日本だけでなく、世界中の映画ファンから愛されている超巨大スター・ゴジラが今年で生誕70周年を迎える。ここでは60年代から日本全国の子どもたちを中心に巻き起こった空前の「怪獣ブーム」の渦中に誕生したソフトビニール人形、いわゆる「ソフビ」フィギュアをご紹介しながら、激闘の70年間を現役映画スターとして生き抜いて、さらなる未来へと飛び出そうとしているゴジラの前途を祝してみたい。
ゴジラシリーズの原点となる水爆大怪獣映画『ゴジラ』(監督:本多猪四郎/特殊技術:円谷英二)の公開日は1954年11月3日。水爆実験によって安住の地を追い出された古代生物の生き残りが、東京を炎の海に変えるスペクタクルを、緻密かつ大胆な特撮技術で表現。日本全国で大当たりを取ったという。『ゴジラ』の大ヒットによって東宝映画に「特撮怪獣映画」というジャンルが生まれ、以後『ゴジラの逆襲』(1955年)、『空の大怪獣ラドン』(1956年)『地球防衛軍』(1957年)『モスラ』(1961年)をはじめとする、円谷英二特技監督の卓越した特撮テクニックを駆使した特撮映画がぞくぞくと生まれ、世界各国でも評判を取った。
東宝が作った多くの特撮怪獣映画の中でもゴジラの人気はひときわ高く、アメリカを代表する超人気怪獣キングコングとゴジラがモンスター級王座をかけて大決戦を繰り広げる『キングコング対ゴジラ』(1962年)や、平和の使者モスラ親子とゴジラの激戦が山場となった『モスラ対ゴジラ』(1964年)、宇宙超怪獣キングギドラを迎え撃つため、ゴジラ、ラドン、モスラの三大怪獣が力を合わせて戦う『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)など、ゴジラと他の怪獣が戦いを繰り広げる「対決ジャンル」の怪獣映画が好評を博すようになる。
最初は人類の築き上げた文明を脅かす災厄のような立ち位置だったゴジラが、他のライバル怪獣や人類との激闘を続けていくうちにだんだん性格が丸くなり、70年代になると宇宙からやってきた凶悪怪獣から人類を守って戦う、正義のヒーロー的ポジションへとキャラクターが変化していく。これにともなって当初の凶暴そうな顔つきから、だんだん愛嬌を打ち出した愛らしいスタイルへと、外見も変わっていくこととなった。ここでは60年代から日本全国の子どもたちを中心に巻き起こった空前の「怪獣ブーム」の渦中に誕生したソフトビニール人形、いわゆる「ソフビ」フィギュアをご紹介しながら、激闘の70年間を現役映画スターとして生き抜いて、さらなる未来へと飛び出そうとしているゴジラの前途を祝してみたい。
(記事中のソフビフィギュアはすべて著者私物)
2023年11月3日に公開された山崎貴監督作品『ゴジラ−1.0』にて、戦後間もない日本を恐怖に陥れた巨大怪獣ゴジラ。公開と同時に発売されたバンダイ・ムービーモンスターシリーズ「ゴジラ2023」は、フルCGで生々しい生物感を表現した本作のゴジラの特徴を見事につかみ、今にも足元の人間に向かって吠えかかってきそうな迫力をかもしだしている。11月2日に本作の地上波テレビ放送が行われた際、山崎監督による「ゴジラ第2弾」の製作決定が報じられ、大いに話題を集めた。
バンダイ・ムービーモンスターシリーズで第1作『ゴジラ』(1954年)のゴジラが発売されたのは2005年。何度か再販された人気商品で、現在もほぼ同型の商品が発売中である。このゴジラこそ、後にさまざまなデザイン・造形のバリエーションが生み出されるゴジラの基本形。50年代にポピュラーだった古代恐竜に、どこか「人間」のイメージが重なって見えるのは、映画のゴジラが「モンスタースーツ(演者が中に入って動かす手法)」で表現されているからに違いない。
ゴジラのソフビフィギュアは当初、マルサンからスタンダードサイズが1966年に発売され、爆発的な怪獣ブームの中で大ヒットした。もとは同じマルサンの「電動プラモデル怪獣 ゴジラ」が先にあり、新しく原型を起こしてソフビ人形化したという。やがて金型がブルマァクに引き継がれ、1970年に発売。二度目の怪獣ブームを牽引する商品となった。写真の商品は、『ゴジラVSモスラ』(1992年)公開時、バンダイから他の東宝怪獣ソフビとともに復刻されたもの。『キングコング対ゴジラ』のゴジラを思わせる、シャープな顔つきでファンの人気が高い。
『メカゴジラの逆襲』(1975年)以降、しばらくシリーズ新作がなかったゴジラだが、60〜70年代にゴジラや特撮映画を観ていた若いファンたちを中心に、ふたたびゴジラの新作を作ってほしいというムーブメントが巻き起こった。特撮ファンの本格志向に応える形で、従来のソフビフィギュアよりもより劇中のイメージを重視した、リアル風味の商品が登場。その先陣を切ったのが、山勝商店より発売されたこちらのゴジラ(1983年)である。他にもアンギラス、モス ラ幼虫、キングギドラ、バラゴンなど数種類が発売されている。
バンダイから1983年に発売された「グレートモンスター ゴジラ」。大人の特撮ファンに向けた精密造形・少量生産の「ガレージキット」人気を受け、児童をメインターゲットとする怪獣ソフビの世界にも「リアル」の波が到来。本商品は『キングコング対ゴジラ』のゴジラ(ゴジラファンから『キンゴジ』の愛称で親しまれている)の重厚さをイメージした、従来のソフビ商品にないボリューム感が魅力となった。
ゴジラファンの熱い思いに応える形で、第1作をほうふつとさせる「恐怖のゴジラ」がついに復活を果たした。復活の『ゴジラ』(1984年)は後にシリーズ化され、さらにデザイン・造形をリニューアル。『ゴジラVSビオランテ』(1989年)以降のゴジラは全体イメージの統一化を図り「平成ゴジラ」と呼ばれ人気を博した。写真の商品は『ゴジラVSキングギドラ』(1991年)公開に合わせて発売されたもので、スーツアクター・薩摩剣八郎が熱演した平成ゴジラのプロポーションや、表面の質感、照明が反射することによってギラリと光る眼など、撮影用スーツの忠実再現が試みられている。
『VSキングギドラ』が大ヒットを飛ばしたことにより、モスラを復活させた『ゴジラVSモスラ』(1992年)が製作され、こちらも特大ヒット。年末年始の量販店にはゴジラ&東宝怪獣コーナーが設けられ、子どもたちからの熱い視線を集めた。『VSモスラ』のゴジラフィギュアは前作から若干の修整が行われ、怪獣の意志を感じさせるよう目の部分を修整したり、口を開いて牙を見せたりと細かな造形が試みられた。
平成ゴジラVSシリーズ最終作として「ゴジラの死」を凄絶に描く『ゴジラVSデストロイア』(1995年)が公開。体内の原子炉が暴走し、体表がマグマのように燃え上がって見える通称「バーニングゴジラ」もソフビ商品化され、ゴジラファンを歓喜させた。全体のボリュームや各部の精密造形も含め「平成(VS)ゴジラ」商品の最高峰と呼びたい一品である。
ゴジラ映画の公開がない時期でも、バンダイ・ムービーモンスターシリーズはコンスタントに新商品を提供し続けている。ゴジラ、モスラ、アンギラス、ゴロザウルスなど10大怪獣連合軍が、キラアク星人の操るキングギドラと戦うSF特撮映画『怪獣総進撃』(1968年)でスーツを新調したゴジラがこちら。この時期のゴジラは、怪獣島の平和を脅かす外敵と命がけで戦っていた。闘争心と愛嬌を兼ね備えた「ヒーローゴジラ」を愛し、映画館やテレビの前で応援していた世代の強い支持を得た商品がこれだ。
『ゴジラ対メガロ』で電子ロボット・ジェットジャガーを助けてメガロやガイガンと戦ったゴジラ。この映画のために新調されたゴジラスーツは、クリクリ目と大きなアゴが印象的で、全体に丸みを帯びた愛らしいシルエットが特徴となった。第1作の「恐怖のゴジラ」を大事に思う特撮ファンから、子どもたちへのサービスが過ぎるとして後年になって反発を受けたこのゴジラ。しかし、すべてのゴジラシリーズが比較的容易に鑑賞できる時代になり、それぞれの作品の良さが見直されている近年だと、この可愛らしさ満点のゴジラもまた、実に味わい深く魅力的なキャラクターだと感じることができる。
ゴジラ誕生20周年記念映画『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)で、宇宙ロボット・メカゴジラと血みどろの死闘を繰り広げた際のゴジラ。前作『対メガロ』のスーツを補修改造し、いっそうつぶらな目の印象が強まった。ソフビフィギュアは対メカゴジラ戦ゴジラの、最高のエンターテイナーを思わせる軽快なたたずまいを忠実に再現している。
『メカゴジラの逆襲』(1975年)以来、9年ぶりの新作ゴジラ映画となった『ゴジラ』(1984年)は、第1作『ゴジラ』から直結した世界観が築かれ、「あのゴジラが30年ぶりに日本へ現れた」というストーリーになった。ひさびさゴジラに取り組む東宝特撮スタッフは、大人の観客にも見ごたえのある作品にしようと意気込み、初代ゴジラの精神を継承した重量感のあるゴジラスーツを造形した。本商品は、そんな復活ゴジラの重厚なたたずまいを感じさせる良質の商品といえる。
第1作『ゴジラ』のヒットを受け、特撮テクニックをさらに飛躍させた上、ゴジラのライバルとして暴龍アンギラスを生み出した続編『ゴジラの逆襲』(1955年)で活躍したゴジラ。設定上は、日本に出現した第2のゴジラである。本作では敵怪獣との対戦を実現させるため、スーツ造形段階で両腕、両脚を胴体と別々に作り、野獣のような素早い動きができる工夫が施された。商品は本作のゴジラの粗削りな魅力を忠実再現。なかなか商品化の機会が少ない『逆襲』ゴジラだけに、熱心なファンからの人気を集めた。
第1作の時点でゴジラ映画は海外にも輸出され、多くの観客を楽しませてきた。特にアメリカでは『ゴジラ対メガロ』など一連の作品をヘビーローテーションでテレビ放送していたこともあり、熱狂的な「日本のカイジュウ」ファンが多く存在する。1998年にトライスター社で『GODZILLA』が作られたが、2014年にはまったく新しい設定・世界観でレジェンダリーピクチャーズが『GODZILLA』を製作。日本のゴジラとは違う、ハリウッドならではの風味が込められた超大作ゴジラ映画としてシリーズ化され、最新作『ゴジラVSコング 新たなる帝国』(2024年)まで数作品が「モンスターユニバース」として同一の世界観を有している。日本のゴジラ映画と並行する形で、アメリカ版『GODZILLA』のさらなる発展にも期待したい。
なお、2024年11月2日には、ゴジラ70周年を記念して、1954年公開の「ゴジラ」を再現した「ムービーモンスターシリーズ ゴジラ(1954)」がバンダイより登場する。70周年記念のエントリープライスとして価格は2,000円。ゴジラのソフビは初めてという方も、久々という方も、ぜひ手に取ってみてはいかがだろうか。
秋田英夫 あきたひでお 主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌・書籍でインタビュー取材・解説記事などを執筆。これまでの仕事は『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』『DVDバトルフィーバーJ(解説書)』ほか多数。 この著者の記事一覧はこちら(秋田英夫)