瀧本幹也写真展「LUMIÈRE / PRIÈRE」(ルミエール/プリエール) 「光」と「祈り」に込めるもの

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2024年12月10日 17:20  OVO [オーヴォ]

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瀧本幹也写真展「LUMIÈRE / PRIÈRE」会場入り口(写真提供:瀧本幹也氏)

▽コロナ禍で生まれたシリーズ「LUMIÈRE」ルミエールと「PRIÈRE」プリエール

 是枝裕和監督作『そして父になる』『海街diary』『三度目の殺人』で撮影を務め、広告写真やCM映像をはじめ幅広く活動を続ける瀧本幹也氏の写真展「LUMIÈRE / PRIÈRE」(ルミエール/プリエール)が代官山ヒルサイドフォーラムで12月15日(日)まで開催中だ。

 大型作品を含む約60 点に加え、インスタレーション作品と映像作品を陳列する。写真展のタイトル「LUMIÈRE / PRIÈRE」は、フランス語で「光」と「祈り」を意味する。この二つはコロナ禍を契機に生まれたシリーズだ。


▽小型カメラ一つで野の草花を見つめた「LUMIÈRE」(光)

 新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大によって、人々が他者との接触を極端に減らし、自宅などの限られた空間に閉じこもることを余儀なくされた2020年初頭。それまで、写真とともに生きてきた瀧本氏も、多くの関係者が関わる仕事が軒並みストップしてしまい、それまでの作品づくりのように世界各地に飛ぶことも、大がかりな撮影もできなくなったという。

 撮影後には家庭にウイルスを持ち込まないように自主隔離の期間を作り、春には西伊豆の温泉旅館に滞在した。その旅先で小さなカメラをもって近くの河原を散歩している途中に出合ったのが、360度見渡す限りの菜の花畑だったという。コロナ禍で、周囲には人もおらず、車も走っていない。一面の菜の花の中に入っていき、地べたに寝転がり泥まみれになって撮ったのが、一枚目に展示される菜の花の写真だ。


 この経験をきっかけに、瀧本は小型カメラ一つで野の草花を見つめた「LUMIÈRE」のシリーズを撮り始める。「その場所で自生している花は、もしかしたら数百年前から、そしてこれから先、ずっと生命をつなぎ続けていくかもしれないもの。そういうものを撮り始めた」と瀧本氏。


▽コロナ禍で人気がなくなった京都の寺社を巡りながら撮影した「PRIÈRE」(祈り)


 2020年秋、京都で国際写真祭に参加した瀧本氏は、仏教用語の「円融(えんゆう)」という言葉に出合う。「円融」はすべての事物が完全に溶け合い、互いに妨げないことを意味する。「人気がなくなり、静寂の中にたたずむ古都の寺社を訪れたとき、過去から現在、そして未来へと脈々と続いてゆく時の流れに自らも連なっていることを感じた。その連なりをとらえるべく、寺院を歩いて巡りながら撮影したシリーズが『PRIÈRE(フランス語で「祈り」)』に結実した」という。


▽大きな宇宙から小さな精神宇宙への広さへと興味が映っていった


 コロナ禍前の瀧本氏の作品は無機質で、マクロな視点が特徴だった。ケネディ宇宙センターで撮影したスペースシャトルのシリーズ「SPACE」と、アイスランドの大地を撮影したシリーズ「LAND」を収めた2013年発行の写真集「LAND SPACE」に表れているように、かつては「無人探査機から撮ったように感情を排していた」という瀧本氏。それがコロナ禍を経て、「大きな宇宙から、小さな精神宇宙への広さへと興味が移っていった」と語る。「コロナの経験が、自分の表現の指針を知るきっかけになった。より個人的な、思いの映る撮り方になった。小さなカメラで撮影することで、その時の感情を写真に乗せることができるようになった」という。

▽対照的な二つのインスタレーション


 今回の展示空間で強い存在感を放つのが、ある種、陰と陽のように対照的な二つのインスタレーション「透過と反射 枯山水 SURFACE」と「雪の庭図 天井枯山水 SNOW MOUNTAIN」。

 展示スペースのエントランスを入ってすぐの小部屋を利用した「透過と反射 枯山水 SURFACE」は、暗幕で外光と照明を遮った茶室のような空間に、寺院の枯山水を思わせる立体作品を置いたインスタレーションだ。「寺社の枯山水は、白い砂利を敷き詰めてそこを海に、岩を置いて山に見立てる。『透過と反射 枯山水』では、茶室のような狭い部屋に海の写真と透明なガラスの塊を置いて、透明な枯山水に置き換えた」と語る。

 一方、「雪の庭図 天井枯山水 SNOW MOUNTAIN」は、雪のように真白で広いホールの中に展開される。会期中、ホールへは通常は裏に隠れている貨物エレベーターに乗って移動する。瀧本氏は「裏導線でエレベーターに乗ると一瞬バグる。どこに連れて行かれたんだという感覚になる」と語る。低い扉から、突然真っ白な空間に入ると、頭上には大きく空間を斜めに横切る白い天井がのしかかるようにして現れる。その天井を見上げると雪山をテーマにした作品が展示されている。「ここは一体何なんだろう?」という驚きから始まる鑑賞体験だ。


▽新たな展開を迎えた瀧本氏の作品世界に触れられる貴重な機会

 庭を見下ろす視点で制作された「透過と反射 枯山水 SURFACE」の制作は2017年。コロナ禍である2020年の冬に制作された「雪の庭図 天井枯山水 SNOW MOUNTAIN」では、視点が山を見上げるように変化している。

「コロナ禍をきっかけに、庭を見下ろすことに象徴される人の視点から、ミクロに見上げる虫や大地の目線に近づいて行った」と瀧本氏は語る。惑星や宇宙、生命に魅了され表現してきた写真家が、写真を撮る歓びを再認識して生み出した2つの新作。コロナ禍を経て新たな展開を迎えた瀧本幹也氏の作品世界に触れられる貴重な機会だ。

 写真展は、代官山ヒルサイドフォーラム (東京都渋谷区猿楽町18-8) で12月15日まで。開催時間は、11時〜20時30分(最終入場20時)、最終日(10時〜18時)、入場料は500円(税込み)、高校生以下は無料。2月8日から3月9日まで、京都のGallery SUGATAでの巡回展を予定している。また、写真展と同名の写真集『LUMIÈRE』・『PRIÈRE』を2冊同時刊行。価格は、各1万3200円 (税込み) 。

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