では、30代既婚女性が思い描く30年後の自分たち夫婦像とは、どういうものだろうか。
30代の子育て世帯は最高に忙しい
現在、共働きで子育て真っ最中のヒロミさん(38歳)は、「今が最高に忙しい時だと覚悟している」という。40歳になる夫との間に、7歳と4歳の子がおり、夫婦はそれぞれフルタイム。近所に住む広美さんの母が手伝ってくれなければ、共働きは難しかったと話す。「でも共働きでなければ、ごく普通の生活すらできない。同僚たちもみんなそうですね。どうにか生活が成り立っているけど、子どもたちの学費や将来を考えると経済的にはまだまだ不安が募ります」
実質賃金が上がっていないのに物価だけが上がっていく。少しでも安いものを買いたいが、仕事をしているとそこまでの時間がとれない。
「そうやってやきもきしながら日常生活を送っているのが現状ですね。それなのに夫は結構ノーテンキで、『今月、飲み会が多くてさあ、ちょっとだけカンパしてくれない?』なんていうこともある。飲み会などで夜遅くなる回数も、できるだけ平等にと思ってはいるんですが、やはり夫のほうが圧倒的に多い。
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最後は笑いながら言ったヒロミさんだが、あながち冗談ではなさそうだった。
60歳になっても社会と繋がってはいたい
2人とも、おそらく65歳までは確実に働くだろうと彼女は言う。その後は体力と気力によるのかな、と。「うちの父は、60歳で定年になってから仕事はしていませんでした。少しのんびりしたいと言っているうちに病気になって、65歳で死んでしまった。父の同僚たちの多くは65歳まで何らかの形で仕事をしていたから、『やっぱり家にこもるったのがよくなかったんじゃないのかね』と葬儀で話しているのが印象的でした。
私もそう思いますね。仕事をやめてやりたいことがあるなら別だけど。私も、どうしてもこれをやりたいと思うものがない限り、定年後も仕事とかボランティアとか社会と繋がっていたいとは思います」
一方、夫は「なるべく早く仕事を辞めたい」というタイプらしい。
離婚しているかも?
自分が60歳になった時、子どもたちは29歳と26歳。さすがにもう、親を頼りにはしない年齢だろうとヒロミさんは考えている。
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ただ、そのころの自分たち夫婦を考えると、どうなっているかまったく想像がつかないと苦笑する。このまま60歳までうまくやっていけるかどうかもわからないのに、それ以降なんて想定外です、と。
「お互いに忙しくしていれば、相手に苛立っても目をつぶって日常生活を続けられるけど、どちらかが家にいる時間が長くなってくるとケンカが増えそうですね。子どもが小さいころから、家庭に関わる時間が夫と私ではずっと不均衡が続いているから、知らず知らずのうちに恨みがたまっているような気がします」
まだ結婚して9年なのにこの状態だから、あと30年過ごしたらどうなることかとヒロミさんはため息をつく。今すぐ離婚は考えられないが、30年後までに離婚する可能性は結構ありそうだと思っているそうだ。
「退職金とか年金とか、その後の人生を1人で生きていける経済的な目処がたてば、お互いにひとりに戻るのもいいかもしれないと思っています。そういうこともありうると考えて、これからの人生を組み立てていったほうがいざというとき慌てなくてすみますよね」
老いた夫が病気になったらどうするか?
特に考えるのは、老いた夫が病気になったときのこと。積極的に支えたいと思えないとヒロミさんは言う。申し訳ないけど、これはやはり愛情が薄いのだろうと彼女は妙に冷静につぶやいた。「もし子どもが病気になったらと考えると、それだけで胸がドキドキするし、何があっても私が治すと断言できるんですが、それが夫だったらと思うと、逃げたいなと(笑)。実際には逃げないと思うけど、長い期間、支え続けると断言もできなくて」
そういうシミュレーションをすることがいいかどうかはわからないが、ヒロミさん自身は「常に自分の気持ちを把握しておきたいから、ときどきそうやって想像してみる」のだそう。自らに率直でありたい、そのほうが幸せだと思うからと彼女はちょっと複雑な表情を浮かべた。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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