三笘薫はプレミアリーグが世界に誇るウイングだ。
一瞬にしてマーカーを無力にするドリブル、大胆、かつ繊細なボールタッチは、まさしく "銭が取れる" プレーヤーだ。
今シーズンはマンチェスター・シティのカイル・ウォーカー、リヴァプールのトレント=アレクサンダー・アーノルドといったイングランド代表DFを前後左右に揺さぶり、その実力をあらためて知らしめている。
当然、プレミアリーグの列強も興味津々だ。「来年1月に再開する移籍市場で獲得に動くのではないか?」との情報が飛び交いはじめ、三笘が所属するブライトンは移籍金を5500万ポンド(約99億円)に設定したという。
一般庶民にすれば天文学的な数値でも、プレミアリーグの列強なら支払える。特にシティはジョゼップ・グアルディオラ監督が「ブライトンはミトマをうまく使えていない。私なら彼の能力をさらに引き出せる」と語ったため、ひょっとするとひょっとするのだろうか。
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いや、あまりオススメできない。ケヴィン・デ・ブライネやアーリング・ハーランドといったワールドクラスのプレーヤーと、三笘がどのような化学反応を起こすかは気になるものの、シティには財務違反による嫌疑が115件もかかっている。下部リーグへの降格、タイトルの剥奪など、ペナルティは避けられそうもない。
新天地としては"ふてほど"だ。
チェルシーも同様である。上層部対選手、監督対スタッフなど、このクラブは内紛が絶えない。現在もトッド・ベーリーとベハダ・エグバリの両オーナーが補強方針をめぐって激しく対立。お互いの株を奪い合うスキャンダルが露呈している。
ジェイドン・サンチョ、ペドロ・ネト、ミハイロ・ムドリクと、左ウイングが決め手を欠いているとはいえ、チェルシーが常に妙な緊張感を漂わせるクラブであることに変わりはない。
【トッテナムなら年間15ゴールも?】
「レアル・ソシエダのタケフサ・クボ(久保建英)は、リバプールでモハメド・サラーの後継者になり得るのか」
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憶測の域を出ていないのか、具体的な動きがあるのか、ヒントすら聞こえてこない。今シーズン限りで満了を迎える現行の契約を、12月8日時点でサラーが更新していない事実も、「久保獲得か」の噂に拍車がかかる。
ただ、三笘という選択肢も考えられなくはない。右と左の違いはあるが、サラーと三笘は一瞬にしてマーカーに絶望感を味わわせる。ボールコントロールでは、日本が誇る左ウイングが上回るのではないか。ブライトンとリバプールのゲームプランが同系列であることも、三笘にとっては好都合だ。
唯一の気がかりは、リバプールのアルネ・スロット監督か。昨シーズンに比べると、遠藤航は出場機会が大幅に減少した。フェイエノールトを率いていた当時は、上田綺世を冷遇した。オランダ人の指揮官は、日本人選手のポテンシャルに疑念を抱いているのかもしれない。
トッテナム・ホットスパーのソン・フンミンは、12月8日現在で4ゴールしか挙げていない。現行の契約も今シーズン限りだ。ノースロンドンの名門に入団して10年。潮時を迎えつつあるのだろうか。
また、昨シーズンに大エースのハリー・ケインがバイエルンに移籍し、リシャルリソン、ティモ・ヴェルナーなどが周囲の期待に応えていないため、冬の市場ではアタッカー獲得が必須とさえ言われている。
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情報統制に長けているトッテナムは、誰にアタックしようとしているのか、誰をリストアップしているのか、小指の先ほども漏れてこない。ほかのクラブに比べると市場関連の情報が極めて少ないのは、こうした企業努力によるものだ。
しかし、ダニエル・レヴィ会長は常日頃からアジア市場の重要性を意識し、ソンをアンバサダーのような立ち位置に起用してきた。その韓国人ストライカーが、トッテナムに別れを告げる日が近づいてきているようにも感じられる。
その後任として、三笘に白羽の矢が立てられたとしても不思議ではない。2列目中央にパスセンスに秀でたジェームズ・マディソンが君臨する事実を踏まえると、三笘は年間10〜15ゴールが期待できる。
【左ウイングバックは深刻な人材難】
今、最も三笘がフィットするクラブはマンチェスター・ユナイテッドだ。11月11日に新ヘッドコーチ(HC)に就任したルベン・アモリムは3-4-3(3-4-2-1)の使い手であり、日本代表と同じ基本陣形である。
しかも、三笘が得意とする左ウイングバックは深刻な人材難だ。ディオゴ・ダロトはプレーが軽く、ファイナルサードで決定的な仕事が期待できない。心身の疲弊により昨シーズンを棒に振ったタイレル・マラシアは、前半なかばで大きく口を開き、肩で息をする始末だ。
また、レギュラー候補だったルーク・ショーは、ふくらはぎの故障を繰り返してばかりいる。サウサンプトンからユナイテッドに移籍して11年、年間を通じて戦力になったのはわずか4シーズンしかない。
ヌサイル・マズラウィ、リサンドロ・マルティネスも左ウイングバックに適応できるが、前者は3バックの右センターバック、後者は左センターバックが適任だ。
アモリムHCも「左サイドバック、あるいはウイングバックは必要」と語っているため、いくつかのメディアはフラムのアントニー・ロビンソン、ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズのラヤン・アイト=ヌーリ、ボーンマスのミロシュ・ケルケズなどを獲得候補に挙げていた。
ウイングタイプのアマド・ディアロが右ウイングバックに定着する公算は大きい。したがって、左サイドはバランスを維持するため、対人の守備に定評のあるロビンソン以下の3選手という観測だ。
ただ、プレミアリーグの過密日程を乗りきるためには、左サイドにも強力な武器が必要だ。ショーとダロトは前述したとおりで、アレハンドロ・ガルナチョは4-4-2、4-2-3-1の左ウイングが適性で、マーカス・ラッシュフォードはアモリムHCが求めるインテンシティをまったく理解していない、理解しようともしない。
【冬の移籍市場で100億円あれば...】
夏の市場に2億1450万ポンド(約434億7000万円)を投じ、エリク・テンハフ前HCの解任とアモリム新HCの契約金に計3000万ポンド(約54億円)を使ったユナイテッドが、財務規定に抵触する恐れから、冬の市場で巨額を捻りだすのは難しい。
ただ、アモリムHCが要求する機動力、プレーの継続性に欠けるハリー・マグワイア、ヴィクトル・リンデレフ、クリスティアン・エリクセン、カゼミーロ、ラッシュフォードなどを放出すれば、100億円は創れるに違いない。
三笘には「ブライトンの王様」という選択肢もあるが、ユナイテッドが左ウイングバックを求めていることは確実だ。
プレミアリーグの移籍市場は、毎シーズンのようにドラマが始まる。三笘とユナイテッドが突如としてクランクインしたとしても、不思議ではない。