長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価し、ベスト5のドライバーを選出した。今回はアブダビGPの週末を振り返る。
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ヤス・マリーナ・サーキットは、ドライバーにとって、世界で最もテクニカルで困難なサーキットというわけではない。しかし、セクター1の高速コーナー、セクター2のヘビーブレーキング、セクター3の連続する低速コーナーが組み合わさることで、正しいリズムに乗ることが、難しくなっている。
F1史上最長シーズンにおける最後のグランプリだけに、全員が残るエネルギーをすべて振り絞って、最大のパフォーマンスを発揮しようとした。そのなかで完璧なパフォーマンスを見せたのは3人。そのうちひとりは、予選で自分ではどうすることもできない難局に直面しながら、最後までベストを尽くした。
【2024年F1第24戦アブダビGP ベスト5ドライバー】
■評価 10/10:プレッシャーに負けずチームにタイトルをもたらしたノリス
ランド・ノリス(マクラーレン):予選1番手/決勝1位
ランド・ノリス(マクラーレン)は週末を支配した。予選で驚異的な速さを見せ、レースではスタートからフィニッシュまでリードした。ターン1でオスカー・ピアストリがアクシデントに遭って後退した後、マクラーレンのタイトル獲得の責任がすべてノリスの肩にかかった。しかし彼は一切ミスをせず、着実にカルロス・サインツとの差を広げ、チャンピオンのような走りを披露し、チームに26年ぶりのコンストラクターズタイトルをもたらした。
■評価 10/10:唯一マクラーレンに戦いを挑めたサインツ
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選3番手/決勝2位
カルロス・サインツ(フェラーリ)は、スクーデリアでの最後のレースで、チームにタイトルをもたらすため、できる限りのことをした。しかし彼のマシンには、ノリスを打ち負かす力はなかった。サインツは週末を通してマクラーレンに対抗できた唯一の存在だった。決勝スタート時、マックス・フェルスタッペンの後ろに下がってしまったのは小さなミスだったが、それが逆にサインツにとっては幸運をもたらした。フェルスタッペンがピアストリに突っ込み、ふたりがいなくなったため、結局サインツは余裕で2番手を維持することができたのだ。
ハードタイヤでの素晴らしいアウトラップにより、サインツはノリスを打ち負かせるかもしれないという希望の光を見せたが、マクラーレンはハードでもより速かったため、サインツにはどうすることもできなかった。
■評価 10/10:不運にもくじけず、完璧なレースをしたハミルトン
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選18番手/決勝4位
アブダビを非常に得意としているルイス・ハミルトン(メルセデス)は、この週末、自身の実力をいかんなく発揮した。週末の初めからジョージ・ラッセルより明らかに速く、12シーズンにわたり共に戦ったチームとの最後のグランプリで良い結果を出すという目標を持っていたが、彼の希望は予選Q1で崩された。チームが最後のアタックでコースに送り出すのが遅すぎて、ハミルトンは渋滞のなかを走らざるを得ず、しかも最後の3つのコーナーを前に、緩んだボラードが飛んできて、車体の下に引っ掛かるという事件まで重なったのだ。そのため、彼は予選Q1で楽にトップ5に入れたはずが、早々に脱落という結果になった。
しかし、後方スタートになったにもかかわらず、ハミルトンは、久しぶりに非常に強いモチベーションを見せ、見事なレースを展開し、順位を上げていき、最終ラップでラッセルを抜いて4位をつかみ、完璧な走りでメルセデスでの最後のレースを終えた。
■評価 9/10:孤軍奮闘、ハースに勝利したガスリー
ピエール・ガスリー(アルピーヌ):予選6番手/決勝7位
シーズン終盤、マシンが改善してからのピエール・ガスリー(アルピーヌ)は、注目を集めたF1デビューのころを思わせる才能を示している。アルピーヌのランキング6位争いにおいてハース2台と戦ううえで、ルーキーのチームメイト、ジャック・ドゥーハンに頼ることはできないと知っていたガスリーは、自分自身のパフォーマンスを新たなレベルに引き上げてみせた。
グリッド5番手からスタートしたファーストスティントでは、ラッセルを抑え続けることに成功。しかしニコ・ヒュルケンベルグをカバーするために早いタイミングでピットストップを行った。彼らの目標は、ハースを打ち負かすことのみだったのだ。その早めのピットインによってフェルスタッペンの後ろに下がってしまったガスリーだが、最終的に7位を獲得、アルピーヌのコンストラクターズ選手権6位を確定させるとともに、ドライバーズ選手権ではヒュルケンベルグに勝って10位を獲得した。
■評価 8/10:最後まで諦めず、ベストを尽くしたルクレール
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選14番手/決勝3位
フェラーリがタイトルを獲得するためには、完璧な週末を送らなければならないと知っていたシャルル・ルクレール(フェラーリ)は、全力を尽くした。FP1は半分しか走れず、PU交換によりグリッドペナルティを受けるため、最高の位置は11番グリッドであり、それを目指していた。しかしルクレールはQ2で小さなミスを犯し、ベストラップが抹消され、19番グリッドからのスタートになってしまった。ほんの小さなミスだったが、非常に大きな結果を招いたことになる。
しかしルクレールは決勝最初のラップで11番手まで上がり、常に攻撃的な走りを続けた結果、全員がタイヤ交換を終えた段階で表彰台圏内に入ることに成功した。その後の課題は、ハードタイヤを最後まで持たせつつ、ラッセルからの攻撃をかわすことであり、ルクレールはその仕事を彼らしい素晴らしいパフォーマンスでやり遂げた。
【ベスト6以下のドライバーとその戦い】
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース):予選4番手/決勝8位
=評価 8/10:ハースをコンストラクターズ選手権6位に導くために全力を尽くした。予選Q3では実力で4番手タイムを記録。その後、規則違反により降格ペナルティを受けたが、全体的に素晴らしいパフォーマンスを見せた。
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン):予選8番手/決勝9位
=評価 8/10:アストンマーティンのためにひとりで戦い続けた。予選ではQ3進出を果たし、決勝では2ポイントを獲得。非常に悔しいシーズンを締めくくった。
オスカー・ピアストリ(マクラーレン):予選2番手/決勝10位
=評価 7/10:予選ではノリスにかなわず、0.2秒以上遅れを取った。さらに決勝スタート時には、フェルスタッペンのミスにより、無実の被害者となり、後退。最終的に10位まで挽回したが、もしノリスが優勝していなかったなら、マクラーレンはタイトルを逃がしていたかもしれない。
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選7番手/決勝5位
=評価 7/10:週末を通してハミルトンにかなわなかったが、5位フィニッシュという堅実な仕事をした。ただ、16番手からスタートして4位をつかんだチームメイトのパフォーマンスを見て、ラッセルのプライドは傷ついたかもしれない。
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選5番手/決勝7位
=評価 6/10:この週末は絶好調とはいえなかった。Q3最初のラップの終盤で大きく体勢を崩したが、なんとか切り抜けた。しかし最後のアタックではペースが落ち、ヒュルケンベルグの後ろ5番手に終わった。決勝ではターン1で無謀な動きをしてピアストリとの接触を招き、当然のペナルティを受けた。その結果、単独走行で6位フィニッシュという結果で、シーズンを締めくくった。
バルテリ・ボッタス(キック・ザウバー):予選9番手/決勝リタイア
=評価 6/10:予選で見事な走りを見せてQ3進出を果たしたが、決勝オープニングラップでペレスと接触。その後、ケビン・マグヌッセンとも当たり、ザウバーでの最後のレースを早々に終えた。
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選16番手/決勝11位
=評価 6/10:週末を通してマシンに速さがなかったが、チームのタイヤ戦略を生かし、粘りの走りで10番手を走行。しかし最後にポイント圏外に後退した。
角田裕毅(RB):予選11番手/決勝12位
=評価 6/10:予選でチームメイトに勝ったものの、スタート時の問題により、ポイント獲得のチャンスを失った。
リアム・ローソン(RB):予選12番手/決勝リタイア(17位完走扱い)
=評価 6/10:予選で角田に勝つことはできなかったが、安定した走りを見せた。しかしピットでのチームのミスにより、10番手争いのチャンスを逃した。
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選15番手/決勝16位
=評価 6/10:予選ではヒュルケンベルグにおよばなかったが、決勝1周目の走りは素晴らしかった。しかしスローストップとボッタスから接触されたことにより、好成績を収めることはできなかった。
ジャック・ドゥーハン(アルピーヌ):予選20番手/決勝15位
=評価 5/10:デビュー戦でミスなく走った。安定したレースを展開し、いくつかのバトルにおいて激しくもフェアな戦いぶりを見せたが、大きな印象を残すことはできなかった。
周冠宇(キック・ザウバー):予選17番手/決勝13位
=評価 5/10:ボッタスと同じレベルに達することが一度もないまま、静かにF1から去って行った。
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選13番手/決勝14位
=評価 5/10:いつもどおりの彼のパフォーマンスだった。アロンソより遅く、トラックリミット違反を繰り返した。今回、トラックリミット違反でペナルティを受けたのはストロールだけだった。
フランコ・コラピント(ウイリアムズ):予選19番手/決勝リタイア
=評価 3/10:FP2では不要なコースオフによりマシンのフロアを破損し、残りの週末を修復したフロアで戦う羽目になった。
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選10番手/決勝リタイア
=評価 2/10:なんとかQ3進出を果たしたものの、オープニングラップでボッタスに向けてドアを閉めた際に接触事故が起きた。それにより、自分のレースを早々に終えなければならず、もしかするとレッドブルでのキャリア、そしてF1キャリアそのものがこれで終わったことになるかもしれない。