震災で深い傷を負った人物の回復を描かれれば、やっぱりこちらもちゃんと見なきゃという気になるものです。ナベさんについての一連のエピソードは緒形直人のすんごい芝居もあって、強く訴えかけてくるものがあったんですよね。だからこそ適当な描写には閉口したし、腹が立つ部分もあったわけで。
NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第52回は、米田結(橋本環奈)が就職活動を始めるお話でした。震災に比べて、マジで非常にどうでもいいと思っているんでしょう。就活に臨む結がまったく真剣に取り組んでいない様子が描かれました。
そうなると、こちらも真剣に見なくていいんだなという気分になりますので、いくらか気楽なものです。朝から勝手にテレビつけてドラマ見て「ここがムカつく、あそこが許せない」なんて憤ってるのは、健全な生活とは言えませんのでね。
振り返りましょう。
■パンフすら読んでない
夏の炊き出しから1年ほどをすっ飛ばし(もうそれはいい)、就活の時期になった結ちゃん。面接に行くにあたって黒髪にも戻しましたし、リクスーも用意しました。こうなると橋本環奈の顔面が際立ちます。改めて、お仕着せのギャルファッションがまったく似合ってなかったことが露見しますが、眼福なのでまあいいでしょう。
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面接当日、リクスーで台所に現れた結に、ママ(麻生久美子)が「どこ受けるの?」と聞いています。ママも全然興味がなかったようです。普通、就職先の相談とかしそうなものですし、就活生にとっては一世一代の舞台なわけですが、ママは母親である以前にブロガーですから、どこかでブログのネタになるようなおもしろエピソードが起こることを期待しているのかもしれません。
結の面接は連戦連敗。面接では、空手の型を披露した男の子に触発されておもしろパラパラを踊り出してみたり、尊敬語と謙譲語がぐちゃぐちゃに混じったおもしろ日本語を披露してみたり、企業パンフすら目を通していないようで、共感したはずの「御社の企業理念」を1文字も覚えていないというおもしろ失礼ボケをかましてみたりしていますので、それも当然の結果です。
願わくば、ママがブログに「今日はギャルさん、バカみたいに面接でパラパラを踊ったそうですプププ」なんて気の利いたイラストとともに書き込んでいる姿を見たかったところですが、視聴者の見たいシーンを見せないことに執念を燃やしている『おむすび』ですので、致し方ないところでしょう。
今回も、「管理栄養士と栄養士は違う」というセリフがありましたが、どう違うかは説明されませんでした。視聴者の見たいシーンを見せないだけでなく、物語を理解する上で必要な情報を与えることも無駄だと思っているのでしょう。そんなことする時間があったら、呆けた顔でパラパラを踊らせておけばいいんです。1話の大半を玉ねぎによる野菜染めの説明に費やした初期の『おむすび』が懐かしいな。
結局、夏前の就活では全落ちだった結。秋の募集にすべてをかけることになりました。まだちょっと時間はあるみたいなので、面接の練習とか志望先の会社の情報に目を通すとか、それくらいしておこうね。
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一方、魔球「ヨンシーム」を習得した四ツ木翔也(佐野勇斗)が所属する社会人野球チーム・星河電器は夏の大会で快進撃。トーナメントには「宇部なんちゃら」「なんちゃら北海道」「新北陸なんちゃら」というチームが並んでいますので、どうやら全国大会への出場を決めたようです。
その大会でも、エース澤田(関口メンディー)と翔也という二枚看板の活躍で勝ち上がっていく星河電器。ナレーションベースのダイジェストで描かれたその勝ち上がりは、まさに独壇場といったところです。なぜ独壇場なのかといえば、両エースのアップショットばかりで相手チームの選手が1人しか登場しないから。さすがは受信料を制作費に充てているNHKですから、こうしたロケ撮影における予算管理には目を見張るものがあります。
そうしてナレーションベースで全国大会準優勝となった星河電器、エース澤田は来年はプロに行くようです。高校から直で社会人に進んだ翔也は3年目以降にならないとプロのドラフト指名対象にならないという規則があることも物語上、けっこう重要な情報だと思うんですが、ここもあんまり説明されなかったね。
とにかくプロに行ったら「結婚すっぺ」と翔也。結は「けっこん……?」と、また呆けた顔をしています。神戸に来たとき、翔也は結の目の前で結パパ(北村有起哉)に「結婚するつもりで交際している」と宣言していましたが、忘れちゃったのかな。
■徹底的に努力を見せない
と、全編にわたってコント仕立てだった今回。調理実習や献立作り、炊き出し、ナベさんとのコミュニケーションといった真面目に取り組まないと他人に迷惑をかけたり嫌な思いをさせたりする場面で結が不真面目だったりするとムカつくわけですが、こっちは結がちゃんと就職できようができまいが知ったこっちゃないので、勝手に不真面目に面接を受けていても別に腹が立つことはありません。翔也の「結婚すっぺ」についても、別にそういう女の子が好きならそれでいいんじゃないの? と思うだけ。
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とにかく、このドラマは結という主人公に努力をさせようとしません。目標に向かって一生懸命がんばる、というシーンがひとつもない。結は徹頭徹尾お気楽かつ受け身で物事に向き合い、周囲が必死で結をフォローするという構図が続いています。そしてエピソードがまとまるころになると、結に神通力が宿って何もかもを解決していく。
おそらくは、それがドラマ側の考える「ギャル」というキャラクターなんだろうな、と思うわけです。悩むことはあっても、がんばることはない。「死んでもダサいことをするな」というギャルの掟からいえば、がんばってる人をダサいと思ってる。
出番は短かったけれど、スズリンはネイルに、タマッチはダンスに、リサポンはギャル史の研究に向かってちゃんとがんばっていたことは伝わってきてたのに、ムスビンこと結だけがギャルの中でも「がんばる」を免除されている。役柄として気を使われすぎて、逆に結というキャラクターが損をしている。そうして、誰が見ても道化としか映らない姿を全国にさらしている。
こういう状態を指して「裸の王様」というんでしょうね。不憫なものです。
(文=どらまっ子AKIちゃん)