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日本を代表する世界的建築家のひとりである隈研吾氏がデザインした建築物で、相次いで急速な劣化が顕在化している。群馬・富岡市役所で、外装に使われている木材が腐り始めているとの指摘がある。同市役所は2018年に完成しており、わずか6年で腐朽していることになる。建築の専門家は、隈氏のデザインの特徴である木の使い方に、根本的な問題があるという。
今年9月、栃木県の那珂川町馬頭広重美術館が開館から24年を迎え、老朽化のため大規模改修を行うことになったが、改修費用が3億円と高額になることから、一部をクラウドファンディングでまかなう発表し、大きな話題になった。同美術館は安藤(歌川)広重の肉筆画や版画をはじめとする美術品を中心に展示し、町の中核的文化施設とすることなどを目的として2000年に開館した。木材を多く使用し、周囲の自然に溶け込むデザインが好評を博し、県外からも多くの観光客が来訪するという。
その馬頭広重美術館をデザインしたのが、細い木材を格子状に並べる「ルーバー」のデザインが特徴の世界的建築家・隈研吾氏だ。国立競技場など数多くの公共建築物もデザインし、国内でも知名度も高い。
だが、一流建築家がデザインした建築物にもかかわらず、開館から数年で外壁や屋根に劣化が目立ち始め、今や朽ちて欠損が進んでいる。そんな事情を疑問視する声があがると、さまざまなメディアでも取り上げられ、全国各地の隈氏が手掛けた建築物にも懸念の声が出始めた。完成から9年が経過した京王線高尾山口駅(東京都八王子市)の駅舎でもカビが目立つようになっているほか、高知県梼原町の雲の上ホテルなどでも木材の劣化が話題になっている。
そして今回、世界遺産に登録された富岡製糸場を擁する群馬県富岡市の市役所の庁舎で、外装に使われている木材が腐っているとの指摘があり、SNSを中心に話題になっているのだ。
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一級建築士で建築エコノミスト・森山高至氏は、隈氏の木材の使い方が悪いと断じる。
「使っている材料と使い方が悪いんです。木が悪いわけではありません。日本では古くから神社や寺で木が使われていますが、それは屋根の庇の下など風雨にさらされない場所で、さらに水に強い性質の木材です。しかし隈氏のデザインでは、本来、外で使ってはいけない木材を外装に使っています。それは薄い木の皮を重ね合わせたベニヤ板のようなもので、水に弱い性質ため、塗装するなど保護して内装で使うべき材料です。仮に外装で使う場合でも、防水処理を施すことが常識ですが、予算が足りなかったのか、そのような手間をかけずに外装に使っているのです。
完成した時には、外側に木がふんだんに使われているので美しく感じたと思いますが、劣化速度が早すぎ、木材の周りはガラスや新建材が使われている中で、木だけが朽ちていっているように見えます。同時に、風雨を受けた場所がカビなどで黒ずみ、汚くなっているので、悪目立ちしている状況です。
これが簡易倉庫など一時的な建物や個人の所有物であれば別ですが、税金を使って建てられた公共の建築物である点に問題があると思います」
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腐朽している木材は、当然のことながら、装飾的な使われ方で建物の耐久性などには影響がないのだろうか。
「それは大丈夫です。あくまでもアルミやガラスなどの外側に木材を貼り付けているだけの飾りで、建物にとって必要なものではありません。隈氏のデザインは木が特徴として知られているので、木を使わないといけないと思っているのではないでしょうか。その際に、耐水性や耐久性を考慮した材料ではなく、予算が潤沢でなければ安い木を使うといった乱暴な仕事をしているように見受けられます」
隈氏は、完成時において見栄えが良い外観をつくり、短期で改修が必要となることは考慮せずにデザインしているのだろうか。
「市役所の場合、工事を発注した担当者や上長が、短いスパンで改修が必要となることを承知のうえで依頼したかどうかは不明ですが、高所など木材の交換をするだけでも高額な工事を要することが明らかで、その費用まで把握していたとは考えにくいですね」
富岡市役所では外装に白木を使用しているが、白木を外で長持ちさせる技術などはあるのだろうか。
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「あります。アセチル化(材木などにアセチル基を導入すること)という手法ですが、とても高価です。オランダが特許を取得しているので、木材をオランダに輸送して加工・返送してもらうか、アセチル化処理されたアコヤ材を購入する必要があるので、通常の何倍もします。隈氏は、予算が多い建築ではそれを使用しているとみられますが、予算が少ないときは防腐処理されていない木を使っているのではないでしょうか」
では、アセチル化処理された木材を使った場合と、防腐処理されていない木材を使って一定の期間を経て改修工事をする場合とでは、どちらの費用が高いのだろうか。
「工事費用はかなり高額になるので、トータルでみるとアセチル化木材を使用したほうが安くなりますが、公共の工事では最初に建築する際の費用を抑えることが重要になります。基本的に単年度予算ですから、将来にかかる工事の費用まで見据えて安くなるほうを選択するということは、ほぼありません。おそらく、デザインする建築事務所としても、何年後にいくらぐらいの予算の改修工事が必要になるという話は事前にしないでしょう」
ネット上では、富岡市役所は空調効率も悪いとの指摘があるが、設計する際に空調は考慮しないのだろうか。
「吹き抜けにしたり、ガラス張りにすれば空調が悪くなるのは当然です。そのような風の流れなども計算する建築士もいますが、空調効率は二の次としている方もいます。とはいえ、最近はエコやSDGsを重視する風潮があるので、空調効率を計算して設計する建築士のほうが多いと思います」
隈氏が手掛けた建築物は、外装で木材を多量に使用していることが特徴だが、ほかにも早期の改修が必要となりそうな建物はあるのだろうか。
「東京大学のダイワユビキタス学術研究館や兵庫県伊丹市役所なども、建物の表面に多くの木材を貼り付けていて、比較的早く改修が必要になるだろうと見ています。劣化しない材料を使わず、劣化することがわかっている木材を貼り付け、しかも処理が雑である点について、疑問視している人は建築業界で非常に多いですね」
昨年11月、創建1200年以上の歴史を持つ熊本県人吉市の青井阿蘇神社に、隈氏がデザインした「青井の杜国宝記念館」が開館したが、屋根に木材を大量に貼り付けるデザインが賛否を読んでいる。隈氏らしいデザインともいえるが、防腐処理をしているように見えないことから、すぐに改修工事が必要になりそうだと懸念する声が少なくない。
Business Journal編集部は隈研吾建築都市設計事務所に、「設計当初から短いスパンでの改修工事の必要性なども市役所の担当者が把握しているのか」「富岡市役所以外にも、伊丹市役所や兵庫県庁などの公共庁舎の木材について、防腐処理などはされているか」と問い合わせている。回答があり次第、追ってお知らせする。
※本記事掲載後の11月15日、隈研吾建築都市設計事務所から以下のとおり回答があったので追記する。
Q:設計当初から短いスパンでの改修工事の必要性なども市役所の担当者は把握されていたのでしょうか。
A:サッシマリオンに取り付けた木材は、特殊な樹脂含侵処理により防腐性能を持たせたものです。屋外用木材として 20 年以上の実績があり、短いスパンで改修が必要な材ではありません。当該部は木材の腐りではなく表面のカビが発生したものと思われ、市役所と対処について調整を行う予定でいます。
軒裏については、直接雨がかりにならない部位であり、短いスパンで改修工事の必要がな い計画としておりました。近年の想定外の豪雨や強風等で軒の先端で雨水が切れず、軒裏に回り込んだものと思われます。
Q:富岡市役所以外にも、伊丹市役所や兵庫県庁などの公共庁舎についても木材の使用に懸念の声があがっていますが、これらは防腐処理などはされているのでしょうか。
A:伊丹市役所では直接の雨がかりとなる部位に木材は使用していません。兵庫県庁は計画が中止になっております。そのほかのプロジェクトで外部に木材を用いる場合は、細心の注意を払い、その部位に最適な防腐処理を施しています。
(文=Business Journal編集部、協力=森山高至/建築エコノミスト)
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