一条天皇が崩御し、世代が変わった。今まで当たり前だったことも変化し、それに伴って力のバランスも変化する。
これによって、にわかに道長の状況が変わり始めていた。
◆美しき帝の最期
一条天皇(塩野瑛久)がこの世を去った。次第に弱っていく姿に、彰子(見上愛)は不安を隠し切れない。
死を覚悟した帝が望むことはただひとつ。定子との子どもである敦康親王を東宮とすること。しかし、道長(柄本佑)は自分の孫・敦成を東宮としたい。世のため、と言いつつ、少しずつ道長が権力を持つ方向へと傾いてきているのが感じられる。
結局、道長に言い含められた行成(渡辺大知)の説得により、東宮は敦成となることが決まった。とはいえ、半ば無理やり東宮にした形だ。いびつではない、とは言えない。
これに怒ったのが彰子だ。敦成の母ではあるが、敦康を育てたという自負がある。ふたりの母であると自認している。どうして自分の許可なく、東宮を敦成としたのか、と道長に激昂。しかし、道長は政をするのは己だときっぱり。つまり、口を出すな、ということだ。
彰子は目に涙をためる。そして、まひろ(吉高由里子)に「何ゆえ女は政に関われぬのだ」と問いかける。なんとも胸が痛いやりとりである。
しかし、彰子の聡明さが際立つ。最初のころはあんなに話もせず、表情も変わらない人だったのに。感情の発露は、帝の力が大きい。
そして帝にとって、彰子とは。
伏せる帝のそばには彰子の姿があった。一条天皇の辞世の句は定子に向けられたものでは、とも言われているが、彰子との日々を見ているとそうとも言い切れないように思える。なんてことを言ったら清少納言(ファーストサマーウイカ)が怒りそうだが。
果たして、一条天皇の生涯にはどのような思い出が強く残っていたのだろうか。
◆道長の変わらない部分
新たに三条天皇(木村達成)の世が始まった。
一条天皇とはまた異なる、どこか力強さを感じる天皇だ。道長の思う通りにはさせないぞ、という気合いが感じられる。
衝突することもあったが、一条天皇と道長はどこかで少なからず信頼感があったように思う。しかし、三条天皇は笑顔を浮かべつつも、敵意がにじみ出ているような……。
これからの波乱を感じさせる。
そしてやっぱりこういうときに道長が訪れるのはまひろのもとだ。一方のまひろとしては、彰子の気持ちも知っているから複雑そうな面持ちだ。そしてまひろは道長になぜ敦成を東宮にすることで、自分の権力を示そうとしたのか、と尋ねる。
道長が言うことは昔と変わりがない。「俺は常にお前との約束を胸に生きてきた」。ここだけは揺るがない。
とは言え、若いころならいいけれど、今では重みが少し変わってくる。
このまま、道長の軸はまひろでありつづけるのだろうか……。
◆賢子に訪れた出会い
さて、まひろの周りでも変化が訪れていた。娘・賢子(南沙良)に出会いがあったのだ。盗人の一味から助けてくれた双寿丸(伊藤健太郎)。ハツラツとしていて、盗人から助けてくれるシーンなんてまさにヒーローの登場シーンそのもの! 後ろから光が差す演出もイイ。カッコよさが増す。
賢子は助けてくれた双寿丸にお礼として食事をごちそうする。いとはいい顔をしないが、賢子は楽しそうだ。双寿丸に「姫様って面でもないよな」と言われてもケラケラと笑っている。
まひろはそんな賢子に、あのようなことを言われても怒らないのかと問いかけると「私は怒ることが嫌いなの」と答える。それは道長が子どものころに言った言葉だった。一緒に暮らしているわけでもないのに、親子って恐ろしい。
それにしても、いまのまひろとしては道長にどういう思いを抱いているのだろう。相変わらず、道長はまひろへの想いがより強いようだけれど……。
◆バランスが崩れ始める
一条天皇が去ったことによって、世代が変わり、にわかに道長の周りのパワーバランスが崩れ始めたように見える。
彰子は弟たちを呼び、共に力を合わせよう、と手を取り合う。
道長を慕い、どんなときも変わらずら力になっていた行成も反発の姿勢を見せる。
しかし、これは道長の変化のせいでもあるだろう。緩やかに変わっていく思想。権力に対する考え方。偉くなどなりたくない、と言っていた道長だったが、偉くならなければできないこともある。それは民のために、まひろのために、のはずだった。その目的はいつすり替わっていたのだろうか。そもそも、道長自身が変わってしまったことに気がついていないのではないか。
大河ドラマを観ていると、年齢を重ねていく中で変化していく人柄、というのをよく目にする。なんだかそれは今の自分にも警告されているような……そんな気が、しないでもない。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ