詐欺組織「幻獣」のボスである鳳凰(藤ヶ谷太輔)に父親を殺され、その復讐のために組織に潜入している主人公・キイチ(竜星涼)とユキ(八木莉可子)の“潜入兄妹”が悪戦苦闘するさまをケレン味たっぷりの香港ノワール風映像で描いたドラマ『潜入兄妹 特殊詐欺匿名捜査官』(日本テレビ系)も第6話。
ようやく本丸である鳳凰へとたどり着いた兄妹でしたが、その信頼を計るためにいきなりこっぴどい“テスト”をさせられることになりました。今回もスタート即、命の危機です。振り返りましょう。
■裏ボスは白シャツおじさん
キイチとユキの前に現れた鳳凰は「人類最大の発明は火です」「確かめさせていただきます、あなたの炎の色を」などと口上を述べながら、弾丸が一発だけ入っているという拳銃を差し出します。2分以内に、兄妹のどちらかがどちらかを撃ち殺せというのが鳳凰の要求です。できなければ、2人とも殺される。
心優しいハッカー大学生のユキは身動きもできませんが、キイチはそれを空砲だと見立てた上で、自らの頭に向けて引き金を引きます。キイチの想像通り、弾丸は入っていませんでしたが、これには鳳凰も満足気。キイチたちのハコに、新たな仕事が振られることになりました。
ともあれ、父親の仇である鳳凰にたどり着いたキイチ。とりあえず潜入の目的を果たしたことになりましたので、潜入を依頼した入間刑事(及川光博)に鳳凰を逮捕してほしいと伝えますが、入間刑事は「今捕まえても証拠がないから殺人罪で起訴できない」と言い、このまま潜入を続けて鳳凰を泳がせることを指示しました。
|
|
今回、キイチたちのハコに課せられた仕事は、大手ECサイトにランサムウェアを侵入させ、データを人質にとって身代金を獲ること。キイチたちはサイバー警察官としてEC企業を訪れ、犯人役であるハコメンバーとの交渉を代行することで3億という金を引っ張ろうと画策します。
例によって計画はそれなりに綿密ですし、うまくいきそうになった瞬間に誰かから電話がかかってきてやっぱりピンチが訪れますし、それをなんとか切り抜けて3億を手にしたキイチたち。例によって、と書いてしまいますし、まったくいつものパターンですが、もはや『潜入兄妹』というドラマはこの行ったり来たりする段取りとシーンの強さを楽しむものと割り切っていますので、このシークエンスは楽しいだけです。
しかし、3億こそ手に入れたものの、計画中に邪魔が入ったことで、幻獣はキイチたちのハコに敵対組織の内通者がいると断定します。その敵対組織のボスは九頭竜。6年前、幻獣は九頭竜(川瀬陽太)によってつくられたことも語られました。その“裏ボス”である九頭竜が、現在では幻獣と敵対することになっているんだそうです。このへん、あんまりよくわかりませんが、白シャツの川瀬陽太がいかにも「裏ボスはそこらへんにいるおじさんみたいな顔をしている」という香港ノワールの文法を守っているので、全然気になりません。このドラマはこういうキャラクターの造形が、とにかく楽しい。
そして警察の狙いもまた、キイチをより深く潜入させて幻獣と九頭竜を一網打尽にすることだということも明らかになっています。
次の仕事に成功すれば、兄妹を幹部に引き入れると鳳凰は言います。しかし同じころ、みんな大好き“始末屋”櫛田(フェルナンデス直行)が入間刑事を拉致。キイチに面通しし、「こいつを知ってるか? 知らないなら殺せ」とナイフを手渡してくるのでした。
|
|
「最悪だ……」
次回へ。
■絆と裏切りがくるぞー
キイチのハコメンバーは兄妹のほかに5人。ハコ長の美波(入山杏奈)はその美貌に似合わないゴミ屋敷に住んでいましたし、ほかの4人にも何か事情がありそうです。父親の借金を完済したのにまだ仕事を続けたがっている若菜ちゃん(岡井みおん)、警察手帳偽造の賢太くん(伊藤あさひ)は貯金が16万しかなかったり、スリの泰造さん(徳井優)は古い家族の写真を眺めていたりと、みんなに平等に「内通者の可能性」が示唆されました。ここ数回の仕事でハコメンバーはけっこうな報酬をもらっていて、それで若菜ちゃん(岡井みおん)は父親の借金を完済したはずなのに賢太くんに貯金がないのはおかしいけど、そこは目をつぶりましょう。
重要なのは、妹・ユキがもう完全にほかのメンバーに情が移って絆が生まれ始めてしまっていることです。次回以降、九頭竜の内通者があぶり出されることになるわけですが、ここでユキが裏切られることになったり、逆にユキの存在が邪魔になってきたりするわけですね。
ここまで兄妹以外の人物のバックグラウンドや感情は極力省略して、プロットのスピード感とシーンの強さだけで押し通してきた『潜入兄妹』ですが、ここから少しずつそれぞれの人物に「念」が乗っていくことになる。そういえば幹部の1人・朱雀(白石聖)が幻獣入りした経緯も語られていました。ほかの幹部についても、おいおい何か出てくるんでしょう。
|
|
今回、印象的だったのは、冒頭に鳳凰のおっかなさをちゃんと描いていたことです。正直、巨大詐欺組織のトップが藤ヶ谷くんというのは荷が重いかなと思っていましたが、あのシーンで「残酷なカリスマです」という意識づけが行われている。青龍(桐山漣)も登場前にめっちゃトレーニングしてめっちゃ殴ってる描写があったし、スピード感がありつつもこういうキャラクターについての紹介は手抜かりないんだよな。
あと、キャラクターでいうと櫛田役のフェルナンデス直行さんのXアカウントを見つけてしまったんですが、めちゃくちゃチャーミングな書き込みが並んでいたので、ドラマが終わるまでミュートしておこうと思いました。もっと怖がりたいのよ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)