいい。そのシーズンに良い印象を与えることができれば、契約が延長される可能性も出てくるのだ。そうでなければ、ボッタスが今熱心に打ち込んでいる新しい趣味の自転車レースに転向するのもいいかもしれない。
■ガブリエル・ボルトレート
ブラジル出身20歳のボルトレートは、オスカー・ピアストリと同じ偉業を達成するかもしれない。彼は2023年に参戦初年度のFIA F3でタイトルを獲得、今年はFIA F2初年度でチャンピオンになるかもしれないのだ。2020年から2021年にそれを成し遂げたピアストリの才能は、今のF1での活躍を見れば明らかである。
ピアストリが所属するマクラーレンは昨年、ボルトレートを育成プログラムのメンバーに加えた。CEOザク・ブラウンは、ボルトレートがザウバーでルーキーとしてF1の経験を積むことを望んでいる。そして、ランド・ノリスかピアストリがチームを去ったときには、ボルトレートを呼び戻したいと考えているのだ。一方ザウバーは、自分たちが教育したルーキーが、ある程度成長した後に、他のチームに行ってしまうようなことは望んでいない。F1としてはブラジル人ドライバーをフィールドに加えたいところだが、ボルトレートがザウバーに選ばれる可能性は低いだろう。
■フランコ・コラピント
フランコ・コラピントについても、同じことが言える。彼は少し前までFIA F2で走る無名のドライバーだったが、今や最も有望な若手のひとりという評価を受けている。この躍進を裏で支えたのは、有能なマネージャーのマリア・カタリネウだ。ローガン・サージェントがレースシートから外される可能性を考慮して、彼女はコラピントをウイリアムズのドライバー・アカデミーに加入させた。才能あるドライバーであっても、発掘されるチャンスを得るのがどれほど難しいか、彼女は知っていて、コラピントがいずれ輝けるような場所を用意したわけだ。
コラピントの今のパフォーマンスは非常に印象的だ。しかし彼にとっては残念なことに、ウイリアムズは2025年に向けて、アレクサンダー・アルボンとカルロス・サインツのふたりと契約している。ザウバーとしてはコラピントを獲得したいと考えているが、ウイリアムズは、チームの将来のために、彼を完全に手放すことは望んでいない。チーム代表ジェームズ・ボウルズは、コラピントをザウバーに一時的に貸し出すことには前向きだ。しかし、ザウバーとしては、コラピントの授業料を払った後に彼を失うようなことは避けたいだろう。
■ミック・シューマッハー
優秀なマネージャーのサビーネ・ケームのおかげで、シューマッハーはビノットの検討対象のひとりに残っている。ビノットが関心を持つ一番の理由は、“シューマッハー”という名前とそれが提供するPRのチャンスかもしれない。だが、シューマッハーはFIA F2でチャンピオンになった後、F1で2シーズンを過ごした経験を持ち、メルセデスで得た多くのノウハウをザウバーに持ち込むこともできる。
■ケビン・マグヌッセン
ケビン・マグヌッセンを選ぶ理由はたくさんある。彼は経験豊富だし、2025年にザウバーが使用するフェラーリ製エンジンについての知識もある。1年契約も受け入れるだろうし、ヒュルケンベルグとは現在ハースで良好な関係を築いている。そして、2022年にはハースでミック・シューマッハーを大きくしのいでいた。
だが問題は、マグヌッセンの方が、ザウバーに行くことにあまり関心を持っていないように見えることだ。彼の2025年の計画には、F1でフルシーズンを戦うことは含まれていない。また、2023年から2024年のチームメイト、ヒュルケンベルグには負け続けているため、マグヌッセンとしては、ザウバーで再びヒュルケンベルグと組むことを前向きに考えることはないだろう。
■ゼイン・マローニ
ゼイン・マローニはバルバドス初のF1ドライバーになることを夢見ている。2022年にはレッドブルのジュニアプログラムに加入したが、今年1月にザウバーのアカデミーに移った。さらにFIA F2では現在ランキング3位だ。それでもザウバーは今のところ、マローニを2025年のドライバー候補とは考えていないようだ。
■テオ・プルシェール
フランス出身21歳のテオ・プルシェールは、2020年からザウバーの育成プログラムのメンバーであり、2023年のFIA F2チャンピオンだ。すでにFP1での走行や若手ドライバーテストにも起用されている。それでもプルシェールは、2025年の有力なドライバー候補とはみなされていない。プルシェールはそれを知っており、来月には世界耐久選手権WECのルーキーテストにプジョーから参加することが決まっている。
■セルジオ・ペレス
ビノットがいまだにドライバーを確定させずにいるのは、セルジオ・ペレスを選択肢として考えているからだという見方もできる。ペレスは今シーズン終了後にレッドブルから外される可能性があると考えられている。そういう推測が出るほど、ペレスの今年の成績は期待外れなのだが、ザウバーは2025年ドライバーとして彼の起用を検討してもおかしくはない。ペレスは2011年にザウバーでF1デビューを飾った後、グランプリで複数回優勝している(ヒュルケンベルグはまだ表彰台の経験もない)。さらにペレスがメキシコから得ている強力な支援も、チームにとっては魅力的だ。