GPファイナル女王アンバー・グレン(アメリカ) インタビュー 前編(全2回)
フランス・グルノーブルで開催されたフィギュアスケートのGPファイナル(12月5〜8日)で、初出場にして初優勝を遂げたアメリカのアンバー・グレン。今シーズンは、25歳にしてトリプルアクセルを武器に、国際大会で快進撃を続けている。武器となるトリプルアクセルや日本選手への思いを、単独インタビューで語った。
【初のGP優勝に現実感がない】
ーーGPファイナル優勝おめでとうございます。
アンバー・グレン(以下同) まだ現実感がないです。優勝した後は、アイスダンスや男子の応援をしていましたし、自分の周りに起きている状況を整理できていません。
ーーシニアに上がってから10年目となる今シーズン、ロンバルディア杯で国際大会初優勝。そこからGPシリーズのフランス杯、中国杯、GPファイナルと優勝し、大躍進のシーズンとなっています。
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そうなんです。13歳から国際大会に出場してきましたが、今25歳です。長い経験を積んで国際大会初優勝にたどり着いたのは、とても意味のあることでした。ずっと金メダルに憧れてきました。でも初優勝のロンバルディア杯はトロフィーだったんです(笑)。
ーー今シーズンの強さの武器になっているのが、トリプルアクセルです。ショートプログラムとフリーで入れていて、今シーズン4戦の8本のうち、6本を成功させています。
トリプルアクセルはプログラムの1本目のジャンプなので、気持ちさえしっかりしていれば、それほど難しくはありません。本番はアドレナリンが出ているので、精神的にも身体的にも、自信を持って跳べる状態にできています。今の私にとっては簡単なジャンプと言えますが、ここにたどり着くまでは本当に長い時間がかかりました。
【トリプルアクセルが最大の武器になるまで】
ーートリプルアクセルを習得するまでのことを教えてください。
私は、もともとジャンプは得意なほうでした。でもダブルアクセルはとても苦労して、2回転からダブルアクセルまで2年半かかったんです。とても苦労したからこそ、結果的にアクセルジャンプそのものが得意で、自分にとってこだわりのあるジャンプになりました。その後、パンデミックが起きて隔離生活になった時、自分のスケートを見つめ直す時間があり、何を成し遂げたいのか考え、そのうちのひとつがトリプルアクセルだったんです。
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ーーどうやって練習を始めたのでしょう?
コロナ禍ですべてのスケートリンクが閉鎖されていたので、陸上でたくさんジャンプの練習をしたんです。1日に1時間半のトレーニングを2回。もっと大きく、高く跳ぼうと、たくさん跳び続けました。それからリンクが開いたので氷上で練習したら、ほんの2〜3カ月で成功しました。2020年7月のことです。そこから試合で成功させるまでには、とても時間がかかりました。
ーー試合での初成功はいつでしょう?
2023年のスケートアメリカです。3回転ルッツの初成功が11歳で、トリプルアクセルの初成功が23歳。信じれれませんよね。長い間、挑戦し続けることで、人生って何が起こるかわからないということ。夢を達成できて本当にうれしかったです。試合での初成功以降は、それほど怖くなく、安定して跳べています。
ーーアンバーさんのトリプルアクセルはとても高さがあり、質の高いものです。
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いつも大きく跳ぶことを心がけています。参考にしたのは、エリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)のトリプルアクセルです。正確な滞空時間を割り出したところ、彼女は0.64秒でした。私のダブルアクセルの滞空時間は0.62秒だったので、オフアイスでのジャンプトレーニングで筋力をつけることに集中しました。その結果、高さとパワーのあるトリプルアクセルにつながったと思います。
【日本選手たちとの思い出】
ーー今回のGPファイナル女子シングルは、6人中5人が日本選手でした。この状況はいかがでしたか?
まるで全日本選手権だと、皆さんが言っていましたね。国際大会で日本選手はいつも礼儀正しくて、親切で、一緒に試合に出るのが楽しみなんです。皆さん経験豊富なので、ホテルから会場への移動や、何時間前に会場入りするかなど、試合運びがプロフェッショナル。日本チームについていけば安心、と思っています(笑)。全日本選手権はもっと大変な戦いになりますね。世界選手権の出場枠がもっとあったらいいのに、と思います。
ーーこれまで10年のシニアでの大会で、日本選手との思い出はありますか?
たくさんありますよ! 一番の思い出は、数年前の試合で、(坂本)花織が『SPY×FAMILY』の登場人物のステッカーをくれたことです。ふたりともそのアニメを観ているので、その話で盛り上がったんです。私にとっては憧れのスケーターなので、「あのカオリ・サカモトと話をして、プレゼントまでもらっちゃった!」と興奮しました。
ーー日本選手とは交流が深いのですね。
いえいえ、私にとって日本の女子選手は、遠い憧れの存在です。2014年世界選手権の(樋口)新葉の『スカイフォール』が大好きで、何度も何度も観ました。本当にすごかったです。翌シーズンのフリーで、私も使ったくらいです。そして2018年北京五輪の新葉の『ライオンキング』も感動しましたし、トリプルアクセルに大きな刺激を受けました。北京五輪は花織のフリー『WOMAN』は本当に迫力があって、圧倒されました。そんな選手たちと、今こうして一緒の試合に出ていることが夢のようです。
ーーそれでは全米選手権、世界選手権に向けての目標をお願いします。
今回のGPファイナルでは、氷に降りた瞬間、大きな声で自分にこう言い聞かせました。「あなたは、この舞台にいる。自分の力でここまできたんだ。やるんだ」と。今回は、緊張やプレッシャーのなか、パーフェクトな演技ではありませんでした。演技というよりは、技術をただ並べていっただけ、という感覚。なので、全米選手権、世界選手権に向けては、1つのパッケージとしての演技になるように、もっと中身を改善していきたいと思います。最高の気分で氷に乗りたいと思います。
つづく
【プロフィール】
アンバー・グレン Amber Glenn
1999年、アメリカ・テキサス州生まれ。14歳から国際大会に出場し、2014年全米ジュニア選手権で優勝。シニア移行後は、代表に入れない時期もあったが、2023−2024シーズンのエスポー杯3位でGPシリーズ初表彰台。2024−2025シーズンは、ロンバルディア杯で国際大会初優勝を飾り、GPシリーズのフランス杯、中国杯、GPファイナルとすべて優勝。