「古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんですよ」
任侠映画の看板俳優だった鶴田浩二の古い歌が、つい口からこぼれてしまう昭和生まれの人間です。古い人間ほど、新しい映画が大好きなんですよ。トム・クルーズ主演の『トップガン マーヴェリック』(2022年)も、劇場まで足を運び、とても面白く拝見したものです。
前作『トップガン』(1986年)から36年ぶりとなる続編。前作の撮影時は20代前半だったトム・クルーズは、もう還暦ごえです。日本なら赤いチャンチャンコを着せられるオッサンが、若い世代に混じって現役としてサバイバルしようとする姿が泣かせるじゃありませんか。
オッサン世代の郷愁もうまく誘い、『トップガン マーヴェリック』は世界興収15億ドル近く、日本だけでも137.7億円というメガヒットを記録しています。11月15日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で地上波初&ノーカット放映となる同作を、オッサン視点で紹介します。
若い世代にどう打ち解けていくのか?
マーヴェリック(トム・クルーズ)は海軍で伝説のパイロットとなっていましたが、現役であることにこだわり続け、新型機のテストパイロットを務めていました。同期は出世して将校になるか、すでに引退しています。そんなマーヴェリックが、トップガン(米海軍戦闘機兵器学校)に帰ってきました。生徒ではなく、教官としてです。
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マーヴェリックの任務は、ならずもの国家の秘密基地を叩くという危険なミッションを、若いパイロットたちに指導することでした。パイロットの中には、前作で事故死を遂げたグースのひとり息子・ルースター(マイルズ・テラー)もいます。グースが死んだことに罪の意識を持つマーヴェリックが、若い世代とどう打ち解けていくのかが続編の見どころです。
トム・クルーズは60歳を過ぎても若々しい体型を保っていますし、戦闘機に乗ってのドッグファイトシーンは、前作よりもずいぶんと臨場感がアップしています。かつて恋人だったという設定で、シングルマザーのペニー(ジェニファー・コネリー)との大人のラブロマンスも織り交ぜながら、頭を空っぽにして楽しむエンタメ作品になっています。
ハリウッドのトップスターになりきれなかった男
物語中盤で、かつてマーヴェリックのライバルだったアイスマン(ヴァル・キルマー)が登場します。海軍大将となったアイスマンですが、重い病気を患っています。実は撮影時のヴァル・キルマー自身が咽頭がんの治療中でした。
前作『トップガン』の成功で、トップスターにまで瞬く間に駆け上がったトム・クルーズ。一方、ジム・モリソンの伝記映画『ドアーズ』(1991年)や『バットマン フォーエヴァー』(1995年)などに主演するも、トップスターにはなりきれなかったヴァル・キルマー。同時代をそれぞれ全力で生きてきた2人の男が36年ぶりに共演するシーンは、作品の評価とは別に胸に迫るものがあります。
肝心の若い世代とのジェネレーションギャップをどう埋めていくのかという物語上のキーポイントですが、そこは実にあっさりしています。マーヴェリックと若いルースターたちは特訓の最中、一緒に砂浜でアメフトに興じます。前作のビーチバレーのようなキラキラシーンです。共にスポーツを楽しみ、汗を流せば、それで仲良くなっちゃうという。これはもうトム・クルーズにしか許されない反則技ですよ。
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サングラスをしているマーヴェリックに、自宅まで送ってもらったペニーが「やめてよ、その目つき」という台詞を漏らすシーンもあります。トム・クルーズがニカッと笑うと、みんな「やれやれ、仕方ないなぁ」とトムの意向に従うはめになります。トム・クルーズ=究極の愛されおじさん、と言っていいでしょう。
トム・クルーズがもてはやされた理由
エド・ハリスらが演じた他のオッサン上官とマーヴェリックとの違いを挙げるのなら、マーヴェリックは現場にこだわり、危険度が高い作戦も自分が率先して引き受けるという点にあります。安全な場所から偉そうに命令だけ下すオッサン上司よりは、やはり信頼できるわけです。CGに頼らず、撮影現場で自らがスタントに挑み続けるトム・クルーズゆえの説得力が、クライマックスの戦闘シーンにも感じられます。
サイエントロジーとは以前より距離を置いていることもあり、トム・クルーズのハリウッドにおける人気は格別です。『トップガン マーヴェリック』はコロナ禍で何度も劇場公開が延期されながら大ヒットしました。コロナ禍でロックアウトが続いていた期間、配給会社のパラマウントには、Netflixなどの配信会社から高額でのオファーが何度も届いたそうです。ネット配信を断って、劇場で大ヒットさせたことから、トム・クルーズは映画館オーナーたちから「映画界の救世主」ともてはやされました。
また、予告編ではマーヴェリックのフライトジャケットに貼ってあった日本や台湾の国旗のワッペンが途中で消えるという小さな異変が起きています。これは中国マーケットに対する忖度だったようです。弱体化しつつあるハリウッドにとって、中国の巨大マーケットは喉から手が出るほど欲しいターゲットです。しかし、映画本編ではマーヴェリックのフライトジャケットに変更はありませんでした。チャイナマネーになびかなかったことも、トム・クルーズ人気を高めることになりました。
内容はないに等しい『トップガン マーヴェリック』は、トム・クルーズという「最後のハリウッドスター」を称賛するための作品だと言っていいでしょう。言い換えれば、オッサン世代が思い描く「理想のおじさん」像の物語でもあります。
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トム・クルーズみたいな人気者になりたいだなんて、露にも思いやしやせん。それでも、自分もやっぱり死ぬまで現役でいたいもんです。ははは、私もバカな人間でございますよ。