【写真】演者×本人のそっくり2ショットも “Wタモンズ”インタビューカット
■気づかぬうちに“ご本人憑依”!? 超こだわりの役作り
――タモンズのお2人は映画を見られていかがでしたか?
大波:母が和田さんの大ファンで。だからまず「なんで!?」って言われて。(本作は)自分の話なんですが、ちょっと和田さんがかっこよすぎて、意外に俯瞰(ふかん)で見れたというか。
――別の人の人生のような?
大波:そうなんです。でも駒木根さんは安部そっくりやった。
安部:客観的には見れなかった(笑)。
――駒木根さん、タモンズを演じる“ポイント”はどんなところでしたか?
駒木根:僕は、安部さんの喋り方などを動画で見させていただいたんですけど、現場に入ってからはそんなに気にしないようにしていました。でもアフレコの時に、定期的になんか後ろで変な音……声みたいなものがちょこちょこ入ってるって言われて。なんだろうって(録音を)聞いたら、僕がずっとちっちゃい高い声で「ん〜」とか「お〜」とか言ってて(笑)。
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安部:確かに僕も漫才してる時に、相づちが邪魔って相方に言われたんです。変な「お?(高音)」とか「え〜?」とか言うてるのが、なんか気になっちゃうって。それを見ていただけてたと。
駒木根:でも、あんまり自覚的じゃなかったんで……。
安部:じゃあ、(安部役に)入ってくれてたってことだ。すごい。
――和田さんはどうでしたか?
和田:僕はまず、大波さんのプライベートの服装にすごくこだわりました。最初に用意されたのが全っ然違ったんです! (服は)こういう感じですってちゃんと伝えて、衣装合わせを2日かけてやって、アメカジ系の衣装になりました。劇中では、大波さんがプライベートでも履かれてるスニーカーも履いてました。
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和田:役を作っていくとき、自分と全く別人になるわけなので衣装の力って大きいと思っていて。衣装を着た時にスイッチが入ります。なので、その要素はこだわらせてもらったのと、あと大波さんが漫才の時に手を組んでいるんですけど、僕は手を組むとき右手を上にするんですが、大波さんは左が上なので、すごく意識していました。
大波:うわ、確かにそうです。
和田:あと大波さんってライブで登場する時とか、「(両手を振りながらニコニコしつつ)ワ〜!」とかやらへんなと……。一見、ちょっと機嫌悪そうな感じで入っていくんです(笑)。
大波:ああ……ダサいっすねぇ(笑)。
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――今回、漫才をされるシーンもありましたがどんな練習をしたのでしょうか?
和田:うちにカラオケ用のスタンドマイクがあったので、それをサンパチマイクがわりにして……。
駒木根:完全に自主練で。撮影が始まる前の準備期間に2人で連絡を取って。
和田:この映画、吉本興業さんが作られてるんですけど、なんか……投げっぱなしなんやなって(笑)。
安部:ほんま弊社がすんません!(笑)
和田:こうやって皆さん鍛えられていくんだなって僕らも疑似体験させていただきました。普通、(タモンズと)1回会う機会を作ってくれて、ちょっとアドバイスとかあるかなと思ったら、もう全く無かったんです(笑)。
駒木根:だから、今回大宮セブンを演じたみんなの自主性はすごいですよ!
――大宮セブン役のみなさん、全員再現度がすごかったので、それぞれご本人とお話されていたのかと……。
和田:多分ですけど、ご本人とお話してるのは僕らだけですね(笑)。
駒木根:逆に良かったかもしれないですから(笑)。
和田:プレッシャー感じすぎてしまいそうですからね。
――タモンズさんは本作について大宮セブンの皆さんとお話はされましたか?
大波:しましたしました。
安部:やっぱりみんな大宮に詳しいから、なんか変なとこが気になってました。駒木根さんが路地をバーッて走っていったら急にさいたま新都心に出たりするから、それは違うだろ! みたいな。
大波:和田さんと(囲碁将棋の)文田(大介)さん役の方(=東虎之丞)は良いシーンがあるんですよ。大波がへこんでて、文田さんが励ますっていう。あのシーン、大栄橋っていう橋を上っていくんですけど、あの向こう風俗街なんですよ。あんなええこと言ってたのに、文田さんは風俗街に行っているっていう。
和田:あの後大人のお店に行ってたんや(笑)。
■お笑いと演技、それぞれの目線で語るリアル
――本作のなかでは、コンビの“アツい”シーンもたくさん登場しました。あれはズバリ実話なんでしょうか?
大波:そうですね、実話……ってことにしといてください。
安部:よくやってますよ? さいたま新都心で奇声を発しながら、道路挟んで漫才するとか(笑)。
大波:でも、仲間の感じは近いですね。このメンバーがいなかったらもう(お笑いを)やってない可能性が高いです。みんなそれぞれ、仲悪くなった時には間に誰かがそっと入ってくれて、みたいな関係ではあります。
安部:リアルなことを言うと、タモンズ2人を仲裁して、僕らを引き戻してくれたのは映画で描かれた通り(囲碁将棋の)根建(太一)さんやった。囲碁将棋さんは僕らに1番近い兄さんやったんで、僕らの関係性にぐいっと入ってきてくれる先輩。で、他の皆さんは温かく周りで見守ってくれる。その感じをすごく忠実に再現してますね。
――今回、“芸人界”を演技で疑似体験されたお2人にお聞きします。芸人と俳優というのは似ているものだと思いましたか? それとも全然違いましたか?
和田:全然違いますね。やっぱりお笑い芸人さんたちって、全てが“自分たち”なんです。ネタを考えるのも、演じるのも、笑いを取ってるのも全て自分たちだけ。そのかっこよさというか、責任を全部自分で背負いながらやってる感じ、すごいなと思います。我々はあくまで、みんなでひとつのものを作っています。だから、僕たち1人が何かを背負うっていうことはあまりないんですよね。そういう意味では、逃げ道はたくさんあって。だからもしかしたらこの仕事に対して人生をかけている覚悟は、役者よりも芸人さんたちの方が強いんじゃないかなっていうのは感じましたね。
駒木根:ほんとそう思います。“一国一城の主”感ありますよね。この映画の中でも出てきますが、自分たちが本当に面白いと思っているものと、大衆性とのバランスって必ずあると思うんです。でも、例えば観客が100人いて、その平均値を狙わなくてもいい、1人が笑ってくれればいい、という価値観は、芸人さんにとって自由で。それが、時代とどうぶつかるかというのは別として。俳優はどこまでいっても客観的っていうか、例えば自分が本当に良いと思ってるものが誰か1人にしかわからないっていうのは、俳優としての在り方としては違うような感じもする。
和田:うん、多分(仕事に)呼んでもらえなさそう。
■頑張れ、中年おじさん! 4人が熱い思いを語る
――タモンズさんは以前YouTubeで、年齢を重ねるとともに漫才がウケるようになってきたというお話をされていました。本作はそういった意識が生まれる“前”のお話になるのでしょうか?
安部:映画でやってたネタって、ほんまに2年目とかのなんです……。
大波:あのネタは、駒木根さんがさっき言ってくれた1人(にウケるネタ)じゃなくて、もう0。目の前の人間(=観客)というか、舞台袖の芸人の笑い声だけでいいって思ってたんで、もうプロじゃない。でも、年齢とともに生活もしていかなあかんなって。やっぱりお客さん笑わさなって……大人になりました。
安部:8年目ぐらいまであんなネタばっかや。大波はそういうちょっと鋭利なネタの方が好きやけど、僕はちゃんとウケたい人やから、コンビの間でも違う。だからもう、正解を目の前のお客さんにするしかないっていうか、笑かしたらそれが正解やっていう。
大波:当時ルミネ(=吉本の劇場「ルミネtheよしもと」)を見に行っても、笑い飯さんや千鳥さん、ウケてないんです。本当に尖りすぎてウケてないけど、袖が笑ってて、「カッケー……!」って。まあ若かった(笑)。
安部:この映画は、そんな大波が無理して僕に合わせて、ストレス溜まりまくってた時期を描いてるんです。
――では最後に、これを見た方にどんなことを感じてほしいですか?
大波:僕はこの映画を見て、才能がそんなになくても、仲間がいたらなんとかやれるのかなっていうのは思いました。何かを頑張る人は周りの人に優しくして、良い仲間を得られたらいいんじゃないかなっていうのを感じられる映画になっていると思います。
和田:俺、この映画見て改めて、出てる役者が全員中年のおじさんばっかりやなと思って(笑)。マジでこの映画見て、みなさん、世の中の中年のおじさんに優しくしてあげてください。もちろん我々役者と芸人さんたちもそうですけど、世の中のおじさんたちを本当に応援してほしいです。これまでの日本を支えてきた、今まさに日本を支えているおじさんたちに、ぜひ頑張れと一言声をかけてください。そんな映画です。
駒木根:この映画は話だけを単純に追いかけると、何もうまくいってないっていうか、決してサクセスストーリーではない。でも、どういう過程を経て現在にいきつくのかというのがとっても大事なんだなっていうのを、誠実に描いている映画ではあると思います。渦中にいるときは気づかないこともありますけど、僕は非効率的なことが好きなので、何か非効率的なことを目指してる方には、すごく共感できる部分がある作品だと思う。いろんな人に見てもらいたいですね。
安部:(劇中の)昔のネタは尖っちゃってて……だいぶモーニング娘。さんの悪口言ってましたね、なんか(笑)。若気の至りということで勘弁していただきたい、と言っておきたいですね。
(取材・文:小島萌寧 撮影:上野留加)
映画『くすぶりの狂騒曲』は公開中。タモンズ単独ライブ『DEADSTOCK』が1月22日に座・高円寺2にて開催される。