高校時代、「雷門女子ゴールデンドラゴンズ」という名のソフトボール部で仲の良かった少女たちには、それぞれなりの夢があった。ピッチャーの明智乱(あけちらん)は「大きいダイヤの指輪とお嫁さん」、お嬢様でキャッチャーの湯川ケイは「世界征服♡」、そして頼れるショートの旭日(あさひ)ほむらは、「探偵事務所の設立」を夢見ていた。
そんな3人の物語は10年後、OLとして働く乱の結婚が破談になったことで動き出す。彼女の夢が叶いかけていたある日のこと。帰宅した乱が目にしたのは、別れを告げる彼からの置手紙だった。ショックのあまり酒へと走った乱は、涙ながらにSNSへ「死にたい」と書き込む。直後、彼女のSOSを受け取ったほむらから乱へと電話が入り──。
長じてからも息の合った3人の掛け合いは常に楽しく、おかげでこちらの感情はずっと忙しい。笑っては何度も頷き、少し泣いて、また笑う。彼女たちの人生にとって、起きている出来事はどれも立派な一大事。悲しみも悔しさもちゃんとある。にもかかわらず、ふしぎと湿った雰囲気が漂うことはなく、怒涛の展開と勢いのある人物描写が心地よい。
それは著者の出世作『ゴゴゴゴーゴーゴースト』(KADOKAWA)から引き継がれた持ち味かもしれない。タイトルが印象的な前作は、男に騙され不倫の慰謝料を払う羽目になったOLが、ひょんなことから自称・守護霊のオネエなゴーストに出会ったことで、世の理不尽に恨みを晴らしていくコメディだった。著者ならではのテンポとキャラクター造形は本作でも健在で、さらにパワーアップしている感すらある。
さて、専業主婦ながらマイペースに生きるケイも駆け付け、居酒屋で集合した3人は、自分たちの夢が叶わなかった現実と向き合う。そのさなか、元彼が別の女性と結婚しようとしていることに気がついた乱は、二股に憤りながらも、せめてダイヤの婚約指輪を取り戻したいとほむらに泣きつく。探偵にはなったものの、自らの事情で事務所の設立を諦めかけていたほむらにとって、それは「最後の依頼」とも呼べるものだった。
そうして始まる人生の逆転劇は、彼女たちの過去や高校時代に交わした会話の思い出へとつながり、その後の新生活のきっかけにもなっていく。このあたりの構成が実に巧みで、心憎い。なにより、互いを尊重しながら時にツッコみ、それでも信頼し合う3人の関係性がたまらない。夢を夢のままにしない彼女たちのこれからを、外野席から見続けたい。
(田中香織)
『さよならダイヤモンド (1) (ビッグコミックス)』
著者:蛭塚 都
出版社:小学館
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