独立リーグ・茨城アストロプラネッツ流「GM論」 色川冬馬が力説する人材育成と組織づくりの新常識

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2024年12月06日 10:10  webスポルティーバ

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茨城アストロプラネッツGMが語る選手育成とチーム運営(後編)

 1995年に千葉ロッテマリーンズで広岡達朗が日本で初めて「GM」に就任して以来、球界では多くの者が同職を務めてきた。だが、その役割は明確に定義されていない。球団本部長や編成部長とは何が違うのだろうか。

「日本ではGMのあり方が確立されていないですよね。わかりやすく言えば、チーム側に対する一切の責任を負っているのがGMだと思います」

 そう話すのは、BCリーグの茨城アストロプラネッツで2020年秋から同職を務める色川冬馬GMだ。単に、チームを編成する責任者ではないという。

【選手たちに必ず伝えること】

「選手たちの成長プロセスや素行の問題など、フィールド内外のどちらに対してもGMが責任を負っています。チームの監督やコーチは、会社(球団)に対するロイヤリティを持っているか。会社のスタッフが『選手たちを応援したい』と思ってくれる関係性をしっかりつくれているか。この両者の関係は、球団というひとつの大きな組織が動いていくうえでものすごく重要になります」

 プロ野球の球団は、ビジネスオペレーションとベースボールオペレーションの二輪で回っている。色川GMは両者のつなぎ役として組織を成熟させてきたことが、NPBのドラフト会議で5年続けて指名選手を送り出すなどの成果につながっていると自負する。

「どの組織でも、前提やルールといった基準がないとうまく回りません。GMの僕とコーチ陣、そしてビジネスチームのなかにちゃんと基礎があり、そこに選手たちが入ってくる。そうした環境で選手たちはフィジカルのトレーニング、試合で磨く技術、マインドセットやメンタルを鍛えていく。組織あってこそ、僕ら人間の成長につながっていくわけです」

 茨城アストロプラネッツでは、入団してきた選手たちに必ず伝えている話がある。球団は社会のなかでどのように成り立ち、経営を行なっているのかということだ。色川GMが続ける。

「ウチの球団は選手を40人、監督やコーチを4人くらい抱えていて、いわゆる中小企業サイズです。GMの僕はオーナー会社の意向をくんだうえで、スポーツビジネスとしてチームのオペレーションをしっかりやる責任があります。僕らがコンテンツとなってスポンサーが取れたり、グッズ販売を行なえたり、チケット収入を得られたりするということです。ビジネス面を担ってくれる人たちがいなければ、僕らの給料は出ません。そういう組織のあり方を、選手たちには必ずミーティングで話しています」

 個人事業主の選手たちが会社の一員として活動していく際、大事になるのがチームとしてのルールだ。

 たとえば、アストロプラネッツではキャップの上にサングラスを乗せることが禁止されている。球団のロゴマークが隠れてしまうからだ。

 Tシャツ、短パンで練習することを認める一方、Tシャツは必ずズボンのなかに入れなければならない。トレーナーが「夏の間はシャツを出したい。シャツを入れていると、体温が数度違うから」と言ってきたこともあるが、色川GMは拒否した。

「選手たちはどこでも写真を撮られる存在、つまりコンテンツです。チームから与えられた茨城アストロプラネッツのジャージ、ユニフォームを正しく着る。これはGMである僕が決めたルールです。球団に対して誠意を示す姿勢が大事なので、常に徹底させています」

 ファンやスポンサーに対し、チームをどう見せるのか。他者に礼節を持って接し、球団のブランドイメージを高めていく。そうした観点から、色川GMは上記の2点をルール化した。「GMの責任のひとつはチームづくり」と考えているからだ。

 選手個々に対して育成計画を綿密につくり、人としても成長していけるように講習を行ないながら、厳しいウエイトトレーニングで肉体面もスケールアップさせていく。アストロプラネッツは球団の拠点である旧笠間市立東中学校の廃校にジム施設を整え、選手たちが肉体強化に使えることはもちろん、民間利用もリーズナブルな価格で行なえるようにしている。

【ビジネスサイドとの関係を構築】

 以上のようにさまざまな観点から球団にまつわるコンテンツを整え、地元で受け入れてもらえるようにしていることが、ひいては選手の成長にもつながっていくわけだ。

 GMがそうした面まで責任を持ってチームづくりのうえで、気になるのは予算に関する決裁権をどの程度持っているのかだ。

「ウチの球団で言うと、基本的に選手たちや首脳陣の人件費、首脳陣、道具代などは相談しながらです。(会社経営の)全体の細かい数字までは見えてないので、だいたい年間これくらいという予算を与えられて、そのなかでシーズンを戦い抜くというイメージです」

 チームに割り当てられた予算をどのように使っていくのか。GMは「こうしたい」と言えば話が通るように、ビジネスサイドと関係を築いておくことが重要になる。

「そういう関係性をつくっておくのもGMの仕事です。僕が社長、副社長、経理と信頼関係をしっかり構築しておくことが、結局は選手のためになる。それが僕にとって、チーム外の部分での責任になります」

 GMとして、ビジネスサイドへの報告は細かく行なう。たとえば、その日の試合ではどんなことがあったのか。選手やチームの成長など、社長が見えにくい部分を定期的に報告する。そうした詳細なコミュニケーションが、球団をうまく回すために重要になるからだ。

 色川GMはイラン代表や香港代表を率いた経験があり、アメリカでトラベリングチームを運営するなど海外野球にも精通する。そのなかで多くの「GM」を見てきたが、野球の本場アメリカでもさまざまなあり方があるという。

「アメリカと日本のGMで何が違うかと言えば、『人によって違う』というのが正直なところです。たとえばお金に得意なGMの場合、いわゆるマネーゲームでチームをつくっていくのが上手。

 対して僕のようなタイプは、細かい数字のことは得意ではないけれど、もっと人間づくりの部分で力を発揮する。選手が成長して次のステージに行くにはどうするか、ということです。僕の知っている人でも、お金に関するところはGM補佐に任せて、選手たちの成長やチームを強くするための移籍関連に注力しているGMもいます」

 英語では「監督=field manager」「GM=general manager」となるが、両者の役割はそう考えるとわかりやすい。ベースボールオペレーションにおいて、スペシャリストたちをまとめ上げるのがGMの役割だ。

 日本ではまだ「GM」のあり方が確立されていないからこそ、色川GMは先鞭をつけたいと考えている。

「日本では野球人口が減っているなか、今までのように黙って大会を開催していれば優れた選手がポンポン出てくる流れも変わっていくと思います。気づかれないまま消えていく存在が、現在もすでにいますが、これからはもっと多く出てくる。

 そのなかで昨今、データやスカウティング、技術論などいろんな方法論が広がっていますが、スカウティング人材が活躍する時代がやってくると思います。今後ベースボールオペレーションサイドにもっと多様な人材が必要になった時、彼らを統括して、舵を切っていくGMという存在が、今まで以上に重要になっていくはずです」

 昨今の球界は、アナリストやデータサイエンティスト、バイオメカニストなど、各球団がスペシャリストを抱えてチーム強化をするのが当たり前の流れになっている。彼らを束ね、どのように力を最大限に発揮させるのか。

 GMという役職は今後、日本でも重要性が増していくはずだ。

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