◆ 白球つれづれ2024・第41回
プロ野球の日本シリーズは3日、DeNAがソフトバンクを4勝2敗で撃破して26年ぶりの日本一を手にした。
セ・リーグ3位から、まさに下剋上を完結させて三浦大輔監督が横浜の夜空に舞った。
ファンにとっては、狂喜乱舞の逆転優勝だが、野球に携わる関係者にとっては、別の意味で複雑な思いにさせられる今年のシリーズだった。
すべては大谷翔平選手の在籍するドジャースの、世界一を奪取するワールドシリーズ(以下WS)と日本シリーズの日程が被ったからだ。
日本時間10月26日に同時開催となった両シリーズ。午前中にWSで大谷や山本由伸投手の活躍を見て、夜に日本シリーズ。これ以上ないぜいたくな日々だったが、ビジネスとして捉えると話はややこしくなってくる。
先月30日の毎日新聞では、地上波でWSを独占放送するフジテレビに対して、日本野球機構(NPB以下同じ)が日本シリーズの取材パスを没収したと言う記事が配信された。
フジではWSの生配信だけでなく、夕方からもダイジェスト版を放送したが、これがNPBの逆鱗に触れたとされる。
「日本球界の最高のイベントと被るように再放送を入れるとは、けしからん」と言うわけだ。没収の事実は明らかになっていないが、それほどNPB側を神経質にさせたのは両シリーズの視聴率が絡んでいる。
第1戦がWS12.7%に対して日本シリーズは10.5%。
第2戦はWS13.9%に、日本シリーズ6.9%。
いずれも大谷の注目度を表すようにメジャーに軍配が上がっている。ここにフジのダイジェスト版が初戦8.1%で2戦目も5.6%と健闘。同局ではWSの中継で通常同時間帯の視聴率より約4倍数字を稼いだとされる。(数字はビデオリサーチ調べの関東地区平均世帯視聴率、以下同じ)
このまま推移すると、大谷ドジャースが優勝パレードを行った日本時間11月2日に日本シリーズもDeNA王手の第6戦が行わる予定だった。しかし、当日は大雨のために順延が決まって翌3日の決着。メジャーに邪魔される?ことなくフィナーレを迎えたのはせめてもの救いだった。
◆ 日本野球は米国のマイナーと化している現状
今季のスポーツマスコミは大谷狂想曲の様相を呈してきた。NHKのトップニュースでもドジャースの世界一が取り上げられる。
今月2日付のスポーツ紙を見ると、日刊スポーツ、スポーツニッポンと言った大手紙では1面から5ページ目までが大谷世界一を伝え、裏面から2〜3ページもドジャース特集。我が日本シリーズ第5戦は6〜7面に追いやられている。
もちろん、大谷悲願の初優勝と言うドラマがあったからに違いない。毎年こうなるわけではないとの見方もある。だが、大谷狂想曲は来年以降も続くだろう。ドジャースのWS進出の確率は今後も高い。もはや野球における日米格差は疑いようがない。
今オフには巨人・菅野智之、中日・小笠原慎之介両投手らがメジャー挑戦を表明している。さらに来オフ以降に佐々木朗希(ロッテ)、村上宗隆(ヤクルト)選手らのスーパースターがメジャー行きを視野に入れている。
気がつけば日本野球は米国のマイナーと化している。こんな状況を考えればもっと日本側はビジネス面でも今まで以上の創意工夫が必要になって来る。日本シリーズの日程をWSとぶつからないような方策も考えるべき。日本独自の魅力の発信やメジャーにないアピールも必要になって来る。
近年、野球界は、かつての親会社依存から独立採算に移行することで収益につなげている。観客動員も今季は全球団合計で2658万人余と史上最高の動員数を記録。“大谷効果”で少年野球の人口も回復傾向と言われる。
しかし、今の時代はテレビや新聞だけでなく情報も多様化している。ネット全盛の時代にファンのありようも変わり、ビジネスチャンスも違ってくる。
かつて、スポーツマスコミとNPBや球団とは「持ちつ持たれつ」の共存関係にあった。だが、各マスコミも数字を稼ぎ、収益をいかに稼ぐかに汲々とするようになる。
フジテレビの独自路線とNPBの怒りや焦り。他のスポーツに目を転じても巨額になる一方の放送権料などで、これまで地上波で放送されていたビッグイベントの放送中止が相次いでいる。
今年のWSと日本シリーズは曲がり角に差し掛かる日米格差を浮き彫りにしたことも確かだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)