東京都の都心の港区にある、鶏の唐揚げをメインとする居酒屋が「食べ放題トラップ」だとして一部で話題を呼んでいる。ランチタイムに店舗外に置かれた看板には計7種類のセットメニュー(全品1100円/税込)の写真とともに「唐揚げ食べ放題」という大きな文字が躍っているが、実際には食べ放題の対象は「デカ盛り唐揚げ丼」のみで、時間制限が30分、ラストオーダーは終了5分前(最大3個まで)という制約があり、店内に入ってメニュー表をみるまで、それが分からない形になっているという。加えて店内は全席喫煙が可能なため、SNS上では「もう2度と来ない」「悪質」「ほとんど詐欺」とさまざまな反応が寄せられている。飲食業界のルール・常識に照らし合わせると、悪質といえるのか。また、なぜこのようなお客に誤解を与えかねない運営を行っているのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
今回“話題”となっている居酒屋は、港区のとある地下鉄駅から徒歩数分の場所に位置する店。全国各地の唐揚げを食べ歩いたという店主がつくる鶏の唐揚げがウリで、秘伝のタレに付け込み数日寝かせた鶏肉を使用しているが、夜の時間帯はこの唐揚げがなんと110円で食べ放題となっている。このほかのメニューとしては、枝豆(649円)、冷やしトマト(649円)、餃子(979円)、肉じゃが(979円)、たまご焼き(869円)、醤油ラーメン(979円)、ビール(660円)などが並んでおり、メニュー構成としては、ごく一般的な居酒屋といえるだろう。
ちなみに唐揚げ食べ放題は1ドリンク1オーダー以上の注文が条件となっており、ドリンクが空の状態でのお替わりは不可。味変が楽しめる計6種のオプションソース(各110円)もある。夜のコースは3280〜5980円の計4種で、すべて唐揚げ食べ放題と飲み放題がついているのが特徴だ。
そんな同店をめぐって話題となっているのが、昼のランチメニューだ。その理由は前述のとおりだが、店舗外の看板をみて7種類のセットメニューすべてが唐揚げ食べ放題だと勘違いして店内に入るお客がいても、おかしくはない。12月のある日のランチタイムにこの店を利用した30代男性はいう。
「外の看板に『唐揚げ食べ放題』と書かれているのをみて店内に入り、その看板に載っていた定食を注文して唐揚げ食べ放題の追加を店員に伝えたところ、申し訳なさそうな様子もなく『食べ放題対象外です』と言われました。驚いて『食べ放題じゃないのですか?』と聞いたところ、『はい』と言われただけでした。食べ放題だと思って店に入ったので、少し残念でした」
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このようなお客の誘導策は、飲食店では許容範囲とみなされるのか。外食チェーン関係者はいう。
「許容範囲とはいえず、批判されても仕方ないレベルといえます。とはいえ、チェーン店ではなく個人経営に近い形態の店のようなので、以前はすべてのランチメニューで唐揚げ食べ放題にしていたが諸般の事情で現在は一部のみに限定するようになり、外の看板が変わらずにそのままになっているだけで、特段に悪意があるわけではない可能性もあるので、あまり強く批判されるのもかわいそうな気もします。
『デカ盛り唐揚げ丼』は写真をみる限り、大ぶりの唐揚げが10個近く乗っており、このボリュームで1100円というのは、それだけで十分にオトクといえ、無理に食べ放題サービスをつけることで不必要に批判を招いてしまっている感もあり、非常にもったいない気がします。ランチに関していえば、いさぎよく食べ放題をやめて、すみやかに外の看板も修正したほうがよいでしょう」
もっとも、SNS上では批判的な声があがる一方、以下のように過去に利用したことがある人のものとみられる擁護的な声も散見されるのも事実だ。
「いつも目一杯食べられるけどなー」
「注文してから割とすぐ着丼するけど、絶対もっとオカワリしたいって気持ちにならないくらい腹一杯になるから。俺はここの唐揚げ普通に好き」
「夜は100円で食べ放題。最高の居酒屋」
今回の騒動を抜きにすれば、この居酒屋は経営的にはポテンシャルが高いのではないかと外食チェーン関係者はいう。
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「夜時間帯の唐揚げ食べ放題以外のメニューをみてみると、特にクオリティやオリジナリティに力を入れている様子は感じられず『とりあえずオーソドックスな居酒屋メニューをかたちだけ揃えました』という印象で、かつ価格は総じて少し高めです。なので、ほぼ唐揚げ一本で勝負している店といってよいと思いますが、それは飲食店の経営戦略としては決して間違っているわけではなく、店の特徴の打ち出し方としては一つの方法ともいえます。東京都では受動喫煙防止条例により原則として飲食店は禁煙というルールになっているため、全席喫煙可というのは今の世間の常識に照らし合わせるとどうなのかという問題はあるものの、基本的にはお客は喫煙者に限られ、喫煙ができるという理由で来るお客が大半でしょうから、公共の場で喫煙できる場が少なくなっているなかで、店が自らの責任で喫煙可というスタイルを取るというのは、集客策の一つとして100%否定されるべきではないでしょう。
とにかく安い価格で美味しい唐揚げをお腹いっぱい食べられて、お酒も飲めて喫煙もできるということをメリットと感じるお客が多数来店することで経営が成り立っているのだとすれば、飲食店の経営としては一つの解ともいえますし、会社勤めの人が多いエリアという立地を重視した方針ともいえるでしょう」
当サイトは2023年6月24日付記事『焼肉の食べ放題、3千円台&100種類でも店側は利益が出る収益構造…材料費率30%』で、食べ放題メニューは店側が適正な水準の利益を得られる形態である理由を解説していたが、以下に再掲載する。
※以下、数字・時間表記・固有名詞等は掲載当時のまま
――以下、再掲載――
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数千円でバラエティに富んだメニューを好きなだけ食べることができる焼肉チェーンの食べ放題コース。食べ盛りの子どもがいるファミリー層などにとっては、ありがたい存在だが、ユーザー側に大きなメリットがあるということは、裏を返せば店側は損を被っているのではないか。そんな考えが頭をよぎるが、実は店側もちゃんと利益を確保できているケースが多いようだ。では、なぜ低価格で豊富なメニューを揃えても利益を出せているのか。そのカラクリについて探ってみたい。
焼肉チェーン各社は食べ放題メニューを重要な集客のアイテムに据えている。たとえば、全国に約300店舗を展開する「焼肉きんぐ」は、100分食べ放題の「きんぐコース」(3498円/税込、以下同)、「プレミアムコース」(4378円)、「58品コース」(3058円)を提供。「きんぐコース」には、「焼肉きんぐ 四大名物(東)」の「ハラミステーキ」「壺漬け一本ロース」「きんぐカルビ」「炙りすき焼カルビ」などのほか、牛・豚・鶏の精肉やホルモン類はもちろんのこと、海鮮類やホイル焼き、キムチ類や「鶏唐揚げ」「ひとくちニラチヂミ」「カリッとろたこ焼」「焼肉屋さんの厚切りハムカツ」といった一品料理、サラダ類、スープ類、冷麺、「石焼ビビンバ」や「旨辛カルビクッパ」など100品以上が揃えられている。
全国に約600店を展開する「牛角」は、「70品食べ放題コース」(3498円)、「牛角90品食べ放題コース」(3938円)、「堪能100品食べ放題コース」(5368円)を提供。「90品食べ放題コース」では、同店自慢の「牛角旨カルビ」「熟成王様カルビ」「ねぎ塩豚カルビ」に加え、「たっぷりお野菜のミニビビンバ」や子供向けの「キッズカレープレート」、「抹茶アイス」や「杏仁豆富 いちごソース」「カットパイナップル」といったスイーツも揃えられている(デザートはいずれか1品)。
約150店舗を展開する「安楽亭」は、「パワー焼肉コース」(3498円)、「大満足安楽亭コース」(4378円)、「極ゴージャスコース」(8778円)などを提供。「パワー焼肉コース」には、「バーベキューカレーカルビ」「焼きしゃぶカルビ」「特製タッカルビ」のほか、サラダ各種や「ビビンバ」「ナムル盛合わせ」「雪見だいふく」などが揃えられ、さらにソフトドリンク飲み放題もついている。
そんな大盤振る舞いの各チェーンの食べ放題コースだが、気になるのは「きちんと採算が取れているのか」という点だ。食べ放題コースのみをみれば赤字だが、集客のアイテムに据えることで店側にとってはトータルで収益拡大につながるため提供しているという可能性も考えられるが、カラクリはどうなっているのか。外食チェーン関係者は言う。
「収益構造は各チェーンによってまちまちなので一概にはいえないが、チェーン企業は仕入れる量が大量で、かつ特定の業者から安定的に継続して購入するので、一般の人々が想像する以上に低い金額で仕入れている。また、食べ放題とはいっても一人当たりが食べる量には限界があり、たとえば子ども2人と両親の家族4人分を注文したとして、コスパ的なお得感を感じる割には一人当たりに平均すると『それほど食べていない』という例も少なくない。
ただ、食べ放題コースだけ見れば、やはり店側にとってはそれほど利幅は大きくないだろう。実は食べ放題を選ぶ客でも、それだけを注文するという客は少ない。特にアルコール類などのドリンクは利幅が大きめで、客も『食べ放題で得しているからドリンクは多めに注文しても平気』というかたちでドリンクに対して財布の紐が緩みやすく、そこで一定程度稼いでいる面はあるだろう」
自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に聞いた。
低価格で食べ放題を提供できる理由としては、大手チェーン店の仕入れ力=大量発注で安く仕入れていることや、セルフサービス的な要素をオペレーションに組み込むことによる人件費低下があげられます。人が一度に食べられる量はある程度決まっています。みなさんが普段食べているランチは平均すると1食350〜400gくらいで、ハンバーグやステーキのようなメインになるおかずは150〜200gの場合が多く、それに1人前0.5合=炊き上がり約165gのお米や添え物・小鉢、汁物の具材を加えると350〜400gになります。パスタの場合も1人前100gの乾麺を茹でて、約2.5倍の重さ250gになり、それに具材やソースが絡んで、やはり350〜400gくらいとなります。
ビュッフェに行くと、せっかくだからとお皿にいっぱい、いろいろなものを乗せたくなりますよね。それをお替りすると、たいがいの人は満腹となります。これでボリュームとしては700g前後ではないでしょうか。ランチ2食分を食べれば、お腹はパンパンです。それ以上食べられる人もいるでしょうし、そんなに食べられない人もいるでしょうが、一般的にランチ2食分を食べれば充分に満足できます。
では、税込3300円の焼肉食べ放題コースで考えてみます。飲食店の材料費率は30%くらいであり、3000円の3分の1、約1000円以内に材料費を抑えられれば、お店の収益構造上、問題はありません。つまり、人が一食当たりに食べられる量=700g分を1000円の材料費で用意すればいいわけです。100g当たり約143円ですが、スーパーでは肉や野菜がその金額以下で売られていますが、焼肉屋のメインである牛肉は100gを143円で調達するのは難しいです。牛バラ、ひき肉、切り落としなどはそれ以下で買えるかもしれませんが、それだけだと品揃えは寂しくなります。そこで100g143円以下で仕入れられるメニューを豊富にいろいろと用意して、浮いた分で牛肉の高い部位を調達します。
人は同じものを食べ続けるよりも、いろいろなものを食べる傾向があります。それは回転寿司でも焼肉でも同じです。種類・品数が多くなり、高い牛肉以外を注文するお客が増えれば、材料費は仕入れ価格全体の平均に近くなります。逆に「元をとってやろう」と考えて牛肉の高い部位のみを食べれば、お得にはなりますが、そういうお客は少ないでしょう。なので、お客が無理なく好きなものをいろいろと食べているうちに、お店にとって採算が取れるようになってきます。
(文=Business Journal編集部)
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