<韓国でドラマ制作に挑戦…行定勲監督が語る> 前編
行定勲監督(56)が単身、韓国に渡って1年、ドラマの制作に初挑戦した。韓国の公共放送KBSで放送された、史上初めて日本人監督が演出した作品「完璧な家族」は、韓国のトップ俳優も出演し、日韓で同日配信されるなど両国で話題を呼んだ。同監督が、日刊スポーツの取材に心中を語った。前編は、日本とは国民性、気風から違う、韓国での作品制作で感じた苦悩について。【取材・構成=村上幸将】
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行定監督は23年8月11日、都内で行われた綾瀬はるか(39)の主演映画「リボルバー・リリー」初日舞台あいさつに登壇後、定期的に発信していたSNSも更新せず、日本映画界から半ば“消えた”状態となった。その頃、韓国でドラマを制作するという話が、業界内で流れていた。そして今年4月20日にXで「完璧な家族」の撮影を5カ月に渡って行い、編集中だと明らかにした。
渡韓して驚かされたのは、日本とはあまりに違う韓国の制作体制だった。
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「説明なしに、自分たちの流儀を制作過程で押しつけてくる。説明がないから、僕も『何で、そんなことするの? こうでしょう?』と反発するので『こうした方が良いに決まっている』などとお互い、せめぎ合う。結構、ギクシャクはあったんですよ(苦笑い)。僕の要求していることを、なかなか、かなえない一方で、自分たちの要求はかなえさせようとするわけです」
契約した当初は、OTT(配信)作品として8話で展開する企画としてスタートしたが、プロデューサーが「テレビ局を絡めたい」と言ってきた。「8話で、できるの?」と聞いたら「12話は最低、必要です」と言ってきたため4話足して12話にしたという。そうして制作に入ったが国民性、気風の違いに驚かされた。
「韓国では法律で、週の労働時間が最長52時間に制限されています。映画やドラマの製作において、規定が適用されるのは撮影なんですけど、1日に最大13時間、休憩入れて15時間…要するに最大、週4日しか働けない。残り3日は準備なんですけど、そこは徹底している。ビックリしたのは、23時になったらタイムアップなんですけど、あと5分で、ほんの短い15秒のカットを慌てて撮って、テイク1の本番でカットし『もう1回、いこう。ヨーイ』と言ったら、呼ばれて『監督…時間、アップです。ダメです。話し合いが持たれないとマズくなる』と」
そして、こう続けた。
「日本は義理人情じゃないけど、決めごとはあるけれど、ここは皆で乗り越えよう、頑張ろうみたいに、みんなで決めるじゃないですか。韓国は、そういうことはないです。監督の前では、みんな『やれる』と言うんだけど、後でプロデューサーに『(ギャラの)オーバーチャージをしてくれ』となる。これを撮るには、こういうのを、ちゃんと用意してくれないと、できないというのが明確。そういうところで、韓国と日本の差は大きい」
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俳優のスタンスも、大きく異なる。まず、韓国ドラマでは撮影前に俳優、スタッフが集まって役の衣装やスタイル等々を決める、衣装合わせがないという。そもそも、各俳優が専属スタイリストをつけており、事前に監督と長時間、話し合いを行い、脚本を深く読み込み、自分の中で演じる役の人物像を形作った上で、自ら衣装を提案してくるという。
「韓国の俳優は、自分の意見を持って、このシーンをどうしたいと最初に言ってくる。まず、衣装から全部、自分で提案してくる。『この人は、こういう服は着ないと思うんです』と言ってくる。自分の役の人間が何を着ているかというところまで、考えているということ。俳優には全員、専属スタイリストがついていて『もっと色が違うんだ』とかダメ出しをしている。こういうのを着たら、私がこう見える、というのを気にするわけです。本当に、いいなと思いました」
韓国の俳優は、劇中で出血するシーンを演じた際、衣装の血のりの付き方まで細かくチェックし、意見を言ってくるという。
「役者がそれぞれ、血の汚しの果てまで把握し、映像をチェックして『これって、前のシーンとつながらない』とまで言ってくるんです。このシーンまでいくには、こうつなげていかないと…と計算していく俳優が多い。やっていて、この役で、ここまでいきたいという、自分の役の設計があるんだろうなと。日本は、そのあたり監督に委ねられていますが」
次回は、制作体制の違いに苦悩を抱えつつも、時に自らのスタンス、意向を抑え、相手の土俵に乗って取り組むことで、監督として体得した進化の1歩について語る。
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◆「完璧な家族」 誰が見ても幸せで完璧な一家が、ある日、娘が引き起こした殺人事件をきっかけに、それまで知るよしもなかった家族の秘密が徐々に明かされていくミステリー。1・7%から23・8%と視聴率が爆上がりし、韓国のみならず日本でも話題を呼んだ18年のドラマ「SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜」で夫婦を演じた、キム・ビョンチョルとユン・セアが再び夫婦役で出演。娘役を演じたパク・ジュヒョンをはじめキム・ヨンデ、イ・シウら人気の若手が融合した、豪華俳優陣が韓国でも話題となった。
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