12月22日に開催された「M−1グランプリ2024」は、令和ロマンの大会史上初の2連覇という快挙とともに幕をおろした。
M−1といえば、ファイナルを競う芸人たちのネタがもちろん主役ではあるが、例年その審査員たちの審査ぶりにも注目が集まることが多い。
昨年までの流れとしては、松本人志が出場芸人たちのネタをどう見たかといったことも大きなポイントだった。時にはその点数で視聴者の反感や疑問が生まれたり、振れ幅や好みの強い採点で運命が大きく変わることもあった。
上沼恵美子のマジカルラブリー野田との掛け合いや、予測のつかない採点を繰り広げ話題を集めた山田邦子などは記憶に残っているのではないだろうか。審査員の評価もまた、M−1の大きな注目ポイントだ。
松本人志不在となる今回のM−1審査員には、新たにアンタッチャブル柴田、笑い飯哲夫、NONSTYLE石田、オードリー若林、そしてかまいたち山内という5人が新たに加わり、昨年までの7名体制から9名体制にパワーアップしての布陣で挑むこととなった。
昭和の時代から第一線で活躍するいわゆる「大御所」的なベテランが存在しないことも大きな変化で、若返り感が印象深いが、この布陣での審査ぶりはどうだっただろうか。
◆M−1経験者中心に集められた審査員
「全体の印象としては、全く問題も違和感もなく見ることができたのではないでしょうか」
と、人気バラエティや情報番組を担当する放送作家は感想をのべる。
「松本さんが出られないということで、今回の審査員はほとんどがM−1経験者ということになりました。そのため、審査する側もM−1という大会がどういうものなのかを知り尽くした顔ぶれによる審査になったというところが大きな違いでしょうか。
出場資格が結成15年以内という縛りもあるため、後輩が先輩を採点するようなねじれも起こらず、見てて安心感がある気がします」(同)
◆それぞれの「面白い漫才」を基準にした見応えある審査
過去の王者を含むM−1経験者による審査の様子は、どこかフィギュアスケートなどの採点競技のような印象を受けたとも言う。
「M-1はもう完全にブランド化した大会といえます。視聴者も当然そういう目で見ながら、誰が一番面白いか、どこかお茶の間審査員のような感覚で見ている人も多いと思います。
バラエティ番組としてというよりも、競技として見ている。
それだけに、今回の審査員は好みというよりもそれぞれに『漫才』というものをどうとらえているかという基準のようなものをしっかり持っていて、それぞれの基準に沿って審査をしているように見えました。
さきほど言ったように、M−1を経験している顔ぶれですので、4分間という時間をどう面白く盛り上げるかという大変さを知ったうえでの審査は見応えありました。
審査員の色が強く出ず、あくまでも審査員ということにみなさん徹していたように見えました」
◆印象的だったNONSTYLE石田のトム・ブラウン評
その『漫才』という基準での採点のなか、特に印象的だったというのがNONSTYLE石田のトム・ブラウン評だった。
「『普通の漫才で笑えなくなった人を救済するための漫才』というものです。これに疑問を抱いた人もいたかもしれませんが、石田さんの漫才があって、そのうえでのトム・ブラウンの漫才をどう位置づけているか、的確なコメントだったと思います」
前述のように、今回はレジェンド格のベテランが審査員として姿を消したことになる。
たとえば真空ジェシカの高得点は、審査員陣の若返りによるものという感想をもった視聴者も一定数存在したようだが、もしレジェンド枠の審査員がいたら、結果は変わっていただろうか。そうたずねると、
「それはなかったと思います」
と答えた。
「真空ジェシカの1本目は、完全に老若男女が笑えるようなものへとバージョンアップしていました。
ですから、世代の上のレジェンドが見ても、絶対に面白いと評価されたはずではないでしょうか。ただ決勝の2本目で尖ったネタをぶっ込んで、結果的には1票しか入らないものとなりましたが(笑)」
◆M-1のカギを握る審査員の布陣
今回従来の7人から9人への増枠の理由は松本人志不在と関係あるのだろうか。
「それはある気がします。同じ人数で入れ替えの場合、この人が松本さんの代わり、後継者なのかという目で見られてしまうと思うので、人数を増やすことでパワーアップ感を演出することにつながった気がします。
もちろん第20回という記念の大会であることも理由として考えられますので、次回からまた7人に戻るかもしれませんが」
ともあれ令和ロマンのV2達成で新たな時代を迎えたM−1グランプリ。早くも来年の流れが気になるところだが、それもまた、審査員の布陣が鍵を握ることは間違いない。
破天荒なレジェンドの存在をまた見たい声が多く上がれば、レジェンド復活だってありえるかもしれない。
「おそらく今回から新しいM−1の審査の流れができた気がします」
大会経験者による審査、これが最も求められるものなのだろう。
<文・太田サトル>
【太田サトル】
ライター・編集・インタビュアー・アイドルウォッチャー(男女とも)。ウェブや雑誌などでエンタメ系記事やインタビューなどを主に執筆。