「思わず手に取りたくなる」「持ち歩いていて気分が上がります」「明るい気持ちになります」…とSNSで見るのは、雑貨などではなく生理用品のお話。
外出先でも、ポーチなどで隠してトイレに向かうため、本人以外がほぼ見ることのない(トイレで困った知人へ譲ることはあると思いますが)ナプキンのパッケージですが、大王製紙「エリス」は、写真家・蜷川実花さんが手掛ける「M / mika ninagawa」や、北欧デザイン「フィンレイソン」ら人気クリエイターとコラボし、デザイン性を加えました。
10月から数量限定で発売されている人気画家・ヒグチユウコさんとの「エリス」コラボは、オンラインで完売した商品もあり、「もったいなくて使えない」「生理来るの楽しみってなった」「テンション上がる」と、普段の生理用品では見ないようなコメントが続々。また、こういったデザインに対して、「生理におびえて落ち込んでいた小学生娘が、生理用品がかわいくて、怖いのが減った」と感謝する母の声も。
ほかに、「こんなの欲しかった」と話題になった黒のショーツ型ナプキン「エリスショーツ」も好評。従来は白やピンクが多いからこそ、この「黒」というのがポイントに。
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表舞台に出ない消耗品を「必要だから買う」ではなく、「欲しいから買う」…はたして、どうやってデザインで付加価値を高めたのでしょうか? 大王製紙株式会社(東京都千代田区)のフェミニンケアグループの担当者さんに取材しました。
多様性を尊重するために…
――これまでの生理用品と比べると、2018年の「コンパクトガード」でイメージががらりと変わった印象を持ったのですが…。
「コンパクトガード」は10代後半から20代前半の活動的な女性をターゲットに、薄くて持ち運びしやすく、当初は2mmで5時間さらさら(※当社基準)という機能性を持たせて発売を開始しました。
当時、SNSの普及に伴い、若年層のオシャレ感度が上がっており、従来以上に生理用ナプキンのデザイン性へのニーズに高まりを感じていました。
そこで、コンセプトを「魅せるデザインで気分を上げる」とし、デザインを検討し調査。価値観の多様化やステレオタイプではない生理用品へのニーズが高まっていたことをふまえ、“機能性+デザイン性を兼ね備えたナプキン”として、これまでの生理用品にはあまり見られなかったオシャレなパッケージを目指しました。
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――そんな背景もあって、茶色一色のスタイリッシュなパッケージ(素肌のきもち シンプルデザイン)も生まれたのですね。
それまではカラフルでかわいらしいパッケージが主流でしたが、「もっとシンプルなデザインがあれば」「日常に寄り添うアイテムを好みのデザインで選びたい」という声も。そこで、「生理用ナプキンにシンプルという選択肢を」というコンセプトで企画しました。
元々はECサイト上のみでの取り扱いで、商品特長を詳細に紹介できるECだからこそ実現できたデザインでしたが、大きな反響をいただき、店舗でも展開することになりました。
――デザインの重要性が高まる中で、人気クリエイターとのコラボもスタートされたのですね。
写真家の蜷川実花さんが手がけるブランド「M / mika ninagawa」とのコラボレーションを通じて、2021年に商品化したのが始まりです。「生理を取り巻く環境を明るくしたい」という蜷川さんの想い、フラワーモチーフを代表とする色鮮やかな世界観が、エリスの想いとコンパクトガードの方向性にマッチし、過去4回コラボさせていただいております。
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その後、北欧柄デザインのフィンレイソン、イラストレーター・WALNUTさん、アートエージェンシー“ヘラルボニー”、画家・ヒグチユウコさんともコラボさせていただきました。
――その反応はいかがですか?
コラボ先のファンの方はもちろん、実際に店頭でコラボ商品を見て気に入って購入いただいたりと、販売実績としてもデザインからの効果をすごく感じています。
そして、撮影をしてSNSに投稿いただいたり、「こういうのを待っていました」といったコメントなど嬉しい反響もいただいています。ユーザーの方々の生理や生理用品に対する考え方の変化を、こういったコラボ商品を通して感じることができています。
これからも多様性を尊重し、一人ひとりの生理に寄り添うことを目指しながら、「コンパクトガード」「素肌のきもち」それぞれの商品にマッチしたデザインに仕上げていきたいと考えています。
開発に1年以上…「ショーツ型ナプキン」、ヒットの理由は?
1年間で出荷数累計400万枚突破とヒット商品になった「エリスショーツ」も、デザイン性が人気の理由のひとつ。2023年9月に発売した、エリス初の生理用ショーツ型ナプキンです。
SNS上でも、「欲しかったのはこういうデザイン」「ブラックというのがいい」「旅行用の紙ショーツ、災害時の備蓄にもなる」「災害や急な入院にも使える」など話題になっています。
「オムツっぽい」「厚そう」のイメージを払拭したい
――なぜ黒色に?
生理用ショーツ型ナプキンの未使用者へ実施した調査で、白色の素材が「オムツっぽい」「厚そう」といった見た目を気にする声が非常に多く寄せられました。そこで、従来のショーツ型ナプキンの概念を変えるために、もっと下着のような履き心地とカラーを実現できないか検討を重ね、社内外で調査を進めました。
その結果、ブラックカラーが「どんな服にでも合う」「大人っぽい、引き締まって見える」「汚れが目立ちにくい」といったオシャレの一環として支持され、非常に人気が高かったため、採用いたしました。
――ビジュアルの部分が重要だったのですね。
一番こだわったのは「スタイリッシュさ」です。ブラックカラーで差別化を図るとともに、履いた時に身体にフィットし、股部分のゴワゴワ感が少ないよう設計しています。
――触ってみて薄さと柔らかさに驚きました。
黒にすると決めたものの、ショーツ型ナプキンに使用している不織布は色をつけると硬くなる性質があり、素材選定にも時間を要しました。厚みの課題に関しては経血を吸収する吸収性ポリマーの配合量を調整することで吸収力を担保しつつ、ゴワゴワしない薄さとなっています。開発には1年以上費やしました。
履き心地の良さを実現できているので、就寝時以外の昼間やスポーツ時、アウトドアや旅先などでもぜひ使っていただきたいです。
――パッケージへのこだわりは?
ショーツ型ナプキンは今まで「夜に使う」認識が強かった商品ですが、このショーツはお昼も積極的に使っていただきたいことから、夜の青と昼の黄色のグラデーションにしました。一番にブラックカラーであることが伝わるようロゴも大きく打ち出しています。また、中の個包装もダークグレーの袋なので、持ち運びも気兼ねなく、使用後も処分しやすくなっています。
ショーツ型ナプキンは、まだまだ認知度が低いのが現状です。下着のように履いていただくことで生理の悩みを解き放ち、ポジティブな気持ちになってもらえたらと思います。
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ちなみに、「いらないのでは?」とSNSで話題になった、ナプキンの吸収シート部分に入っているリボンやハートのステッチデザインは、経血の漏れや拡がりを防ぐ役割をしているそう。夜用だと星や月が入っているものもあり、「憂鬱な生理期間に少しでも気分を上げてもらえれば」という想いを込めてデザインしているとのこと。こういった部分にも機能的で細やかな配慮がなされていることが伝わってきます。
2022年4月からエリスは、“だれかではなく、あなたのそばに”というブランドメッセージを掲げ、「エリスの思想を軸に、既存の商品を含め現状に満足せず、より良い商品として一人でも多くの方にご愛用いただけるようリニューアルやプロモーションを図っていきたいと思っています。一人ひとり違う生理に寄り添うブランドであり続けたいです」と担当者さん。
漏れや蒸れなど気になることも多く、腹痛や頭痛などの痛みを伴うこともあり、どうしてもネガティブで憂鬱な印象をぬぐえない「生理」。ほぼ月に1回やってくるこのナーバスな期間を少しでも心軽やかに過ごしたい…生理がある人にとって共通の願いではないでしょうか。
自分の生理サイクルや経血量に合うナプキンを選ぶなかで、パッケージにウキウキできたり、使い心地の良さを求めるのが、今の時代ならではの向き合い方なのかもしれません。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)