韓国のユン大統領は12月3日夜、韓国では50年ぶりとなる戒厳令を発出した。戒厳令とは、簡単に言えば国内における政治活動を制限し、メディア報道を統制し、全ての権力や権限を大統領下に置くことを意味する。戒厳令は4日早朝には解除されたものの、野党などは民主主義の根幹を揺るがす権力の乱用だと反発を強め、ユン大統領は窮地に追いやられている。ユン大統領は2022年5月に就任し、日韓関係の改善に努めるなど、日本目線では好意的に受け止められてきた。しかし、国内では就任当初から少数与党での政権運営を余儀なくされ、支持率も20%を下回り、今回の件で5年の任期を全うできそうない状況だ。今後、韓国政治はどこへ向かうのか現時点では不透明な点が多いが、ユン政権の終焉となれば日本の安全保障にどのような影響が出てくるのか。ここでは独自の見解を述べたい。
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まず、ユン政権の終焉は日本にとっては大きなマイナスとなる。ユン大統領は、就任直後から日韓関係の改善に努め、安全保障から経済、先端技術など多岐にわたる分野で相互の協力を促進していく方針を打ち出し、近年の日韓関係は極めて良好だった。石破首相も来年1月に訪韓し、良好な日韓関係を継続していく方向で調整を進めてきたが、今回の件でその訪韓すら難しくなってきた。仮に次の大統領選挙が実施されたとしても、国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」の候補者が勝利するシナリオが十分に考えられ、そうなれば戦後最悪の日韓関係とも言われたムン政権の時のように、韓国政権が元徴用工など歴史問題を持ち出し、日韓関係が再び後退することは避けられない。
そして、対北朝鮮における日米韓の結束も大きく後退することになろう。この2年半あまり、バイデン大統領、岸田元総理、ユン大統領は核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対して3カ国が共同して対処する重要性を共有し、実際にそれが上手く機能してきた。しかし、共に民主党が実権を握ることになれば、北朝鮮に対して融和路線に転換し、日本だけでなく米国との関係も後退する可能性が高い。しかも、来年1月にはトランプ政権が再発足する。トランプアメリカになるだけでも日米韓の結束が揺らぐことが考えられるが、ユン政権が終焉すれば、日本は対北朝鮮でのパートナーを失う恐れがある。
今から20年ほど前、東アジアには北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議と呼ばれる枠組みが存在した。参加する6カ国は米国、日本、韓国、北朝鮮、中国、ロシアで、北朝鮮の核問題を解決するには至らなかったが、当時そこには関係各国が協力して問題を解決していこうとする共通意識、国際的協調があった。しかし、今日、中国は対外的覇権を押し進め、ロシアはウクライナへ侵攻し、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮はそのロシアとの軍事的結束を深めている。その状況下で、非介入主義と対中国強硬姿勢に徹するトランプ政権が再来し、韓国では日米との関係を重視してきたユン政権の崩壊が現実味を帯びており、東アジアは6カ国協議とは正反対な方向へ進もうとしている。今回の戒厳令発出は韓国内政の問題ではあるが、日本の安全保障の視点から考えても極めて大きなマイナス要因と言えよう。
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◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。
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