12月8日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は敵地でレガネスを0−3と下し、ラ・リーガで6位まで上昇した。
「星三つ(星0〜3の4段階評価)」
スペイン大手スポーツ紙『アス』は、この試合で両チーム最高の星を久保建英に与えている。得点者ではなく、直接のアシストを記録したわけでもない。しかし、ラ・レアルでは他に星三つはひとりもいなかった。
この星の数こそ、現在の久保の真価を表しているのではないか。
レガネス戦のラ・レアルは「効率的な試合」を目論んでいた。週2で試合が続き、選手の疲労は積み重なっている。ポゼッションを守備的に運用しながら優勢を保ち、相手をじわじわと追いつめる戦略だった。相手の焦りを誘い、攻撃機会をうかがっていた。
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そして前半14分、右サイドに陣取った久保が突破口を開いている。マーカーを簡単にはがすと、中へドリブルで切り込むことで相手の守備陣を乱す。そして幅を取っていた左サイドのセルヒオ・ゴメスに展開。そのクロスに対し、中央のミケル・オヤルサバルが相手センターバックを釣って、大外にいたブライス・メンデスが難なく押し込んだ。
戦術的に教科書的な得点だったが、ゲームチェンジャーは久保だった。
じりじりした試合のなか、久保はまず一対一で局面を制している。それによって、明らかに流れを変えた。インサイドに入ってのパス軌道は美しく、プレーメイクもできるビジョンやテクニックは卓抜だ。
また、久保は強力なキープ力で、相手にほとんどボールを触らせなかった。"久保番"だったハビエル・エルナンデスには、シャツを引っ張られ、腕を引っ張られたが、まったく意に介していない。開幕以来、マンツーマンに近い形で、もしくはダブルチームを組まれることもあるが、完璧に封じられた試合は一度もないだろう。
そしてカットインが止められたら、久保は縦に抜いて際どいクロスを送っていた。いくらでも、攻め手はあるというのか。集団で守られても、ホン・アランブル、ブライス・メンデスとのトライアングルで包囲網を破った。彼が優勢な状況を作ることで、ラ・レアルは有利に戦っていた。"何かを起こす"という期待感のようなものが漂った。
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【数字で目立たなくても高評価】
「久保がボールを受けるたび、何かが起こっていた。彼は確信を持って、相手と対峙していた。そして(マーカーの)ハビ・エルナンデスを『もうやめてくれよ』と言わせるほど"殴りつけている"。0−1にしたシーンで左に展開したパスはすばらしかった」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、久保のプレーにそう称賛を送っている。こちらも得点、アシストなどに論拠を置いていない。ましてやスプリント数や走行距離などでもなく、サッカーそのものへの評価だ。
久保の図抜けた技術と知性と胆力こそ、安定した高い評価につながっている。
これまでスペインでプレーしてきた日本人選手は、ある試合で決定的な仕事をやり遂げることで、一時的に高い評価を受けた。しかし、その後は、たとえチームのために働いても、目立った数字を叩き出せないと、「試合を決めるプレーができなかった」と低い評価を受け、失速するケースがしばしばあった(唯一、乾貴士が久保に近い好意的な評価を受けていたが、エイバルという中位から下位のクラブだった)。
久保はそうした日本人選手たちとすでに一線を画している。たとえ数字で目立たなくても、高い評価を受ける。実績も含めてのジャッジなのだ。
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それは久保がスペインでマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェ、そしてラ・レアルでプレーを続け、つかみ取った名声と言える。スペインのように試合のたびに評価が天地ほど変わってしまう国では、こうした土台となる評価は強力な武器となる。やはり、批判や不当な評価は選手に大きなストレスを与え、熱意を削ぐことになるからだ。
久保への評価はフラットで、嘘がない。
「(レガネス戦の久保は)試合を通じてイレギュラーだったが、プレーに参加した時は危険なシーンを作り出した。0−1とした場面も、すばらしいダイアゴナルの動きで、プレーの端緒になっていた。決定機にエリア内で居眠りしていたシーンもあったものの、右サイドバックのアランブルとはまたもいいコンビネーションを生み出していた」
『アス』紙は決して手放しの称賛を送っているわけではない。しかしながら、評価自体は最高点だった。
昇格組のレガネス戦での勝利は、シーズンのなかでは取り立てて騒ぐようなものではない。しかし、ひとりの日本人選手がリスペクトされる領域までたどり着いた。それが明らかになった分岐点と言えるかもしれない。
12月12日、ヨーロッパリーグ。現在16位のラ・レアルは、最下位のディナモ・キーウ(キエフ)と戦う。ラウンド16(1〜8位がストレートにラウンド16へ、9位〜24位はノックアウトアウトフェーズへ)に進むため、"負けられない"戦いだ。