『おむすび』第51回 被災者の「暮らし」を描かず「回復」だけを描く軽率な作劇

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2024年12月09日 18:01  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

 そりゃ震災を描くわけですから、傷ついた人がどうやって「心の復興」を果たしていくか、失われた時間を回復していくかが描かれることになると思っていたんですが、さすがにナベさん(緒形直人)が一晩でデコ靴を完成させてくるくだりには天を仰いでしまいましたよ。笑って変な声出ちゃった。

 震災で最愛のひとり娘を亡くし、12年間にわたって心を閉ざしてきたナベさん。その描き方は極端だったしエピソードも取っ散らかっていたけど、とにかく容易に癒されるものではないという部分だけは強調されていたように感じたんですよね。

 いやぁ、めちゃくちゃ容易に癒されました。NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第11週は「就職って何なん?」とのこと。いつまでもナベのウジウジに付き合ってられないということでしょうか、今週は月曜からガンガン飛ばします。振り返りましょう。

■被災者を暮らさせろ

 まず言いたいのは、じゃあ震災のあった12年後に傷ついた被災者の回復を描こうとするなら、その傷ついた人が12年間、どんな暮らしをしてきたかを見せなければ、それがどう回復していくかを語っても意味がないということです。

 このドラマがいわゆる“被災者の象徴”として登場させたナベさんという人物は、あの日から心を閉ざして、ずっと墓参りをしている。家では酒を飲んで、亡くなったマキちゃんの遺影を眺めている。

 それは、ナベさんの「暮らし」ではありません。

 その酒を買うためには仕事をしなければいけないし、毎日あの高台にあるお墓に手を合わせに行くには、健康な体が必要です。傷ついた人が、その傷を抱えながら生きるということは、その傷を抱えながら仕事をして金を稼ぐことなんです。気を病んで仕事ができないなら自分で病院に行って診断書を取って、役所に行って生活保護の申請をしなきゃいけない。平成19年に日本・神戸で自活している大人を描くとき、その経済活動を切り離した状態を「暮らし」とは呼べないのです。

 被災者の暮らしとは、大切な人を亡くして絶望を感じても「それでも生きていかなきゃいけない」という、その日常のことです。『おむすび』はナベさんという被災者の「娘が死んだつらさ」は描いても「生きていかなきゃいけないつらさ」はまったく描きませんでした。

 先週の土曜日ですかね、いつもの統括プロデューサーが取材に応えて、結たちが高1の終わりに体験していたはずの福岡県西方沖地震について「描かない選択をしました」と語っていました。「2005年には地震も経験しているでしょう」「さまざまな記憶がフラッシュバックして、結も大いに戸惑ったに違いありません」。

 もしかしたらナベが12年間、仕事をしていたかどうかについても「描かない選択をしました」とか「きっと働いていたに違いありません」とか応えるのかもしれません。

「本当に伝えたいことが伝わらないと考えました」
「一歩一歩、日常を前向きに生きる人間の生命力、逞しさをきっちりと届けるために、あえて描かないこと選択しました」

 これも、西方沖地震を描かなかったことについてのコメントです。

 ナベの12年間の日常(=仕事ぶり)を描かなかったということは、「日常を前向きに生きる人間の生命力、逞しさ」を描かなかったということです。これは、被災者に「かわいそうな人」というレッテルを貼っているということです。極端に嫌な言い方をしますけれども、震災で深い傷を負った人間を「人間扱いしていない」ということなんです。

 今回、ナベは米田結の言葉に胸を打たれ、デコ靴を徹夜で仕上げてきました。これで「心の復興」を見たということでしょう。

 この一連のシーン、じゃあ本当に伝えたいことはなんだ、とドラマから与えられた情報から読み解けば「米田結が動けば万事解決」「米田結こそ人と人を結ぶ救世主」という“結ちゃん神話”だけです。

 12年後の神戸でナベが出てきた当初から「こいつ仕事してねえのかよ〜」なんて軽い気持ちでツッコんでたけど、いざ「被災者ナベ、回復完了」と示されると、その被災者に対する描写の悲惨さ、軽率さに改めて思い当たってしまい、笑ってる場合じゃないなという感じです。これで震災と被災者の心の回復を描き切ったと思っているなら、なかなかにこれは、アレだよね。作品のメインテーマだったはずでしょ。

■その“神話”にも失敗している

 あと翔也(佐野勇斗)が変化球を習得して、あっという間にメンディーとの二枚看板になってプロのスカウトも注目、みたいになってましたね。

 これ、結が「速球にこだわらなくてもいいんじゃね?」と言って、それによって翔也が飛躍したという話にしたかったんだろうけど、ちょっとこじつけに失敗してるよね。

 ほかにも、なんで理髪店で打ち上げやってんだとか、ナベにデコ靴を作らせたかったらデコの材料は発注側が持ってけよとか、なんでナベはラインストーンとかレースのリボンとか持ってんだよとか、いろいろあるけど今日はもういいや。明日以降のために脱力しておきます。はい。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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