東洋大学が2025年度から導入する新たな入試方式「学校推薦入試 基礎学力テスト型」が議論を呼んでいる。今月1日に入試が行われ、募集人数578人(全学部)に対し志願者が約2万人、志願倍率は約35倍となる“高い人気”を呼んだが、大学入試のルールに違反しているとの指摘も相次いでいる。どのような入試方式であり、なぜ東洋大学はあえて文部科学省から目をつけられそうな取り組みを実施したのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
東洋大学の新入試方式は「学校推薦入試」として導入される。一般的な学校推薦型選抜では、志願者の在籍高校による推薦が必要となり、高校が作成・提出する調査書、学校推薦型選抜志願書、推薦書、その他大学側が求めて提出される書類などに基づいて第1次選考が実施され、2次選考として面接や大学入学共通テストの成績などに基づき合否判定がなされる。今回の東洋大学の新入試では、学校長の推薦書と調査書のみで出願可能であり、志願書や志望理由書など作成に手間がかかる書類の提出は不要で、小論文や面接も課されない。学習成績の状況等の出願条件もないため、志願者は事実上、在籍する学校の推薦を得られれば受験可能であり、高校の学習成績は問われず「英語・国語」もしくは「英語・数学」の2教科の入試の点数のみで合否が判定される(英語は英語外部試験のスコア利用可)。
全学部・全学科・全専攻で実施され、他大学や東洋大学の一般選抜との併願が可能、同推薦入試内での併願も可能と、まさに“至れり尽くせり”の内容となっている。
もっとも、入学定員割れの大学が半数以上になるなど私立大学が厳しい経営環境に置かれているなか、東洋大学の経営は底堅い。24年度の一般選抜の志願者数は10万人を突破し、私立大学としては全国4位の数字となっている。
「合格発表日は12月10日、入学手続金の納入期日は12月17日となっており、早慶上智(早稲田大学・慶應義塾大学・上智大学)やGMARCH(学習院大学・明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)を第一志望とする受験生でこの東洋大学の新入試方式に合格した人のなかには、引き続き受験勉強をする一方で“滑り止め”として東洋大学に入学手続金を納付する人が一定数いるでしょうから、大学にとっては収入面で一定のメリットが見込めます。
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また、現在では大学側は新年度を迎える前年のうちにできるだけ入学者数を確定させておきたい、受験生も前年内の年内入試で入学する大学を確定させておきたいという流れになっており、それに沿った入試方式ともいえます」(大手予備校関係者)
そんな新方式をめぐり「ルール違反」という声があがっている。個別学力検査の試験期日を2月1日から3月25日までとする、文科省が定める「大学入学者選抜実施要項」に違反するという指摘だ。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。
「ルール違反ともいえますし、違反ではないともいえます。まず、大学入試のルールを定めた『大学入学者選抜実施要項』の『第4 試験期間』には、学校推薦型を含めて『個別学力検査の試験期日は2月1日から3月25日までの間』と明記されています。東洋大学の新入試は、それより前に『個別学力検査』を課すのでルール違反といえます。
一方、2020年度の入試制度変更により、それまで推薦入試・AO入試と呼ばれていた入試形式を学校推薦型選抜・総合型選抜に変更したのにあわせて、両選抜について『自らの考えに基づき論を立てて記述させる評価方法(小論文等)、プレゼンテーション、口頭試問、実技、教科・科目に係るテスト、資格・検定試験等の成績など』または共通テストのうち、少なくともいずれか一つは必須とすることを定めました。この評価方法は『大学入学者選抜実施要項』の『第3 入試方法』に明記されています。『教科・科目に係るテスト』が東洋大学の新入試における基礎学力テストにあたるので、ルール違反ではない、との言い方が成立します。
学校推薦型選抜・総合型選抜に変更となり、2000年代から面接のみで合格できる大学が増えて学生の学力不足が指摘されるようになり、大学は志願者の学力についても評価するようになりました。メディアでは、誰でも簡単に入れる入試方式として『ザル入試』と揶揄されるほどでした。こうした批判を受けて、文科省は大学入試改革に取り組みました。
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東洋大学の新入試について、文部科学省はメディア取材に対して『実施要項に反している』と回答しています。ただ、それは『第4 試験期間』についてであり、『第3 入試方法』には反していません。仮にですが、文科省が強硬な対応を取ろうとしても『だったら<第3 入試方法>に明記されている『教科・科目に係るテスト』とは何か、線引きをはっきりさせるべき』となってしまいます。当然ですが、すぐに対応できる話ではなく、文科省としては内心では苦慮しているのではないでしょうか。また、関西の私大が東洋大学よりも先行して多数実施していることを考えると、『なぜ関西の私大はお咎めなしで東洋大学はルール違反なのか』という話にもなります」
では、東洋大学が、文科省が問題視する可能性のある入試方式を、あえて実施した理由・狙いは何であると考えられるのか。
「まず、学力試験を伴う年内入試については、関西の私大などがすでに実施しているので問題ない、との認識だったのでしょう。年内入試は各大学で盛んになっていますが、面接や小論文、プレゼンテーションなどはいずれも受験生にとって負担が重たいものになっています。しかも、基本は専願なので他大学を併願することができません。その点、東洋大学の新入試であれば面接などがなく、基礎学力テストのみで合否が判定されます。英語は民間試験の成績も利用できるので、受験生からすれば、そこまで負担になりません。合格しても他大学の併願が可能なので、東洋大学よりも偏差値が高い早慶上智やGMARCHクラスを一般選抜で受験することもできます。これらの受験生からすれば、東洋大の合格が年内に確定していれば、志望校の受験にじっくり取り組めます。仮に志望校に不合格でも、合格していた東洋大学に進学することができます。
報道によると、今回の新入試は志願者が約2万人だったそうです。ここまで志願者が多かったことは、東洋大学からすれば、狙い通りか、それ以上の成果だったとおえるでしょう」
(文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)
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