セブン&アイ「コンビニ専業」「売上30兆」は成功するのか 気になる買収提案のゆくえ

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2024年11月07日 12:21  ITmedia ビジネスオンライン

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セブン&アイ・ホールディングスの行方は?(提供:ゲッティイメージズ)

 セブン&アイ・ホールディングスが、2030年度にグループの売り上げを30兆円に引き上げる構想を打ち出した。同社の売上高に当たる営業収益(2024年2月期)は、約11兆4700万円。前年と比べて3%ほど減少している。フランチャイズ店舗を含むグループ売り上げは約17.7兆円だ。


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 目標を掲げた「2030年度」は、同社でいえば2031年2月期の決算。あと6年半ほどで売り上げを約1.7倍にするのは、成長を加速させなければならず、直近の年商が減収になっていることからも、かなり困難でチェレンジングな目標と言えるだろう。


 同社が突然、このような拡大策に出た背景には、カナダのコンビニ大手であるアリマンタシォン・クシュタール社からの買収提案がある。クシュタールはコンビニ「クシュタール」や「サークルK」を、北米や欧州、香港など世界29の国・地域で展開。1万6000店を超える店舗数を有している。2024年4月期の売上高は約692億ドル(10兆3800億円、1ドル=150円換算)だ。


 両社の売り上げは現状ほぼ互角で、むしろセブン&アイの方がやや多いくらい。また、セブン&アイの世界店舗数は2月末時点で8万5000店近くに達している。つまり、セブン&アイの方が5倍以上も店舗が多い。もはやセブン&アイは、世界で最大といえるほどのコンビニ事業者なのである。


 クシュタールの買収提案は、2005年、2020〜21年に続いて今回で3回目だ。8月19日には5兆円以上の規模で買収提案を行ったが、セブン&アイでは「著しく過小評価」として拒否。その後クシュタールは10月9日、約7兆円に引き上げて買収提案を再度行った。買収提案に法的拘束力はないが、初回のアプローチは約20年も前にさかのぼるものであり、今後も諦めずに買収提案を続けていくのは間違いない。


 果たして買収から逃れるために打ち出したとみられる、セブン&アイの「30兆円構想」は実現するのだろうか。


●カギを握るのは「パートナー」か


 10月24日に公開した「IR DAY 2024 Autumn」でセブン&アイの井阪隆一社長は「セブン&アイが進出しているのは、まだ世界19の国と地域に過ぎない。空白地帯に進出することで、また既存の進出地域のさらなる出店で目標達成は可能」としている。


 現在、北欧以外の欧州は未進出、中東や中南米・アフリカにも未進出と、確かに出店余地は大きい。アジアでも、人口規模が大きいインドネシアは未進出だ。


 より具体的な店舗数は、次の図の通りだ。


 日本の店舗数は、ほぼ飽和状態。逆に成長余地がありそうなのは、インドや中国、フィリピン、ベトナム、メキシコなど人口が多い国だろうか。各国で店舗を経営してくれる信頼できるパートナーをどれだけ見つけられるか、また、どれだけ支援できるかが今後の成長を左右するだろう。


 実際に成功している国もたくさんあるのだから、人的リソースを集中させてパートナー発掘とブランドの趣旨に沿うようにハンドリングすれば、確かに売り上げ30兆円も夢でない感がある。なお2030年までに、世界30の国と地域にまで店舗を展開したいという目標も掲げている。


●キーワードの「食」ではフレッシュフードが重要に


 セブン&アイが、セブン‐イレブンの世界展開で重視しているのは「食」の強化だ。井阪社長は「フレッシュフードの売り上げ構成比と、客数には相関関係がある」としている。フレッシュフードとは、米飯やサンドイッチ、調理パンにサラダなどの商品を指す。例えば、フレッシュフードが約4割を占める日本では、1日平均で900人近くが来店する。オーストラリアでは約2割で650人ほど。カナダでは1割強で550人ほどとなっている。


 要はどの国も「食」を強化していくことで、来店人数を増やして、利益率を向上できる自信があるようだ。


 セブン&アイの24年2月期、チェーン全店売り上げ構成比を見ると、ファスト・フード29.2%、日配食品12.5%、加工食品26.6%、非食品31.7%となっている。つまり、実績が上がっていなかった国でも、ファストフードと日配食品の強化で、店舗が活性化して飛躍的に成長できるというわけだ。


 2021年の東京五輪はコロナ禍の最中でもあり、諸外国の報道陣も街中のレストランになかなか繰り出せなかったとされる。代わって、セブン‐イレブンに限らず、日本のコンビニのいつでも開いている便利さが重宝され、その魅力が世界的に発信された。


 特に「食」に関して、弁当やおにぎり、サンドイッチや総菜など、バラエティの豊かさやおいしさが評判になっていた。食は各国・地域・民族の伝統もあるので、どの国でも同じように品ぞろえをしてもうまくいかない。しかし、フレッシュフード重視という軸になる考え方を浸透させれば、アイテムが違えども、来店客数を増やせると考えているようだ。


●コングロマリット・ディスカウントに悩まされてきた


 日本企業の株価は、バブル崩壊以来30年の経済停滞で、全般に低くなっているといわれる。セブン&アイの株価も同様に、円安の進行などが影響して割安感が増している可能性がある。だからこそ、簡単に「買えるのではないか」と考える外資も出てくる。


 欧米の投資家の間には「コングロマリット・ディスカウント」という考え方がある。リスク分散のために企業はポートフォリオを組んで事業多角化を図るが、異業種が組み合わさった多角化はシナジー効果が薄く、経営が非効率になるというものだ。そのため、多角化を行っている企業に対する投資家の評価は低く、株価が低くなってしまう。


 セブン&アイは流通のマルチチャネルを目指したが、このコングロマリット・ディスカウントにハマってしまった。米国のモノいう株主、バリューアクト・キャピタル・マネジメントが、繰り返し事業をコンビニに絞れと提案していたのは、このコングロマリット・ディスカウントを脱し、正しく企業価値を評価してもらえるテーブルに着けと警鐘を鳴らしていたともいえる。


 こうした事情もあり、セブン&アイはかつてM&Aで取得した、長期低迷が続く百貨店のそごう・西武を、2023年9月に米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに売却した。また、祖業であるスーパーのイトーヨーカ堂が総合スーパーの退潮により、慢性的な不振に直面。衣料品平場に大手アパレルのアダストリアが開発したブランド「FOUND GOOD」を導入するなど、立て直しに懸命だ。


●「コンビニ一本足打法」は成功するか


 10月10日には、2025年度中にセブン&アイの社名を「セブン‐イレブン・コーポレーション(仮)」に改名し、コンビニ専業となることを発表。イトーヨーカ堂や外食のセブン&アイ・フードシステムズ、専門店のロフト、赤ちゃん本舗などは、傘下の中間持株会社「ヨーク・ホールディングス」を設立し、そこに紐づけることになった。株式公開を目指し、2025年度中に戦略的パートナーを招いて持分法適用会社化するという。


 コンビニ専業化はある意味一本足打法で、市場の急速な変化が起こった場合にもろいリスクもあるが、コングロマリット・ディスカウントの考えが株式市場を支配しているのならば、対応せざるを得ないだろう。持分法適用会社化くらいでは「徹底していない。ぬるい」と反発されるかもしれないが。


 日本にコンビニは約5万7000店あるが、日本経済新聞の調べでは2022〜23年度の2年連続で微減していることが明らかになった。飽和点に達し、人手不足もあって、より良い立地にリロケーションを図るとともに、売り上げの良い店に営業を絞る傾向が出ているという。


 国内セブン‐イレブンの既存店売上高は、1%以内の微減ではあるが、6〜9月まで4カ月連続で前年を割っている。反対に、競合のファミリーマートとローソンはこの間ずっと既存店売上高が前年を上回っており、3大チェーンでセブン‐イレブンのみが売り上げを落としている状況だ。


 その理由には、セブン‐イレブンの商品が高くなったということがあるだろう。セブン‐イレブンは7月16日より「手巻きおにぎり」のツナマヨネーズとしゃけ(ともに138円)を手始めに、「うれしい値!」という消費者から見た安売り商品を売り出した。しかし、中には値段が変わっていないと思われる商品もある。9月末まで計270アイテムで展開しているが、値下げするなら徹底してもらいたいものだ。


 また、9月3日から東京都・埼玉県・千葉県において、ドーナツをカウンター周りで復活させた。カレーパンの成功体験を生かして揚げたてを売りにしているものの、店員に聞くと、スタートダッシュは良かったが早くも失速している模様だ。


 「7NOW」という宅配の仕組みを全国に広げて、ピザのデリバリーを始めるとの発表もあったが、深刻化する人手不足の問題を含めて、ドミノ・ピザなどに対抗できるか未知数だ。


 この不振をどのように抜け出すか、今後の動向を注視したい。


(長浜淳之介)



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