何歳まで働いたら、老後資金が用意できますか?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、チワワと暮らす49歳の会社員女性。現在、勤務先の給与面に不満はないものの、精神的にはきびしく、退職を考えているといいます。退職後のんびりと過ごすためのポイントについて、ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。
相談者
ちわわさん(仮名)女性/会社員/49歳
中部/持ち家・一戸建て
家族構成
一人暮らし相談内容
現在49歳独身・チワワ1匹と持ち家で暮らしています。今の仕事は正社員・事務職で10年勤めていますが、それまでは職を転々とし、年金はほとんど国民年金のみのような状態です。今の会社はお給料には満足しているのですが、精神的に参っていて本当なら今にでも辞めてどこか田舎でのんびり過ごしたいのですが、老後のお金事情を考えるとそうもいかないかなと思い、お薬を飲んで毎日通勤しています。
今のお給料で何歳までここで勤めたら、老後に必要な金額を貯められて辞めても大丈夫になるでしょうか。
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家計収支データ
ちわわさんの家計収支データは図表のとおりです。家計収支データ補足
(1)ボーナスの使い道主にクルマの維持費が数万円。残り貯蓄。
(2)加入保険について
本人/共済(病気死亡400万円、入院4500円、他に入院一時金、先進医療特約、通院特約など)=保険料3000円
(3)退職金について
50万円程度。
(4)お住まいについて
築40年。修繕、リフォームは最近済ませている。
(5)退職後の働き方
無理のない程度に月8万円などの収入で働く予定。
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通院、治療はしていない。市販の薬を常用している。
FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1:今から生活費を下げる努力をアドバイス2:できるだけ長く働くことが有効な老後対策
アドバイス3:健康の観点から退職時期を決めていく
アドバイス1:今から生活費を下げる努力を
職場環境により投薬をするほど精神的にきびしいのであれば、やはり早期退職すべきだと思います。持ち家がありローンがないこと、さらにまとまった金融資産がある点で、資金的にそれができる状況にもあるでしょう。一方、退職後は「無理のない程度に8万円ほどの収入で働く」とのことですから、当然家計赤字になります。毎月の生活費が今と変わらないなら、月7万円の赤字。さらに、クルマの維持費や固定資産税、その他コストによって、年間の赤字額は100万円を超えると考えるべきです。
したがって、ちわわさんが言われるように、今後のマネープランにおいて、何歳まで働くかという部分は大事なポイントになりますが、もうひとつ、生活コストを落とすことも重要な要素となります。
しかし、退職後にそれを目指しても、「実際はできなかった」「続かなかった」ではプラン自体を大きく変更しなくてはなりません。今から実践してみることが必要だと考えます。
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アドバイス2:できるだけ長く働くことが有効な老後対策
それも含めて、試算をしてみます。設定として退職は3年後。その後は月8万円の収入とします。支出については、ややハードルが高いかもしれませんが、月3万円の削減を目指します。どこを削るかはちわわさんにとっての優先順位、削りやすい部分からとなります。支出内容を見る限り、対象となるのは雑費と趣味娯楽費、通信費でしょうか。
今後3年間の年間収支ですが、生活費が月12万円となれば年間180万円のプラス。ボーナスから20万円貯蓄に回せば、年間200万円貯蓄できます。これはかなり高い貯蓄ペースですが、いわば早期退職のための準備です。
3年間で600万円。これに今ある金融資産(投資商品は現在と評価額が変わらないとします)を加えて2250万円。これに退職金50万円を加算した2300万円が退職時、52歳の金融資産の総額です。
退職後、生活費以外のまとまった支出としてクルマの買い替えがあります。このコストを最初に差し引いておきます。所有車の詳しい内容、状況は分かりませんが、今後あと2回ないし3回買い替え(軽自動車)するとして、予算300万円とすれば、残る資金は2000万円となります。
退職後の生活費も継続して月12万円とすれば、毎月の赤字は4万円。さらに、クルマの維持費と固定資産税、加えて、収入から考えて、健康保険・介護保険料と国民年金保険料(60歳になるまで。所得によって減免措置もあるが、その分、受け取る年金額は減少する)も発生します。
それらも考慮すると、公的年金支給となる65歳となるまで、平均して赤字額は年間80万円くらいでしょうか。だとすれば、13年間で1040万円。手持ち資金は960万円に減ります。
65歳以降ですが、公的年金の支給額は「ほとんど国民年金のみのような状態」とのことですが、正社員として少なくとも10年は勤務されているので、仮に手取り(社会保険料を差し引いた額)8万円の支給とすれば、この時点で仕事を辞めると、年間の赤字額は60万円ほど。
結果、先の手持ち資金は16年、81歳で底を尽くことになります。
この老後リスクのもっとも有効な対策としては、65歳以降も働くことです。仮に70歳まで月5万円の収入があれば、税金や社会保険料が増えるかもしれませんが、老後資金は95歳くらいまでは「もつ」はずです。
しかし、ここに老後の予備費(医療・介護費、住宅の修繕など)は含まれていません。その点で、生活コストを月3万円下げて、かつ70歳まで働いても、この設定では長生きリスクは解消できないということになります。
アドバイス3:健康の観点から退職時期を決めていく
リスクとはいえ、必ずそういう事態になるとは限りません。試算での公的年金額もあくまで仮定の額です。もっと多いのであれば、その分、資金的余裕となります。しかし同時に、例えば、想定以上に働けなかった、あるいは生活コストがアップしたなどにより、リスクがより大きくなる可能性もあります。ならば、リスクにはできるだけ備えたいということになります。
では、設定を変えてみましょう。退職を2年延ばして5年後とすれば、65歳時の金融資産はざっと1700万円(クルマの買い替えコスト差し引き後)。
さらに先の試算同様にさらに5年間、月8万円働けば、70歳の時点で手持ち資金は1850万円に増えます。その後、年金生活となっても90歳の時点でまだ600万円超が残ります。
あるいは退職は3年後として、その後、65歳まで手取り月13万円で働くと、収入からして社会保険料は天引きですから、年間収支は数万円程度の赤字。65歳の時点の手持ち資金は1900万円前後とすれば、これ以降、年金収入だけでも90歳の時点でやはり400万円程度が残ることになります。
つまりは、働き方次第でいろいろな選択肢があるということです。ともあれ、健康が第一ですから、現在の職場に勤務し続けた結果、本当に体を壊しては元も子もありません。試算では3年間と5年間の勤務を見てみましたが、1年ないし2年が限界となるかもしれません。
であれば、退職後の働き方は、資金的にはフルタイム勤務が必須となります。また、10年先、20年先では、70歳まで働くことも一般的となっているでしょう。
ともあれ、「何歳までここで勤めたら」ではなく、「健康を考えて何歳までなら働けるか」という発想が大事だと思います。その上で、次のことを決めていくことが、ちわわさんにとっては有益ではないでしょうか。
相談者「ちわわ」さんから寄せられた感想
5年今の会社で勤めれば何とかなると分かり、気持ち的に楽になりました。先生のおっしゃる通り、生活コストがアップすることもないとは言えません。特に私自身よりも保険のきかない犬の病気による治療が発生する可能性はおおいにあると思いしらされました。犬は私にとっては子供です。この子には最善を尽くしてあげたいと思っていますので、この子が一緒にいる間は今の会社でがんばろうかと思います。今回は真剣に考えていただき本当にありがとうございました。
教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。
取材・文:清水京武
(文:あるじゃん 編集部)