良作がにぎわい、近年まれにみる豊作と言われているこの秋の連続ドラマ。その中でも注目を浴びているのが『わたしの宝物』(フジテレビ系)と『無能の鷹』(テレビ朝日系)です。それぞれテイストは違いますが、「一度見ると目が離せない」「次が気になる」と話題になっています。
その2作に両方ともレギュラー出演しているのが、さとうほなみさん。人気ロックバンド・ゲスの極み乙女のドラマー、ほな・いこかとしても有名ですが、近年は女優としての活動が活発になっています。異色の経歴を持つ彼女が今、ドラマで引っ張りだこの理由はどこにあるのでしょうか。
◆『無能の鷹』『わたしの宝物』今期の話題作に抜擢
人気マンガが原作で、根本ノンジ氏の脚本によるドラマ『無能の鷹』(テレビ朝日系)では、主人公・鷹野に翻弄されている中堅社員・鵜飼朱音を演じているさとうさん。社会人能力皆無だが堂々としている主人公とは真逆の、出世欲に溢れる学級委員的キャラクターを演じています。鵜飼役はオープニングタイトルにも登場する主要キャラで、第三羽(三話)ではメインのストーリーが展開され、その中ではラップも披露しました。
一方、托卵をテーマにしたドロドロ展開のドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系)では、主人公に想いを寄せる男・冬月稜(深澤辰哉)をけなげに想うビジネスパートナー・水木莉紗を演じています。真逆の雰囲気の2作でありながらも、いずれも生き生きと演じ、強力な印象をのこしているさとうさん。女優としての幅の広さを感じさせています。
さとうほなみさんは前述の通り、人気ロックバンド・ゲスの極み乙女のドラマー、ほな・いこかとして活躍中です。
ミュージシャンとしてのイメージが強い彼女ですが、実はゲスの極み乙女結成前の2002年には「ちゃおアイドルガールコンテスト」にて審査員特別賞を受賞し、映画『スワンズソング』のキャストオーディションではグランプリを受賞、その後は2004年ごろまでモデルや俳優、タレントとしての活動を幅広く行っていました。
◆ここ最近の連ドラ皆勤賞? 密かにブレイク中
その後は音楽活動に重点を置いてましたが、ゲスの極み乙女のブレイク後は、2017年にオスカープロモーションに所属し、「さとうほなみ」名義での活動を宣言(現在はワタナベエンターテインメント所属)。『黒革の手帳』(テレビ朝日系)や『まんぷく』(NHK)などの話題作や、Netflix映画『彼女』での主演、金鳥のCMでの謎の女など、着実に俳優としての知名度も上げ現在に至ります。
今年に入ってからは、1月期に『院内警察』(フジテレビ系)4月期は『9ボーダー』(TBS系)、7月期は『錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜』(テレビ東京系)、そして今期の『私の宝物』と『無能の鷹』と、ゲスト出演も含めて地上波各局の連ドラに立て続けに出演中です。まさに俳優・さとうほなみとしてブレイクしていると言っても過言ではないでしょう。
◆一見して「敵か味方かわからない」不確かな魅力
佐藤さんの役者としての魅力は、なんといってもミステリアスな魅力。女性的な妖艶さという意味でもありますが、一見して敵か味方かわからない不確かな存在という部分も大きい。
役によってはその存在感を閉じ込め、主役の引き立て役や噛ませ犬的な存在になることもできるため、どんな立ち位置でも自然に作品に溶け込むことができます。それなのに、なぜか印象に残ってしまう……。そんな稀有な俳優さんです。
それらは、ジュニアモデルをしていたこと、ミュージシャンの顔を持つということや、映画『花腐し』やNetflix映画『彼女』でヌードを披露した経歴などによる「結局、何者なのかわからない」印象からかもしれません。
◆いるだけで「何かありそう」と期待させる存在感
『わたしの宝物』では、ヒロインと許されざる深い絆で繋がる男・冬月を想う同僚・水木莉紗を演じていますが、当初は二人の仲をかき乱す役割とみられていました。しかし、今のところは意外と健気に見守っている様子。今後も立ち位置的に今後どう絡んでくるかは分かりません。登場するだけで、「何かありそう?」と一波乱の期待感が膨らんでしまいます。
ただ、何もなくても納得できる。つまりそこに、さとうほなみがいるということだけで、物語の行く末を混沌とさせ作品に奥行きを与えてる要素のひとつになっているのです。その不思議な魅力や器用さで、プロデューサーや監督が「使いたい」と感じる理由も理解できます。
主演、助演限らず、今後も様々な場所での活躍が期待されるさとうさん。ヒット作に数多く出演し、すでにミュージシャンとして得た実績や名声を超えている状態と言った方がいいのかもしれません。出演しているドラマの展開も気になりますが、さとうほなみさん演じる登場人物の動きや彼女の演技も見ものですね。
<文/小政りょう>
【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦