GPファイナル2024プレビュー 男子シングル編
【3強のひとりは出場辞退】
フィギュアスケートのGPファイナル男子シングルが、12月6日に開幕する。
男子シングルは、6人中5人が日本人という女子シングルのような状況ではなく、日本の2選手にアメリカ、フランス、イタリア、カザフスタンがそれぞれ1選手出場する。
新・世界王者のイリア・マリニン(アメリカ)は、まだ爪を隠しているような状態だが、ヨーロッパ勢のレベルアップが目立つシーズンになっている。
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日本勢は、北京五輪2位で世界選手権2位3回の実績がある鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大学)がGPシリーズ2勝で順当にGPファイナルに進んだ。また、鍵山とはジュニア時代から同学年ライバルで、2019年のジュニアGPファイナルを制している佐藤駿(エームサービス/明治大学)がGPシリーズ初優勝を果たして進出を決めた。
昨季は世界選手権3位で、マリニンや鍵山とともに「3強」と目されていたアダム・シャオ・イム・ファ(フランス)はフランス杯優勝と中国杯3位でGPファイナル出場権を得たものの辞退。今季は新プログラムを滑り込めていない印象があり、フランス杯はSP8位からの逆転優勝だが得点は246.58点。中国の3位も252.53点と伸ばせていない。状態を考えての出場辞退だろう。
代わりにミハイル・シャイドロフ(カザフスタン)の繰り上げ出場が決まった。中国杯では、優勝した佐藤に2.31点差という大接戦を見せていた。
【王者マリニンは高難度構成を披露か】
出場選手のなかで頭ひとつ抜け出しているのはマリニンだ。GPシリーズはスケートアメリカとスケートカナダで優勝。得点はそれぞれ290.12点と301.82点だが、ジャンプ構成は入れ替えている。
今季自己最高は9月のロンバルディア杯で鍵山や佐藤ら日本勢を抑えて優勝した312.55点で、現時点では今季世界最高得点だ。冒頭に4回転フリップを入れ、演技後半に4回転ルッツ+3回転トーループを入れているSPは安定感もあり変更はないだろうが、フリーはロンバルディア杯でフリップ、ルッツ、サルコウ、トーループの4回転ジャンプ4本構成で205.30点を出していたものから変えている。
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スケートアメリカでは前半の4本目を4回転サルコウから3回転ループに。後半の3回転ルッツの着氷で手をついて3連続ジャンプにできなかったあとには3回転フリップ+トリプルアクセルだった最後のジャンプを4回転サルコウ+トリプルアクセルにした。
そして連戦の疲労もあったスケートカナダは、ロンバルディア杯の構成からサルコウを除いた4回転3本構成にしながらも、合計得点は300点台に乗せている。
アメリカ、カナダのシリーズ序盤の連戦は、かつてネイサン・チェンも採用していたが、移動距離の少ない北米での大会から1カ月強の間隔を空けてGPファイナルへ向けて仕上げる戦略だろう。1月の全米選手権や3月の世界選手権へも、時間的な余裕を持って準備できるメリットもある。
それを考えればGPファイナルは、年明けの戦いに向けた高難度のジャンプ構成を試す場になるはずだ。
【鍵山優真は戦える感触あり】
マリニンはジャンプだけでなく表現技術も上げてきているだけに、どこまで得点を伸ばすかという怖さも感じるが、追いかける鍵山は彼と戦える感触は持っている。
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今季は昨季より4回転トーループを1本増やした4回転4本の構成で臨み、NHK杯ではフリーの4回転フリップが回転不足で転倒となったが、300.09点。連戦となった翌週のフィンランド杯はフリーで崩れて263.09点と不本意な結果だった。
ただ、NHK杯で105.70点だったSPはまだ伸ばせる余地はあり、107.25点が自己最高得点のマリニンに十分対抗できる。練習中の4回転ルッツを年明けの勝負の武器にするためにも、今の構成をより完璧なものにして北京五輪で出した310.05点の自己最高を更新し、次のステップに進むことを考えているはずだ。
現時点ではマリニン、鍵山が抜け出ている状況だが、今季、そのふたりを追いかける存在になりつつあるのが、自己最高得点を9月のロンバルディア杯で285.88点まで伸ばしている佐藤だ。
伸び悩んでいたSPの今シーズンの振り付けは、昨季からフリーの振り付けもしている北京五輪アイスダンス優勝のギヨーム・シゼロンに依頼。狙いは表現力強化だろう。
昨季最後の四大陸選手権ではノーミスで自己最高の99.20点を出したことも自信になったのか、今季は流れのあるプログラムのなかでGOE(出来ばえ点)や演技構成点も向上。90点台後半を安定して出すようになり、100点台が見えてきた。
また、フリーもロンバルディア杯で自己最高の187・49点を出しているが、これも2本目の4回転フリップが2回転になっての結果。克服すれば合計300点台が見えてくるまでになっている。
【伸びしろのあるヨーロッパ勢にも注目】
表彰台争いが280点前後になれば、かなり熾烈な戦いになりそうだ。2023年世界選手権4位のケビン・エイモズ(フランス)は、4回転はトーループだけだがスケーティングの技術や表現力は高く評価されている選手。
スケートアメリカのフリーでは4回転2本の構成をほぼノーミスの滑りにし、ミスがあったマリニンを上回る190.84点を出して合計を282.88点にしている。
また繰り上げ出場となったシャイドロフも昨季の世界選手権は14位だが、中国杯で276.17点。ルッツとトーループの4回転を入れたSPで90点台は確実に出せる力があり、フリーも4回転トーループ、ルッツとフリップを入れて4回転4本の構成が可能だ。
佐藤を追い詰めた中国杯のフリーの182.96点が自己最高だが、4分の1の回転不足が2本あったうえ、コレオシークエンスで転倒をしてGOEを含めて3点以上の減点があっての得点。まだ20歳で、伸びしろは持っている。
ダニエル・グラスル(イタリア)は、今季復帰してNHK杯でいきなり264.85点を出して2位。SPでミスがあり、フリーでルッツとループ、サルコウを丁寧に跳んで逆転の2位だった。連戦となったフィンランド杯でもしっかり3位に入った安定感もある。自己最高も北京五輪7位の時の278.07点を持っているだけに、その底力は侮れない。
6選手のハイレベルな戦いが期待できそうだ。
女子シングル編へつづく>>