テレビ東京が半世紀以上にわたって大みそかに放送する恒例特番『年忘れにっぽんの歌』(後4:00〜10:00)が、今年も6時間にわたって放送される。1968年の放送開始から57回目を迎える番組には、キャリア60年以上の大ベテランからこれからの演歌歌謡を担う若手歌手まで豪華61組の歌手が出演し、名曲の数々を熱唱する。2001年から24年連続で司会を務めるフリーアナウンサーの徳光和夫に『年忘れにっぽんの歌』の魅力と、今年の見どころを聞く。
【写真】“紅白”の裏で24年連続『年忘れにっぽんの歌』司会を務める徳光和夫■『紅白』の裏で24年連続司会は「誇り」
――2001年から24年連続で、今年も『年忘れにっぽんの歌』の司会を務める心境からお聞かせいただけますか。
【徳光】僕は83歳なんですけれども、現役でこうして働けているのは、まさに『年忘れにっぽんの歌』があるからだと思うんです。1年を司会業、アナウンスメントで締めくくれるのはこの番組があるからこそ。気持ちはリラックスさせながら、ある程度いい緊張感で司会に臨みますが、『年忘れにっぽんの歌』だけは、ちょっと他の仕事とは違うかなという感じです。
10月くらいになりますとね、「いよいよ『年忘れ』だな」「今年はどういうメンバーなんだろう」「こういう歌手も出してもらいたいよね」というような話をスタッフとし始めるんです。アナウンス生活、MC生活の中でも特別な番組です。多くの歌手の皆さんはおそらく『NHK紅白歌合戦』を目指していらっしゃると思うんですが、僕は大みそかに紅白の裏で歌番組の司会ができているということに対しまして、自己満足もさることながら、MCとしては誇りを持っております。
――司会は今年も竹下景子さん、中山秀征さんとのタッグとなりますが、安心感もありますでしょうか。
【徳光】ありますね。いいトリオになったなと思います。一年に一度、この3人で会って歌の話をするのは楽しいです。歌手の皆さんが歌っているときや打ち合わせのときにも、3人そろったときには“お互いにいい雰囲気作りをしよう”ということは暗黙の了解のもとにできているんじゃないかなと思いますね。だからスッと入り込めます。
■出演者全員に手紙を書いていた生放送時代
――『年忘れにっぽんの歌』の司会として心がけていらっしゃることをお聞かせください。
【徳光】やはり歌手の皆さんが歌いやすいようにというのが一番です。あとは、ヒット曲があればあるほど、同じ曲を何回も歌われると思うのですが、視聴者の方々は「この歌は一年に一度は聴きたい」という気持ちで番組をご覧になると思うんです。ですから、MCとしては新鮮な気持ちでご自分のヒット曲を取り組んでもらえるように持っていかなければとの思いから、そんな話を歌唱前にしたりすることはあります。
今はもう収録(2015年〜)になってしまったんですが、生放送の頃には、出場歌手の皆さん全員に手紙を書いていました。「大みそかにぜひ一つ、あなたの歌声で一年を締めくくらせてください」という趣旨の手紙を全員に送りまして、それに対しての反響もあったりしてうれしかったですね。
生放送時代の歌手の皆さんもまだ半数以上残ってらっしゃるので、「手紙やめちゃったんですか」と言われることもあるんですけれども、生放送と収録ではまた違いますからね。そういう意味ではちょっと残念な部分もありますが、ディレクター精神としましては、より良いものをより良く見せるような番組を作って、大みそかにお届けするのもありだなと思いますね。会場に来てくださっているお客様にも「ぜひ一つ、いい大みそかを一緒に作ってください」とアナウンスして、番組を一緒に作るというような精神で臨んでいます。
■演歌歌謡 次世代の歌手たちは“時代の架け橋”
――今年は、新浜レオン、真田ナオキ、辰巳ゆうと、青山新、田中あいみといった20〜30代の若手歌手が新たにラインナップされました。現場の雰囲気の変化などは感じられますか。
【徳光】演歌の第7世代ですね。やっぱり若い人たちが入りますと、本当に雰囲気がイキイキする感じがします。番組を観てくださる方々は、本人の歌もさることながら、往年のヒットソングも楽しみにしてくれていると思うんですよね。ですから、先輩たちが作った、先輩たちが残してくれた名曲を、若い世代が歌うのも一つの見どころ、聴きどころだと思います。
真田ナオキくんの「ダンシング・オールナイト」(もんた&ブラザーズ)もよかったですし、辰巳ゆうとくんの「箱根八里の半次郎」(氷川きよし)でお客さんの反応を見ておりましても、感心している表情が見えました。
今年ブレイクした一人でもある田中あいみちゃんは、本来であれば、つい先日『日本作詩大賞』を受賞した「TATSUYA」を選曲するところでしょうが、『年忘れにっぽんの歌』では、彼女のハスキーな歌声をどう名曲と結びつけるかというところで、堀内孝雄さんと桂銀淑さんのデュエット曲「都会の天使たち」にはめ込んだわけです。
おそらく会場の皆さんは「桂銀淑の再来だ」と受け止めてくださったのではないかと思います。あいみちゃんは気づいていないかもしれませんが、田中あいみの新たな魅力として、視聴者の皆さんも受け止めてくださるのではないかなと思うんですね。
2025年は「昭和100年」にあたる年で、先輩が築いた名唱・名曲を後世に伝えていくのも歌手としては非常に大きな役割だと思います。ヒットソングには時代背景が必ずあるわけですよね。戦火が近くなってきているときのヒット曲、好景気のときのヒット曲、アイドル全盛時代、グループサウンズ時代、ニューミュージックの時代であるとか、やっぱり歌というのは一気にタイムスリップして当時のことを思い出させてくれる役割があると思います。
そういう意味からしましても、名曲がヒットした当時を知らない世代の若手歌手が、先輩たちの名曲に取り組み、歌い継ぐことによって、視聴者の皆さんが各時代を振り返ったり、思い出が蘇ったりもするでしょうし、ある意味で“時代の架け橋”になってくれるのではないかと期待しています。
おそらくテレビ局のプロデューサー、ディレクターも、それぞれの歌手の声に合った歌を選曲しているでしょうから、若手の歌手たちは「どうしてこの曲を自分に選曲してくれたんだろう」ということをじっくりと考えて、原曲を大切にしながら披露してくれていると思います。僕は歌番組の司会を60年ぐらい続けてまいりましたが、彼らは、会話も軽妙で楽しく、歌に対しましてはプロフェッショナルだなと感じます。取り組み方がとてもすばらしいなと思いますね。
■60年以上歌い続ける歌手の“歌い様”“生き様”を刺激にして
――見どころも含めて、番組を楽しみにされている視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
【徳光】「一年に一度は聴きたい歌」は皆さんそれぞれ違うかもしれませんけれども、例えば鳥羽一郎さんの「兄弟船」、八代亜紀さんの「舟唄」、石川さゆりさんの「津軽海峡・冬景色」であるとか、名曲がおもちゃ箱のように詰まった6時間になると思います。1番は一緒に歌いながら、2番・3番はプロの歌い手さんたちの名唱に酔ってもらいたいですね。
見どころとしましては、20年以上ぶりに笹みどりさんが帰ってきてくれたことです。彼女は昭和40〜50年代に“昼メロ”ドラマの主題歌の女王と呼ばれていました。大病を患いまして復帰が危ぶまれていましたが、今回、一番なじみのある歌「下町育ち」で戻ってきてくれました。以前から「治ったらぜひ」とお伝えしていたのですが、収録では客席からひときわ大きな拍手が沸き起こりました。これは見どころ、聴きどころだと思います。そういう歌が随所にあります。
案外知られていないところでは、今回出演した歌手の中で一番芸歴が長いのが三沢あけみさんなんですよね。1963年デビューで歌手生活61年ですが、東映の姫様女優をやっていた時代からは芸歴65年くらいになります。山田太郎も同期で、61年ですかね。やっちん(田辺靖雄)は子役として4歳から歌ってたって言っていましたけど、デビューからは61年になるのかな。菅原洋一さんはレコードデビュー62年。91歳ですが、今回も本当にすてきな甘い声で歌われていました。
このように60年以上歌い続けてきた方が結構いらっしゃいます。テレビをご覧の皆さんの中には、60代や70代でも「ちょっと疲れちゃった」という方もいらっしゃるかもしれません。そういった方々には、60年以上第一線で歌い続けてきた歌手の皆さんの元気な歌声を聴いて、“歌い様”“生き様”を刺激にしていただきたいなと思います。
■『第57回年忘れにっぽんの歌』
放送日時:12月31日(火)午後4時〜10時 テレ東系
司会:徳光和夫、竹下景子、中山秀征
▼出演歌手(50音順)
青山新
秋元順子
石川さゆり
五木ひろし
伊藤咲子
大江裕
大月みやこ
大野真澄
丘みどり
梶光夫
川中美幸
北山たけし
クミコ
香西かおり
九重佑三子
伍代夏子
小林幸子
坂本冬美
笹みどり
真田ナオキ
純烈
神野美伽
菅原洋一
瀬川瑛子
千昌夫
DAIGO
田川寿美
辰巳ゆうと
田中あいみ
田辺靖雄
天童よしみ
鳥羽一郎
中村美律子
長山洋子
夏川りみ
新沼謙治
新浜レオン
早見優
原田悠里
福田こうへい
藤あや子
細川たかし
堀内孝雄
堀ちえみ
前川清
松平健
松前ひろ子
丸山圭子
三浦和人
美川憲一
三沢あけみ
水森かおり
三山ひろし
森口博子
山内惠介
山川豊
山田太郎
山本譲二
吉田兄弟
ロス・インディオス&工藤夕貴