「この川で2人、流されてみません?」
「お前は、俺より先に、死んではならん。死ぬな」
「ならば、道長さまも生きてくださいませ。道長さまが生きておられれば、私も生きられます」
主人公・まひろ(吉高由里子)のこの言葉に、思わず涙を流す藤原道長(柄本佑)。
NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。上に引用したのは、11月3日に放送された第四十二回「川辺の誓い」のクライマックスにおけるまひろと道長のやりとりだ。
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前回、信頼を寄せる藤原行成(渡辺大知)から諌(いさ)められるほど、暴走しかけていた道長だが、その結果、息子・藤原顕信(百瀬朔)の出家という悲劇を招いてしまった。これでダメージを負った道長はこの回、三条天皇(木村達成)との主導権争いでも精彩を欠き、ついに病に倒れ、辞表を提出する。
一方のまひろも、三条天皇と中宮となった次女・妍子(倉沢杏菜)の関係に悩む道長から、『源氏物語』がかつて一条天皇(塩野瑛久)と彰子(見上愛)を結び付けたことを引き合いに出し、「今の帝と妍子の間には何もない。『源氏の物語』ももはや役に立たぬのだ」と言われてしまう。
その影響か、まひろは長年書き続けてきた「源氏物語」を、光源氏の死でひと区切りつけ、題名のみで本文のない「雲隠」の巻を残して自宅に戻る。すると娘の賢子(南沙良)から「書かない母上は、母上でないみたい」と指摘され、「このまま出家しようかしら」と冗談とも本気ともつかない様子で口にする。
あかたも、まひろと道長がそろって、自らの人生の終わりを悟ったかのような展開だった。さらにそこに、「源氏物語」の“光源氏の死”を重ねることで、その印象がより強まった。この後、百舌彦(本多力)から道長の病状を聞いたまひろが見舞いに訪れ、2人は川辺で語り合うこととなる。
「もうよろしいのです。私との約束は、お忘れくださいませ」
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「お前との約束を忘れれば、俺の命は終わる。それで帝も皆も喜べば、それでもよいが」
「ならば私も一緒に参ります」
「戯れを申すな」
「私も、もう終えてもいいと思っておりました。物語も終わりましたし。皇太后さまも、強くたくましくなられました。この世に私の役目は、もうありませぬ」
2人が共に、自分たちの人生の終わりを確かめ合うようなやりとりだ。目の前の川が、“三途の川”にも見えてくる。だがこの直後、冒頭に引用した会話が続き、そこで話が一変する。互いに、相手に「生きてほしい」という思いを打ち明けることで、まひろと道長はそれぞれ、相手から生き続ける力を得る。2人の強い絆を再確認するような会話で、これまで積み重ねてきた時間がにじみ出すような円熟味を増した言葉の一つ一つが味わい深い。
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こうしてまひろは再び筆を執り、光源氏没後の物語を書き始める。晩年に差し掛かり、一つの節目を迎えたまひろと道長の人生。そこに「源氏物語」が一体となる秀逸な構成で、この回からまひろの着物が“紫色”に変わったことも象徴的だった。
番組公式サイトにはすでに「全48回」と明記されており、最終回まで残り6回。ラストスパートに突入したまひろと道長の物語は、どこへ向かっていくのだろうか。
(井上健一)