秋クールのドラマがいよいよ佳境に入っています。名作揃いの今クールで、熱演が印象的だった5人の俳優たちをご紹介します。
◆小林虎之介/『宙わたる教室』
第1話から驚かされたのが、ドラマ10『宙(そら)わたる教室』(NHK総合ほか)に登場した、小林虎之介です。2021年に俳優デビュー、昨年のTBS日曜劇場『下剋上球児』で野球部員を演じて注目を集め、今年は何作品ものドラマに出演しています。
本作は定時制高校を舞台に、理科教師・藤竹(窪田正孝)と、さまざまな事情を抱える生徒たちが“科学部”を立ち上げて、挑戦する姿を描く物語。小林は読み書きに困難のある学習障害、ディスレクシアを抱える不良少年・柳田役で活躍。
まだ演技に粗削りなところはありますが、第1話で悔しい想いをしてきた過去を号泣しながら打ち明けるシーンは凄まじい迫力で、もらい泣きした視聴者も多いはず。全10話を通して、成長する柳田を見事に演じきりました。
◆見上愛/『光る君へ』『マイダイアリー』
同じく“成長する姿”が印象的だったのは、NHK大河ドラマ『光る君へ』で、幼くして一条天皇(塩野瑛久)に入内した彰子を演じた見上愛。これまでも存在感のある女優さんとして注目していたのですが、彰子として初登場した際の“覇気のなさ”にはびっくり! 同じく一条天皇の妻である中宮・定子(高畑充希)との対比を意識したのか、目に全く力のない表情はインパクトがありました。
女房・藤式部(吉高由里子)の影響もあり徐々に心の内を表すようになり、一条天皇へ「お上、お慕いしております」と涙ながらに告白したシーンでは、こちらももらい泣き。強く美しく成長する姿に、心打たれた視聴者も多いはず。
一方で、『光る君へ』と同じ日曜放送のドラマ『マイダイアリー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)では、主人公・優希(清原果耶)の友人・愛莉として、大学生役を瑞々しく演じています。幼い頃から「“好き”って気持ちがよく分からない」と思っていた彼女が、優希に対して抱かずにはいられない未知の感情に戸惑う——という、実に繊細な心の機微を見事に表現しています。
◆池田エライザ『海に眠るダイヤモンド』
演技が激ウマな人ばっかりが登場する日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)で、あえて触れたいのが池田エライザです。豪華キャストたちに全く引けを取らない存在感を放つ池田が演じるのは、物語の舞台となる端島に突如として現れた謎多き美女・リナ。
ミステリアスな雰囲気を醸し出していたかと思えば、過去に怯えたり、少女のように恋をしたりと、彼女の人生は目まぐるしく動いていきます。そんな激動の人生を懸命に生きる姿には、同じ女性として共感してしまいます。リナの幸せを願わずにはいられないのは、池田の演技力あってこそ。
池田は今年NHK BSで放送されたドラマ『舟を編む 〜私、辞書つくります』では、主演を務めていました。本作は三浦しをんの大ベストセラー小説『舟を編む』の連続ドラマ化作品で、誇りと情熱をもって辞書作りに邁進していく主人公・みどりの演技も素晴らしかったです。
◆田中圭/『わたしの宝物』
触れずにはいられないのは、「托卵」をテーマにヒリヒリした展開がずっと続いていたドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系)の田中圭。主人公・美羽(松本若菜)が不倫で身ごもった子どもを、そうとは知らないまま自分の子として育てる夫・宏樹を演じました。
もちろん田中圭がいい俳優であることは周知の事実ですが、本作では特に、目まぐるしい感情の振れ幅をひとりの役で表現する力が圧倒的。第1話はすんごいダメなモラハラ夫(筆者個人的には、好きな田中圭)で、妻の妊娠を知った2話でも「父親の役目はできない」と言い放ち育児しない宣言をしたのに、同話のラストでは娘・栞の誕生に感動して号泣。DNA鑑定で栞が自分の子ではないと分かれば、茫然自失で海に入るし。
結局、残念な夫だったのは第1話だけ。実に解像度の高いサレ夫を見せてくれました。このドラマでは宏樹以外のみんながあまりに自由だし、勝手だし……決して清廉潔白ではないけれど、個人的には「もはや田中圭にしか感情移入できない状態」でした。
◆安達祐実/『3000万』
そして今クール一番の熱演で視聴者を魅了したのは、NHK土曜ドラマ『3000万』の主人公を演じた安達祐実ではないでしょうか。1994年、1995年のドラマ『家なき子』(日本テレビ系)の「同情するなら金をくれ!」から30年、今度は3000万円をめぐるクライムサスペンスで、“ごく普通の主婦”を演じました。
家のローンや子どもの教育費でお金の心配が尽きない、安達祐実演じる妻・祐子と、夫の義光(青木崇高)が、交通事故の相手がもっていた3000万円をネコババしたことから物語は幕を開けます。
普通の夫婦が、目の前の大金に翻弄されて泥沼に引きずり込まれていく様子には最初から最後までハラハラさせられ、見応えのある作品でした。追い込まれていく恐怖や興奮、怒りや焦りなど感情の乱高下が著しかった主人公を、凄まじいリアリティで演じ切った安達。鬼気迫る彼女の表情が、人間の欲を何よりも象徴していました。
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この秋クールのドラマが良作ばかりだったのは、俳優陣の演技があってこそ! 最終回まで、楽しませてくれそうです。
<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>
【鈴木まこと】
雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201