一方で競合の携帯電話会社は、コロナ禍明け以降の需要を読み、通信品質を維持できたことから評価が高まっています。中でもここ最近、通信品質の評価が急上昇しているのが「au」「UQ mobile」などのブランドで知られるKDDIです。
実際KDDIは、イギリスの調査会社Opensignalの「モバイル・ネットワーク・ユーザー・エクスペリエンス・アワード」2024年10月版において、18部門中13部門で1位を獲得したことを明らかにしています。
この調査はスマートフォンでの通信速度や動画・ゲームなどのユーザー体験、エリアの広さなどの観点から携帯電話各社のネットワークを多角的に評価したもので、通信品質を図る指標の1つとして世界的に注目されています。
KDDIの通信品質が高まった理由とは
そのような調査で今回、KDDIは日本の携帯電話会社の中で最も高い評価を受けたわけですが、理由はどこにあるのでしょうか。
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5Gのネットワーク整備方針
同社の分析によりますと、要因の1つは5Gのネットワーク整備方針にあるようです。5Gの整備の仕方は大きく分けて2つあります。1つは5G向けに割り当てられた、高速通信が可能な「サブ6」と呼ばれる高い周波数帯の基地局を、広いエリアに設置してカバーする方法。もう1つは、4Gから5Gに転用した低い周波数帯の基地局で広いエリアをカバーし、サブ6の基地局は混雑が発生しやすい都市部に集中して設置する方法です。
前者の方法を取っているのがNTTドコモと楽天モバイル、後者の方法を取っているのがKDDIとソフトバンクです。ただ、サブ6は6GHz以下、日本では3.7〜4.5GHzと非常に高い周波数なので、1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」のように広いエリアをカバーするのには向いていません。
それゆえ前者の方法では、サブ6の基地局1つでカバーできるエリアが狭いため隙間が生じやすく、エリアの端で通信をすると、アンテナは立っているが通信ができない「パケ止まり」と呼ばれる事象が起き、品質が悪くなりがちです。
一方で後者の方法では、4Gから転用した周波数帯で面のカバーがなされており、サブ6の基地局も密に設置され隙間が生じにくいことから、パケ止まりが起こりづらく高い通信品質を維持しやすいのだそうです。
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サブ6の基地局数が多い
通信品質向上のもう1つの要因は、サブ6の基地局数にあります。そもそもKDDIは携帯4社の中でサブ6の基地局を最も多く設置しているため、多くの人が一斉にアクセスしても通信品質が低下しにくいのです。では、なぜ今になってKDDIの通信品質が向上しているのかというと、これには衛星通信が大きく影響しています。
実はサブ6の周波数帯のうち4社全てに割り当てられている3.7GHz帯は、衛星通信と干渉するエリアが多かったことから、干渉防止のために電波の出力を弱くする必要がありました。
ですが2024年4月以降に衛星通信との干渉が緩和されたことで、電波出力を強め、3.7GHz帯の本領を発揮できるようになりました。その結果、最もサブ6の基地局設置数が多いKDDIの通信品質が2024年に入って急上昇し、高い評価を得るに至ったといえるでしょう。
通信品質に不満を抱えるNTTドコモユーザーは、KDDIに移るべきか?
では、NTTドコモユーザーは通信品質の高いKDDIにすぐにでも乗り換えるべきなのでしょうか? 実はそう簡単な話ではありません。
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実際NTTドコモも、2023年の反省を踏まえ通信品質の対策にはかなり力を入れており、最近ではサブ6だけでなく、4Gから転用した5G周波数帯の積極活用も進めています。さらに、より性能が高いとされる海外メーカー製の基地局を導入するなどして、急ピッチで改善を図っているようです。
またユーザー側も、離れた家族と「ファミリー割引」を組んでいたり、「ahamoポイ活」「eximoポイ活」などのプランを契約していたりして、他社のサービスへ簡単に乗り換えるのは難しい人も多いかと思います。
NTTドコモから乗り換えずに通信品質をカバーする方法
それでもネットワーク品質に不満があるのであれば、1台のスマートフォンに2つのSIMを登録して活用できる「デュアルSIM」と、KDDIの「povo」を活用して回避する手があります。最近のスマートフォンは、物理SIMとeSIMの「デュアルSIM」に対応しているものが多くなっています。手持ちのスマートフォンがデュアルSIM対応のものであれば、NTTドコモのSIMはそのままに、povoのeSIMを追加できます。
povoは必要に応じて通信量を購入する仕組みなので基本的に維持費がかからず、それでいてKDDI回線を活用できます。通信品質が悪いと感じた場合はpovoの通信量を購入し、そちらに切り替えて通信するようにすれば、コストを最小限に抑えながら通信品質をカバーすることも可能であることを覚えておくべきでしょう。
© Opensignal Limited
<参考>
・Opensignal「モバイル・ネットワーク・ユーザー・エクスペリエンス・アワード」2024年10月版
・NTTドコモ「2024年度第2四半期決算について」
(文:佐野 正弘( 携帯電話・スマートフォンガイド))