「真っすぐ、真ん中高め。お願いします!」
11月13日に第3回プレミア12の初戦を迎える侍ジャパンの宮崎合宿2日目。ブルペンに入ったセットアッパー候補の藤平尚真(楽天)と清水達也(中日)はそう言うと、交代で受ける捕手の坂倉将吾(広島)、佐藤都志也(ロッテ)、古賀悠斗(西武)に質の高い球を投げ込んでいく。
井端弘和監督や吉見一起投手コーチとともに、キャッチャーの後方で見つめるのが大勢(巨人)だ。清水の後ろに陣取り、iPadでトラックマンの数値を確認していた。
「自分の練習が終わって、時間があったので見に来ました。(清水は)セ・リーグでずっと対戦相手でやっていたピッチャーだったので、どんなボールを投げているかを後ろで見たいなと。やっぱりコントロールがすごいですね。あとはカーブ、回転軸がすごいなって見ていました」
【国際大会は高めの真っすぐ】
開幕まで2週間を切ったプレミア12。11月13日の初戦(オーストラリア戦)に合わせて、侍ジャパンの投手陣は個別で調整をまかされている。初日は左腕の鈴木翔天(そら/楽天)、2日目は藤平と清水しかブルペンに入っていないが、投球練習を見ているとレベルの高さが伝わってきた。
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そのひとつが、真ん中高めの真っすぐだ。近年、空振りを取れる球として知られている。とくにバットを下から振り上げるスイングに対し、勢いのある真っすぐは効果的だ。
ブルペンで計17球を投げた直後、藤平はこう話した。
「僕はタイプ的にホップするボールが持ち味でもありますし、自信のあるボールです。やっぱり高低、低めに投げるボールと高めに投げるボールを両方使えたほうが絶対にいい。国際試合になると高めがすごく有効になってくると思うので、そこは練習していきたいと思っています」
高卒8年目の今季、47試合で0勝1敗1セーブ、20ホールド、防御率1.75、WHIP(※)0.88と抜群の成績を残した藤平は、初めて国際大会で日本代表に招集された。
※投手の指標のひとつで、1イニングあたりに何人の出塁を許したかを示したもの
ではなぜ、国際大会では高めの真っすぐが有効になると思うのだろうか。
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「僕は中継ぎなので、データを入れるために(過去の)プレミア12やWBCを何試合か見ました。やっぱりバッターの振り方も日本とは少し違います。メジャーリーガーでも高めに構えるキャッチャーがすごく多いと思います。そこもキャッチャーと話したら、坂倉も『高めは使っていきたい』と言っていました。そこは自分が合わせていくところだと思うので、ブルペンで今日、高めを狙って投げることも何球かしました」
一方の清水は、今季60試合で3勝1敗1セーブ、36ホールド、防御率1.40、WHIP1.02。3年連続で50試合以上登板を果たしたが、高めの真っすぐは普段から意識しているという。
「シーズン中から心がけています。僕は高低勝負のピッチャーだと思っているので。海外の選手は高低、とくに落ち球に弱いと聞くので、しっかり僕の特徴を生かせたらと思います」
藤平、清水ともに、力のある真っすぐを軸にフォークで空振りを取れる右腕投手だ。プレミア12でもカギを握る存在になるだろう。
【独特な軌道の鈴木翔天のスライダー】
そして勝ちパターンの最後を担うのが、2023年WBCにも出場した大勢だ。
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「国際試合は高めの真っすぐが有効になると思います。過去の強化試合とWBCで投げさせていただき、感じた部分です」
大勢は好調時、ストレートの回転数は2500台後半を記録(1分間あたりの数字)。腕を振るアングルが独特のため、軌道的にも相手打者にとっては厄介なボールだ。
「僕のストレートはシュート回転するんですけど、見ている感じだとストレートがシュートして垂れるというより、シュートしながら伸びるイメージのほうが、僕のなかではいい時だと思います」
大勢の決め球もフォークだ。とくに今年は感覚よく投げられ、トラックマンの数値的にもよかったという。
今やトラッキングデータを気にしながら投球練習するプロ野球選手の姿は当たり前になったが、侍ジャパンのリリーバーたちも当然のように言及した。
その意味でもうひとり、面白い存在が楽天の鈴木だ。今季は49試合で2勝0敗1セーブ24ホールド、防御率1.66、WHIP0.92という好成績を残し、28歳で侍ジャパンに初招集された。
このサウスポーに興味を示したのが、トラックマンのアナリストだ。宮崎合宿初日でブルペンを終えたあと、熱心に会話を交わす姿があった。鈴木が明かす。
「アナリストの方から『シーズン中もこういう数字なのか』とか、『どういう意識で投げているのか』と聞かれ、いろいろすり合わせをしていました。いろいろな考えをあらためて聞けるのは、自分にとっても新たな引き出しになるので、すごくいい時間でした」
アナリストが特に注目したのは、鈴木の宝刀であるスライダーだった。ほかの投手ではなかなか見たことのないような軌道で、トラックマンの数値的にもよかったという。
鈴木がスライダーの握りを示すと、親指を擦るように使う点がほかの投手とは異なっていた。おそらくそれが、ほかの投手とは違う軌道を生み出しているのだろう。何かが周りと違うからこそ、"宝刀"になるわけだ。
「僕は親指を使わないと、変化球は投げられないんで。逆に僕からしたら、それが普通だと思っていました。それが普通じゃないんだって、今回知りましたね(笑)」
捕手の坂倉も「見たことのないボール」とコメントしていたが、"平均"から外れることは武器になる。軌道を思い描いて打ちにいく打者にとって、そのイメージから外れるからだ。再び鈴木の弁だ。
「いかに(縦変化と横変化で)平均の数値から外れるか。みんな、試行錯誤してやっていますよ。データを見て、『外れた位置にある人は誰だろう?』と思ったら、やっぱり活躍している人でした。平均から外れたボールは武器になるので、そういうボールが1個でも多くあればいいなって思いながら僕も練習しています」
鈴木は新しい球種を投げたいと思ったとき、実際に投げてみてそのボールを解析し、「このボールだと、このぐらい変化したら抑えられる」と判断したうえで磨いていくという。データ好きの自身について「ほぼ趣味ですけどね」と笑うが、今回、侍ジャパン投手陣で最年長左腕は、そうして野球の腕を磨いてきたわけだ。
鈴木や藤平、清水、そして大勢をはじめ、日本代表に選ばれるだけの能力を持つ、多士済々のブルペン陣。プレミア12で力を最大限に発揮すべく、個々が本番に合わせて調整を続けている。