F1第23戦カタールGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
カタールGP決勝で、角田裕毅(RB)は最高のスタートダッシュを決めた。14位から9位まで浮上したあとは、後方からケビン・マグヌッセン(ハース)の猛攻を受けるも、なんとかこれをしのぐ。
しかし、10周目のターン1〜2でマグヌッセンに先行を許すと、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)、周冠宇(ジョウ・グアンユー/キック・ザウバー)、バルテリ・ボッタス(キック・ザウバー)と、次々と中団勢に抜かれていった。
キック・ザウバー勢と比べても角田のペースは0.5秒ほど遅く、まさしく為す術(すべ)はなかった。
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失うものがないからこそ、レース終盤のセーフティカーでソフトタイヤに履き替えるギャンブルを採ったものの、それも状況を打破するには至らなかった。
担当レースエンジニアのエルネスト・デジデリオはこう語る。
「今日は2台ともペースが足りず、遅すぎた。裕毅はとてもいい仕事をしたと思うよ。特にスタートとリスタートはすばらしかった。ポジションをいくつも上げることはできたが、残念ながらそれをキープできるほどのペースがなかった」
中速コーナー、高速コーナー、ストレート、すべてにおいて速さが足りなかった。
「もう、ストレートもコーナーも、だね。とても難しい状態だった。バルセロナ(スペインGP)やザントフォールト(オランダGP)、レッドブル・リンク(オーストリアGP)のように、高速コーナーと中速コーナーが多いこのサーキットのコース特性にマシンが合っていなかったことが苦戦の原因だ」
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ルサイル・インターナショナル・サーキットには、VCARB 01が得意とする低速域のコーナーがない。逆に苦手とする、回り込むような長いコーナーが多い。
そして、そういったコーナーを速く走るためにダウンフォースが必要とされる一方で、モナコやハンガリーと違って長いストレートではドラッグ(空気抵抗)がライバルよりも大きいことが不利になる。
苦しい戦いを強いられるどころか、戦うことすらできなかった。
【予選14位のクルマは14位なりのペース】
角田からも悔しさというより、あきらめの苦笑いが漏れるほどのペースのなさだった。
「タイヤマネジメントもせずに全力で走ったんですけど、あんなにペースが遅かったのは初めてです。カタールはオーバーテイクが難しいサーキットなのに、いとも簡単に次々と抜かれてしまいました。とにかくペースがありませんでした」
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サーキット特性がマシンに合っていないのは、予選14位という結果からも明らかだった。
しかし、RBと角田にとって不運だったのは、タイヤのデグラデーション(性能低下)が小さかったことだ。
昨年よりも2カ月近く開催時期が遅くなったこともあり、決勝日は肌寒さを感じるほどの気候だった。そのため、タイヤへの負荷は減った。さらには、今年はF2やF1アカデミーといったサポートレースも豊富で、路面コンディションの改善も進んだ。
そして、高速コーナーが多くタイヤへの入力エネルギーが高いサーキットだけに、ピレリはC1、C2、C3という最も硬いタイヤを持ち込んでいた。
その結果、決勝ではタイヤのデグラデーションが小さく、誰もがタイヤマネジメントとは無縁でプッシュし続ける、というレース展開になった。
それはつまり、タイヤマネジメントの勝負ではなく、純粋なマシンパフォーマンスの勝負になるということである。予選14位のクルマは14位なりのペースでしか走ることができない、ということを意味していた。
「デグラデーションがそれほど大きくなかったこともあって、オーバーテイクするのはかなり難しかったですね。そうなるとマシンの純粋な速さの勝負になるので、タイヤマネジメントをうまくやって逆転するといったようなチャンスは生まれませんから」(角田)
ガスリーが5位フィニッシュを決めたアルピーヌは59点までポイントを伸ばし、スプリントと決勝の両方でポイントを稼いだハースは54点。そして、レース週末を通してノーポイントに終わったRBは46点のまま。
ランキング6位争いは、絶望的な状況となってしまった。だが、1週間後の最終戦アブダビでは低速コーナーもあり、カタールほどの苦戦はないはずだ。
やれるだけのことをやりきり、来シーズンへとつなげる。チームプレーヤーであると同時に、ひとりのドライバーとして、角田裕毅には自身のポテンシャルのすべてを出しきるレース週末を見せてもらいたい。